ヨンヒョンと医仙様にお子が出来たって——
嬉しい知らせを言付かって、オレは大急ぎでチェ家を訪ねた。
安州(アンジュ)での軍事訓練を終え、トクマンさん達が帰京するのに合わせて、オレも同行させてもらい都へ来て……普段は禁軍の兵舎で寝泊まりしているけど、チェ家にお世話になる事もしばしば。
チェ尚宮様やヨンヒョン、医仙様も、「ドンジュは身内同然だから」と言ってくださって……用人の皆さんも親切で、チェ家の方々には、本当によくしてもらっている。
今日も、ギチョンさんが、「おぅ、ドンジュャ。どうした?そんなに慌てて」と、門前で声をかけてくれて。
「あら!ドンジュャ。こんな早い時間からどうしたの? ……え、お使い?」
飛び込んできたオレを認めて、ソニさん(ヌナって呼んでね、と言ってくれる)が水を飲ませてくれて。
そして「ちょっと待っててね」と、奥からスンオクさん(オンマと呼べ、と言ってくれる…)を呼んで来てくれて——
「旦那様から急ぎの御用だって?一体何……
——え?」
「えっ まぁ、本当⁈ まぁ!まぁ‼︎」
「本当だよ。オレもさっき聞いたばかりだけど、ヨンヒョンご本人の口から聞いたから」
医仙様のご懐妊を聞いた、スンオンマ達の喜びようといったら、それはもう……
「わぁ〜!!なんておめでたいの!嬉しいー! ね、オンマ!」
「ああ、本当に、本当に……———
ドンジュャ、尚宮様はご存知だろうね?」
「うん。テマンさんが伝えに行ったって」
「それなら安心だ。いろいろと手配してくださるだろう……今朝の奥様は、お元気なご様子だったが……ああ、こうしちゃいられない。
ドンジュャ、ご苦労だったね。昼餉を食べておいき。ソニャ、後を頼んだよ」
「え、オンマ、何処行くの?」
「いろいろだよ。じっとしてなどおられないからね」
そう言って、スンオンマはギチョンさん達にも声をかけながら、何人か用人を伴って、鼻息荒く出かけて行った。
見送ったソニヌナは、やれやれ…といった風に笑うと、「ちょっと待っててね、ドンジュャ」と言って、オレに膳を用意してくれた。
それを有り難くいただいていると、ヌナが向かい側に座り、ニコニコ顔で話し始める。
「実はね……もしかしたら、って思ってたのよ〜。ふふふ。ほら私、ずっと奥様のお世話をさせていただいてるでしょう。以前から懐妊された時のご様子は、想像してきたんだけど……でも実際は、その何倍も嬉しいわね!あの若様にお子が……ドンジュもそうでしょ?」
「うん。感慨無量だよ」
「いやだわ、ハラボジみたいな言い方して」
「だって……昔の、辛かった時のヒョンを知ってるから……」
「……そうよね。あんな若様はニ度と見たくないもの。今は奥様がお側にいらっしゃるから、本当に良かったわ……
ね、お子がお生まれになったら、どんな風におなりかしらね?」
奥様とお子様にべったりで、お屋敷からお出になれないんじゃないかしら?
ご出仕も出来ないかも……ああ、でもそんな事になったら、きっと奥様に叱られるわねぇ。早く稼ぎに行って、って。ふふふ……
鈴が転がるように笑うヌナに、オレも釣られて笑ってしまう。
そうだ。安州のヒジェヒョンにも知らせなきゃ——
「ヒジェヒョン?ドンジュ、お兄さんがいたの?」
「オレを拾ってくれた人。オレには、本当の兄さん以上の人なんだ。ヨンヒョンとも仲が良いんだよ。知らせを聞いたら、きっともの凄く喜ぶと思う」
「旦那様のご友人……それは早くお知らせしないとね。手紙を書く?紙と筆、用意するわね。 あ、おかわりは?」
「ありがとう。もう十分だよ。ご馳走様でした」
そう? ヌナは笑顔のまま、オレの食べ終えた膳を片付け、それから手紙を書かせてくれた。
ヒジェヒョン——
元気なのは分かってるけど。
会いたいなぁ……
知らせを聞いたら、自分の事みたいに喜んで泣くんだろうな。
見た目はゴツいけど、優しい人だから。
で、お子様が生まれたら、きっと会いに来ると思う。
“赤ん坊と医仙に会いに来たんだ。ヨンにじゃねぇ”、とか言ってさ……
楽しみだなぁ。
その後、オレが王宮へ戻った後の話だ。
スンオンマ達が何処からか戻って来ると、材木やいろいろな荷物が届いて、大工や人足が来て……
ヨンヒョンと医仙様が戻られた時には、門前の段差は板で埋められていて、登り口の階段には頑丈な手すりが付けられていたって。
そして開口一番、スンオンマに「禁酒」を言い渡された医仙様のお顔が……何ともお可愛らしかったと、ソニヌナに聞いた。
夜にはチェ尚宮様も駆けつけて、用人達も交えたささやかな宴をしたそうだ。
(もちろん、医仙様にお酒は無しで)
チェ家の誰もが、待ちに待った慶事に心躍る夜になった、って。
宿直じゃなかったら、オレも参加したかった……でも、宴の様子が容易に想像出来たから……凄く幸せな気持ちになれた。
どうか、ご無事でお生まれになりますように——
ああ、楽しみだなぁ!