王宮からヒジェさんの待ち人来たる——
その日の午後、叔母様とドンジュが揃って家にやって来た。
「ヒョーーーンっ!!!」
ドンジュが、ヒジェさんを見るなり飛びつく勢いで。
「おぅ、ドンジュャ。そうしてっと、随分と立派に見えるな。元気そうで良かったぜ」
「うん、ヒョン…会いたかったよ……ヒョンも元気そうで安心した……えへへ」
大きなヒジェさんが、小さなドンジュと目線を合わせて、その肩をポンポンと撫でている。
泣き笑いの体で、嬉しそうなドンジュ……
目の前の温かい光景に、私の胸の奥から目の奥から、じわじわと……
すっかり涙脆くなったわね、私も。年のせいかしら。
普段のドンジュは、小柄で華奢…でも賢さと落ち着きがあって、22歳とは思えないほど大人びて見えるのに。
今日だって鎧姿ではないけど、ブルー系のシュッとしたコーディネートで、なかなかの男前よ。
だけど、大好きなヒジェさんの前では、すっかり子どもに戻っちゃうのね。ふふふ、可愛い。
「あっ、チェ尚宮様!」
感動の再会を、にこやかに見守っていた叔母様へ、ヒジェさんが、ピッと背筋を伸ばしてから頭を下げた。
「ヒジェャ。久しぶりだのう。元気そうで何よりだ」
「チェ尚宮様もお元気で良かったです。ご無沙汰してすみません。ドンジュが世話になって、ありがとうございます」
「なんの。ドンジュは私の孫も同然。同じ都に居てくれて嬉しいのだ。お前には淋しい事だろうがな」
「へへ……そりゃ、まぁ何て言うか……」
「叔母様、ドンジュも。暑いから中へ入りましょ」
「おお、そうだな。ヒジェャ、中でゆっくり話すとしよう。美味い茶でも馳走になりながらな。頼むよ、スンオク。喉がカラカラだ」
叔母様が、出迎えのスンオクに笑顔でそうおっしゃって、スンオクも「かしこまりました」と、微笑んで会釈を返す。
それから叔母様は、ソニに抱っこされているタムへ……今日一番の蕩けるような笑みで、手を差し出すと、
「タムァ〜、ばぁばが来たぞ。ほれ、おいで〜……おおぉ、昨日より重くなったのではないか?大きゅうなって、タムは良い子だのぅ……ん、そうか、そうか…」
タムに、髪や顔をベタベタ触られてもお構いなし。叔母様は蕩けたままタムを抱いて、あれこれ話しかけながら、誰よりも先に行ってしまった。
「ははぁ……チェ尚宮様のタムへの溺愛ぶりは、ドンジュから聞いてはいたけどよ……」
「ふふ、あんな可愛い叔母様、見た事ないでしょ?」
「ああ、無ぇ。驚いた」
「ねー」
「チェ尚宮様、とってもお幸せそうです」
「そうね。さ、私達も行きましょ!」
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その日は、賑やかなランチタイムになった。
ヒジェさん…ヨンと一緒にいる時とは違う、父性愛ダダ漏れな顔して。何よりドンジュが、すっかり子どもの顔で——
叔母様は、やんちゃ極まりないタム相手に、「これ、タムァ。いつまでも遊んでおるものではないぞ。しっかり食べて、このチェ家を盛り立てておくれ。この婆ぁが元気なうちにな」
すると、それを見たヒジェさんとドンジュが、
「それなら大丈夫でしょう。チェ尚宮様はまだまだお元気だ。ひ孫の顔も、見られるんじゃねぇですかね」
「そうですよ!お元気でいてくださらなくちゃ」
「おやまぁ、そうかい。ひ孫とまではいかなくても、ドンジュの子の顔くらいは見ないと……
いや、その前にヒジェ。お前の子に会わせてもらわねばな」
「——え? 俺ですか?」
思いがけず自分に降りかかってきた話に、ヒジェさんが箸を止めて瞬きする。
うふふ〜 他人のこういう話、大好き。
「そうとも。ヨンもようやく人の親になったのだ。お前もそろそろどうだ?」
「あら、ヒジェさん、いい話があるの??」
「いや、ある訳無ぇ。いいんですよ、俺ァ。ドンジュが息子みたいなモンですから」
「息子って…無理があるわよ、ヒジェさん」
「いいんだよ。俺ァこんな顔だから……女は皆んな、怖がって寄って来ねぇし。寄ってくんのは、蜂か熊ぐらいなモンだ」
「おや、そりゃ大したもんだ。蜂にしろ熊にしろ、銭になるじゃないか。稼げる男はいいぞ。世の女どもは、何処に目をつけておるのだろうね」
「ははは!言われてみりゃあ、そうですね。はは、さすがはチェ尚宮様だ」
「確かに、皆んな人を見る目が無さすぎると思います。ヒジェヒョンほど、優しい人はそうそういないのに」
「おぅ、やめろよ、ドンジュ。くすぐってぇ」
「オレが女だったら、絶対ヒョンと結っ」
「わーーー!気持ち悪ぃこと言うんじゃねぇ!」
「あー!うー!だー!」
タムも混じって、笑い声の絶えないランチが終わり、聞けば、ドンジュは今晩泊まっていけるという。
じゃあ、今晩にでも皆んなでマンボ姐さんのお店に……と言うと、叔母様が、
「私は王宮へ戻るよ。ヒジェの顔は見たし、王妃様の御用がある故な」
「そうですか……残念」
「その前に……ウンス。ちと、良いか?」
叔母様が私に目配せをして、部屋の外へ出て行かれた。
ソニにその場を頼み、私も後を追うと、
「……静かに話をしたいのだがな」
叔母様の思い詰めたような瞳が、私をじ…と見つめていた。