曲順の魅力 | INClaireの音楽な日々

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内藤郁子INClaireが、音楽について日々思うことや生活の中の音楽の話を書きます
音楽のたくさんのジャンルで、壁を作らず線引きだけして、
どれも体験して、魅力の違いを比べるのがおもしろい
音楽って一曲ずつそれぞれの魅力だと思います



Chère Musique


最近、ギターのアルバムを、内容を知らずに聴く機会がありました。
素晴らしい演奏なので、プログラムを選曲のコンセプトも曲の順番も何も知らない状況でも、むしろだからこそ、楽しんで聴きました。

そしてもう終わりだなと分かったのが、一曲ごとに徐々に盛り上がってからギターの名曲といえばこれという曲を演奏して、その後にとても小さな誰でも知っている短い軽やかな曲を、さらっと演奏したからなのです。
これはコンサートでいうアンコール曲。
アルバムはそのような作り方する人が多いのではないでしょうか。 
最後から二番目にメインの曲を持ってきて、そしてその後に短い誰でも知っている曲をさらっと入れて終わる。 
どんな楽器のものでも、歌でも、ピアノでも、そしてどんなジャンルの音楽にも、この構成は多いと思います。

コンサートとアルバムは、曲順の魅力をどういうところに持ってくるのか、そして最後にアンコール曲を、ということがやはり同じだなとあらためて思いました。




曲順の決め方は人それぞれで、いろいろな考え方がありますが、中でも、時代の古い順というのが一番多いと思います。
そしてもちろんそれだけではありません。

穏やかに流れ心に染み込んでくる曲、迫力で押してくる曲、楽しくなり踊り出したくなる曲、涙が出るようなしっとりした曲。
並べ方には、盛り上がり、心の動きの波というものがあります。
その演奏者が どのタイプの盛り上がりの波の並べ方が好きなのか。
徐々に激しくなってくる流れが好きな人もいるでしょうし、私は途中にも一度盛り上がりがある順番が好きです。
そのような波で曲順を決めるということもあります。


他には例えば、その音楽家が演奏者なだけではなく音楽研究も専門でやっている人の場合。
私の身近には何人もいます。 
その時期、その何年かに研究や勉強をしている作曲家について勉強していますということを、ある程度決めて活動していることが多いのです。
そのような人は、その時期に一番深く研究している作曲家の作品を最後に、アンコール曲の前に持ってきます。
研究の深い方が後になるという感じで並べるのでしょう。 


作曲家の生まれたところ、活躍した土地を、地球全体、ヨーロッパ内、アジア内、アメリカ大陸内などいろいろな範囲で、 西から東へ、東から西へと移動してくる、というおもしろい曲順を聞いたこともあります。


ですが一番多いのは、やはり時の流れに沿う時代順ではないでしょうか。
時の流れというのは、音楽の在りようと同じです。
時代による奏法の違いはとても大切なことで、そして聴き分けるというほうもとても大切です。
その時代順ということを強く意識をして、私の主催する二年に一度の生徒さんの演奏会の曲順を作っています。 



演奏家にとってプログラムを作るということはとても大切なことで、聴く人の心をどういうふうに動かすかということなのです。
ですから聴く方の方々もそのような知識があって聴くと楽しいですし、知識がなくてもカンで「もしかしたらこれは古い順?」などと解る方もいて、そういうかたは素晴らしいと思います。 
その違いを味わえる、違いを楽しめるというのは、聴く方にとってとても楽しいことではないでしょうか。

私の歌のコンサートでも、 前半の主にクラシック音楽が多い部では、 例えばヨーロッパの歌曲などが何曲か並んだ時には、やはり時代順になるように並べます。



時代順でもどちらかというと、古い作品から順に並んでいるアルバムやコンサートがとても多い。
それがどうしてなのかというところが興味深いです。
聴き方ということもあると思うのです。 
無心に楽しんで聴いているときに、古い順に徐々に新しくなってくる感じですと、とても心地良いことがある。

私が一番思うのは、作品が今の自分の生活や今の自分という人間から遠いところのものから始まって、 「こんな音楽もあったんだな、素敵だな」と、自分とかけ離れたものを味わい、それが一曲聴くごとに少しづつ今の自分に近づいてくるという流れは、心地良いのです。

もちろん、逆の魅力ということもあるでしょう。
一番現実に近い、想像力を働かせなくても聴くことができる身近な音楽から始まって、だんだんと時代が遡ってゆき、自分から遠いところに行く。
時の流れに逆行していくおもしろさというものも、もちろんあると思います。 
それは自分から「遠ざかってゆく」のですよね。

どちらかというと、遠ざかるよりも近づいてくる方が、 すべて聴き終わったあとに、現実の自分に戻ることが無理なくできます。
何かひとつ大きな隔たりを超えて無理やり戻ってくるのではなく、自然に。 

遠ざかるか近づくか。
どちらも良いとは思います。
遠くからだんだん近づいてくるふうに並べる方が多いですね。



曲の順番では何が大切なのか、どこに魅力があるのか、ということを考え始めると、興味深いです。

Musique, Elle a des ailes.