VocalReview「母は僕を生んだ」(東大寺 音舞台より)

 

このステージを観て、ああ、本当に城田優には大きな舞台が似合うと思った。

東大寺の荘厳で静かな佇まいの中に彼は一人で立っていた。

この人のピンと伸びた長身が、この舞台にはよく似合う。

 

今までTVの音楽番組やCDで聴いてきた彼の歌とはこのステージの彼の歌声は全く違うものだった。

歌声の分析から言えば、彼の低音部を今回、私はハッキリ認識した。

低音部は非常に太く、見事に胸に響いたチェストボイスの歌声だった。

それに対して、中音域からは、ミックスボイスのミドルボイス。ブレス音が混じった透明的な歌声だ。そして高音部になるに従い、上あごの前歯の歯列に響きが綺麗に当てられていく。さらに高音部になれば、綺麗なヘッドボイスに転換される。

彼の歌声は、こんなに様々な色合いを持っていたのだとあらためて認識した。

いつもマイクを通しての歌番組で、彼はここまで自分を主張して歌ってきただろうか。

東大寺という大きな空間で、彼は伸び伸びと自分の歌というものを表現していた。

大きな空間に誘われるように、自分の歌声を遠くまで届けるように、肉体とブレスを余すことなく使って表現しきっていた。

 

この曲は、非常にテンポの揺れる曲でもある。

冒頭から始まる語りから始まる部分の彼は、非常に落ち着いたテンポ感で歌っている。

フレーズのインターバルを十分に取って、ひと言ひと言を丁寧に聴衆に伝えるように歌っている。

展開部の低音から始まるロングフレーズでは、豊富なブレスを使って情感を込めてたっぷりとゆっくりと歌う。

最後のクライマックスへと進んでいくフレーズでは、緩急をつけながら、情感を込めてエネルギッシュに歌い上げていく。それは一気に進行するのではなく、これでもか、これでもかと繰り返される同じフレーズに対して、彼の歌声は何度も何度も声量をバージョンアップして、最終音へと進んでいく。最後の歌声は、非常に重厚で充実した響きだ。

 

 

今まで彼のreviewをいくつも書いてきたが、よく考えてみれば、私は彼のステージを見たことがない。

いつもカメラの小さい画面に収まった彼の歌声と姿しか観ていなかったし、誰かとデュエットしていることが多く、彼本来のスケールの大きさを感じる映像を観てはいなかったのだと気づいた。

 

 

東大寺の大きな空間は、彼によく合っている。

何も遮るもののない空間は、歌声がどこまでもどこまでも広がって伸びていく世界だ。

長い歴史の荘厳さの中に身を置けば、歌手は自然と背筋が伸びる。

小手先の誤魔化しなど長い歴史の前では通用しない。

ここは本物だけが存在を許された世界だ。

 

そんな空間に城田優はよく似合っていた。

 

彼の生舞台を観るのがとても待ち遠しい。