白魚の吸い物。子ら巣立だち、老夫婦の晩年/「春雨の夜」 永井荷風 | 女優・朗読家 長浜奈津子*朗読空間

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「この白魚は大変うまい。おかわりを貰おうか。」
「どうぞ、沢山御座いますから。」
と老妻は給仕に座っている女中を見返って、「掻き回すと中のものが崩れますから丁寧によそっておいでなさい。」
「先代も晩年には白魚と豆腐がお好きであったな。老人になると皆そういうものかな。」

老人はそのなき父と母を思出す瞬間だけ老人はおのれの年齢を忘れて俄に子供になったような何ともいえぬ優しい心になる。けれどもそれは全くその瞬間のことだけのことである。老人はもう六十九、其の妻は五十九になった。



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1月19日(日) 市川市文学ミュージアム2F、ベルホールにて行われる「長浜奈津子ひとり語り」演目のひとつ「春雨の夜」の一節です。

一番末の男の子、虎雄は今朝米国へ留学に行った。昨日の夜まで、茶の間の膳は三つあったが、今夜からは二つ。夫婦は二人きりの暮らしになった、そんな夜のお話です。

印象深いのは、白魚の吸い物です。

白魚といえば、江戸の春をはこぶ風物詩。
<昔は隅田川にも姿をあらわせたのだそうですね>

白魚のかたちをきれいに碗に浮かべるには
丁寧な下ごしらえがいるのだそうです。

そういう手間のまめやかさをおもう、ひと碗です。






子どもたちが皆巣立ってゆき、老夫婦は二人きりになります。
がらんとした茶の間。寂しく穏やかな夜に、春の雨がしとしとと降る。
二人の晩年の暮らしの始まりを、感じます。

ごく、数頁の短編です。
なんともしみじみとした、春の宵。

___ とても語りたくなりました。

「濹東綺譚」を語る前に、「春雨の夜」をおとどけ致します。





<荷風語り、2作品 2010年 1/19 (日)>

1月19日(日)市川市文学ミュージアム2F、ベルホールに於まして、私の荷風ひとり語り「春雨の夜」「濹東綺譚」を上演いたします。詳細はこちらです。ぜひお越しくださいませ。午前11時開演、入場は無料、先着46名様迄。⇨「長浜奈津子 永井荷風ひとり語りの公演詳細」



「永井荷風と谷崎潤一郎展」の最終日です。
ひとり語り公演ご鑑賞の後は、是非こちらをお楽しみ下さい。

 

 

 

 

 

 

 

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