平原綾香のデビュー曲「Jupiter」は、クラシックの楽曲に歌をつけて歌うという斬新なアイデアが意外だった。しかし、彼女の歌は決して上手いとは思わなかった。確かに音程が広く、高音域から低音域までを歌える女性歌手は少ない。が、彼女の歌声は成熟したものではなく、あちこちの声域で響きになっていなかった。そんな印象もあって、私は長く彼女の歌を聴かなかった。

しかし、この数年、彼女は歌手として目覚ましい進化を遂げている。ミュージカルにも挑戦し、新境地を開いた。また、クラシックの曲を多くカバーし、彼女独自の世界を築き上げている。

「歌をやめようと思った。自分は歌が下手だと思った。どうしてこんなに下手なのかと思って、人前で歌うのがずっと嫌だった」

そういう彼女は、今、歌手としての自覚にあふれ、喉を守るのに非常にストイックな管理をするので有名でもある。

その自覚がある限り、彼女は長くこれからも美声を保ち続けるだろう。

今、彼女の発声を聴く限り、どんなジャンルの歌でも歌いこなせるだけのテクニックを身につけていると感じる。

Jupiterから、15年。彼女は進化し続けてきた。

彼女の歌手としての進化を初期の曲から取り上げて紐解いていきたいと思う。