以前、需要予測の統計学的手法として、重回帰分析について述べましたが、今回は重回帰分析の応用編です。


需要予測を行う場合、「普及率」を予測し、普及率×(人口、世帯数など)=普及数量 を推計する方法があります。これは耐久消費財などの需要予測を行う場合に使われる方法です。

一般的に耐久消費財の普及率は下記のような曲線になると考えられます。


ヴァリューマネジメント-経営のヒント--成長曲線1
普及率など、「徐々に増加していき、最終的には、飽和する」という状態をグラフ化したものを「成長曲線」と言いますが、成長曲線も1つのパターンだけではなくいろいろなケースが考えられます。

例えば下の図のようなケースです。


ヴァリューマネジメント-経営のヒント--成長曲線2


このようにいろいろな成長曲線が考えられるのですが、本稿では、最も一般的な成長曲線 (と私は思っている) であるロジスティック曲線について解説します。

ロジスティック曲線は、先ほどの最初のグラフのように、


じわじわと普及⇒あるとき普及に拍車がかかる⇒普及率の増加が下降に転じる(スピードが鈍る)
⇒普及が飽和状態に達する


というカーブのことを言います。

これを数式で表すと次のような式になります。これを一般化ロジスティック曲線といいます。


ヴァリューマネジメント-経営のヒント--ロジスティック曲線1

ここで、tは時間軸、α、β、δ、ε、ηは定数、X1X2X3X4は説明変数、γは飽和点(普及率で言えば飽和した時点の普及率)、eは自然対数の底(数字で表現すると、2.71828182845904・・・・・)です。

ちなみに α-βX1-δX2-εX3-ηX4 はいくつでも追加することができます。

さて、なぜこのような式で表せるのか、詳しい解説は数学の専門書にお任せすることにして、この式をちょっと変形してみます。


ヴァリューマネジメント-経営のヒント--ロジスティック曲線2

これで、両辺の対数をとれば、



ヴァリューマネジメント-経営のヒント--ロジスティック曲線3

となります。この式の右辺の形を見ると、以前説明した「重回帰式」になっています

1995年ごろ、私はこの指揮を用いて携帯電話の普及台数の予測を行ったことがあります。94年に携帯電話の端末売り切り制度が導入され、少しずつ形態が普及し始めていたころです。

私が作成した数式は、


ヴァリューマネジメント-経営のヒント--ロジスティック曲線4

という式において、説明変数を下記のように設計しました。


X1;携帯電話事業開始からの月数(87年4月=1)

X2;加入時コスト=加入料+事務手数料(対可処分所得比)   ※当時は加入料が存在した

X3;平均端末価格(対可処分所得比)

4;携帯電話会社の延べカバー人口

5;平均通話料金(3分間の通話料金)

X6;平均基本料金(対可処分所得比)

α、β、δ、γ・・・・などは定数ですが、これの公開はご勘弁下さい。

この推計式を設計するには、過去の携帯電話会社各社の実績(加入件数の推移、料金体系の推移等)を調査し、そのデータに基づいて、重回帰式を作成し、それを更に一般化ロジスティック曲線の式に展開する方法をとります。

さて、当時の予測としては2003年に6,0006,500万台まで普及する、というものでした。

固定電話の台数を超えるという推計結果だったので、当時のクライアントからは半信半疑の受け止め方をされたと記憶しています。

予測結果は、途中までは当たっていたのですが、2001年ごろから増加が失速すると推計していたところ、実績としては、それ以降も伸び続け、2003年末には8,000万台、今や1.2億台を突破しています。

予測が外れた敗因としては、当時は子供の加入に制限があったため、子供への普及が想定できなかったことと、今のように1人で複数台数を所有する、といった想定ができなかったこと、iモードのような普及を促進するサービスの出現が想定できなかったことです。

このように、想定困難な事象が発生した場合には、外れてしまうこともありますが、「普及率に着目し、ストックベースの予測をする」という方法としては、有効な手段だと思います。

またストックベースの予測ができれば、買換え需要を想定すれば、フローの需要推計も可能となります。