iPhoneには、写真をモノクロにする機能が付いている。
どんなに下手くそな写真でもモノクロにすると一気にドラマチックになる。
地球は太陽の光によってモノが様々な色で見える。
敢えて白黒だけの世界にすると、脳がまったく別の感覚になる。
さあ、それは一体どうしてか。
私の答えは「想像力」。
モノクロは、色が白と黒あるいはグレーしかない分、実際とはちがう。
本当はどんな色をしているんだろう、どんなふうなんだろう、
と想像したくなって脳みそが刺激される。
モノクロ写真には、余白がある。だから面白い。
私は能を習っている。
能は、舞台装置がほぼゼロである。
背景に松の絵、そして手で運べるくらいの道具が時折出て来る程度。
歌舞伎のように、時間と場所を自動的に示してくれる大道具は、一切ない。
しかし、能も演劇だから場面設定があり、また、場面転換もある。
それをどうやって表すのか。
俳優も観客も「想像する」のである。
想像しながら演じ、観る。
余白だらけの空間を、自分の脳で自在に埋めていく。
だから能は面白く、深い。
能は、やる側も、また、観る側も、想像力をプラスして舞台を創るのだ。
スピーチプレゼンの肝も、実は、聞き手に想像させることにある。
こんな商品があったらあなたの人生どんなにおもしろくなると思いますか、
こんな商品を手にしたら、いつもの苦労が消えます、
それはどれほど楽しいことでしょうか、
提供するサービスを手にして享受したときの喜びや快適さは
いくら話し手が口で言ったとしても、
また、プレゼン資料に映像が出て来たとしても、表現しきれるものではない。
だからこそ、
どうぞみなさん、想像してみてください!
と伝える。
そのためにはまず、話し手が想像しないことには始まらない。
そして、聞き手が想像できるよう、想像したくなるよう、伝え続ける。
情報を単に述べるのではなく、聞き手に限りない想像の世界を提供する。
これが話し手に課されている最大のミッション。
スピーチプレゼンは上手く話すことが大切なのではない。
想像すること。
今、ここ、この瞬間にしか生きることが出来ない生命体に許された
終わることのない自由。
想像しよう。
妄想でもいいから。
そうすれば、ひとを動かす話し手になれる。
森 裕喜子