「医仙によく似ていますね。目元など特に。髪は黒黒として…大護軍似でしょうか」


タムを抱いて、王妃様が穏やかに笑う。


「子どもは両親から半分ずつもらうんですよ。目に見える外側だけじゃなく、体の中…体質や性格なんかも。全部合わせて半分ずつ」

「そうなのですか?ではタムは、大護軍のように、真っ直ぐで一途な性格なのでしょうか?」

「あ〜、もの凄く無茶しそう……ちょっと心配ですね」

「無茶をするのは、大護軍だけではないのでは?」

「まぁ、王妃様ったら」

「フフフ。王様にも早くタムを会わせてさしあげたいですが、おそらくまだご政務中でしょう。医仙、お訪ねするまで、お茶でも飲みながら待ちませんか?」

「賛成です。ちょっと小腹も空いてきましたし」

「これ、ウンスっ」


叔母様に嗜められながらも通常運転、楽しい女子会(タムは特別参加)が始まった。


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「医仙。わたくしがなかなか身籠れぬので、心配でしょう。チェ尚宮も」


皆んなの気持ちを解くように、王妃様が深い部分をさらりと口にされた。


「昨年懐妊した折、わたくし自身はもちろん、王様も皆(みな)も大層喜んだというのに、年を越せなかった……わたくしの身体が、まだ間に合うていない、という事なのでしょう」


王妃様が、目線を落として、溜め息混じりにおっしゃる。



徳興君からの薬害もあったけれど、もともとお身体が強くはない王妃様。代謝が悪く冷えやすい……食も細くていらっしゃるから、余計そうなるのよね。


そうそう、夫婦は似てくるっていうけど、王様もそうなのよ。普段からあまり召し上がらない上に、ストレスはてんこ盛り。


ユン先生や調理場とも相談して、毒見も必要だけど、なるべく温かいものを食べていただけるように……工夫して調理してもらっている。


それに、1人で食べるより誰かと…心を許せる大好きな人と食べるのが、何よりのご馳走よ。

だから、王様と王妃様、お2人で食卓を囲む事を、意識して増やしてもらった。

そしたら、格段にお2人とも召し上がる量が増えたのよ〜!


……だからといって、すぐおめでたい話になるとは限らないんだけど。


体質改善は今日明日で出来る事じゃないから。長いスパンで見ていかなくちゃ……



「——王妃様。平熱…普段の身体の熱は、少し高めがいいんです。高すぎると身体に負担ですが、低すぎてもダメなんです。王妃様は低めでしたけど、随分と上がってきましたよ。とてもいい傾向です」

「体調が良くなったのは、わたくし自身も感じています。これからも、妊活は続けていこうと思います」

「はい、ぜひ!頑張りましょう、王妃様!」



と、そこへ部屋の外から声がかかった。


「王妃様。王様がいらっしゃいました」



えっ… ??


その場の全員が、顔を見合わせて一瞬固まった。



「まぁ、王様が?お通しせよ」



王妃様が応えると、扉が開いて、王様と、その後ろからヨンとアン・ドチさんが入って来た。


王妃様が立ち上がって、王様を迎え入れるのへ、私もそれに倣い頭を下げる。

ゆっくり顔を上げると、穏やかに微笑むヨンと目が合った。

ヨンは小さく頷くと、目線を叔母様に抱っこされているタムへ移して、更に口角を上げた。



「こちらへいらっしゃるとは……医仙と康安殿(カンアンデン)へお訪ねするつもりでしたのに……」


王妃様が蕾がほころぶように笑うのへ、王様は嬉しげに笑みを返し、


「政務が一段落したのだ。其方たちを待つつもりであったのだが……待ち切れずに来てしまった。……其方がタムか。どれ、顔を見せよ」


叔母様にしがみつきながら、不躾なほど、じっ…と王様を見つめるタムへ……王様は、ゆっくりと視線を合わせ、覗き込むように顔を寄せた。

(叔母様は、恐れ入ります、王様…と、蚊の鳴くような声で呟いて固まっている)



「…うむ。しっかりとした良い顔つきだ。余をじっと見ておる……珍しいのであろうか?」

「初めて見るお顔ですもの。先ほどはわたくしも、穴が開くほど見つめられました」

「ははは、王妃もか。では、もう我らの顔を覚えたであろうか?」

「はい。覚えましたよね、タムァ」  



……目の前で繰り広げられる尊い光景に、私は胸がいっぱいになってしまって。

見れば、叔母様もヨンも……ドチさんに至っては、鼻をすすり上げて泣いている。



「タムァ…良かったわねぇ。この国の国王ご夫妻よ。素晴らしい方達にお会い出来たわね」


私がヨンの片袖を握りながらそう言うと、王妃様が、タムから私達へ目を向けて、



「医仙、大護軍。王様にも……タムを抱かせて差し上げても?」


ホァっ と、叔母様が息を吸い込む。


「もちろんです。抱いてやってください、王様。いいわよね?ヨン」

「は……余りにも畏れ多いですが」

「あ、いや、余は……泣かせてしまうやも

しれぬ故、」

「わたくしも抱かせてもらったのです。それはそれは幸せな気持ちになれました。王様も、是非に」


王妃様が満面の笑みで、様子のおかしい叔母様からタムを受け取ると、戸惑う王様の腕に収めて……



「ずっしりと重うございましょう?わたくしも始めは驚きました」

「おお、おお……まことに重い。それに、柔らかく…温(ぬく)いな——

おお、良い子だ。良い子だな、タムァ……」


王様がタムと目を合わせながら、ぎこちなくもゆらゆらと、タムを抱いた腕を舟にしてくださる。


何とも有り難い光景……でも、それよりも私の目を捉えたのは、タムを抱く王様を見つめる王妃様の瞳。


それは、穏やかで優しくて……愛しくてならないものへ向けられる目で——



ところが、王様の舟は落ち着かなかったのか、タムが、ふぇっふぇっ、とぐずり出し……遂には泣き出してしまった。



その後はもう……大慌ての王様からタムを受け取ったヨンが、縦だっこで背中をトントンしながら上下させて、見事落ち着かせるというイクメン振りを見せつけて……王様達を感心させていた。