そう言えば、って、後から気づく事っていろいろあるけど——


妊娠もそのひとつだったわ。


妊活を始めてから、王妃様の事はもちろん、自分の体調も気にかけていたのに。

脈だって、毎日自分でも診てたし。

生理は……もともと不規則だったから、ちょっと自信無くて。

来ない……あ、来たわ。出来てなかったのね……

来ないな。ん?本当に来ないな……アレ?  ……て、感じだったわ。


だから、もしかして…と思ってた時に、滑脈があった気がしたから——

でも、自分では確信が持てなくて、ヨンにはすぐ言えなかった。


とにかく、典医寺へ行って、トギに相談して、ユン先生に脈診してもらってから——



「確かに滑脈が出ていますよ。おめでとうございます!医仙様」


ユン先生に笑顔でそう言われた時……私、どんな顔をしてたのかしら?


側についていてくれたトギが、私の肩を、ぎゅっと抱いてくれて、(おめでとう、ウンス)と言ってくれて。

頬を拭ってもらって……自分が泣いてた事に気づいたの。


ヨンの……私とヨンの、赤ちゃん——


本当に、ここに居るのね?


私は、チマで膨らんでいるだけの、まだぺったんこのお腹に手を当てた。


本当よね?夢じゃないわよね?


私は自分でも滑脈を捉えようと、手首に指を当てて目を瞑った。


私だって医者の立場なら……止まった月経と滑脈がみられたら、「おめでたですよ」って、言うわよね?  


言うわよ。とびきりの笑顔で言うわ——



(早く大護軍に知らせてやれ。喜ぶよ)


自身の脈に集中していた私は、トギに肩を叩かれて我に返った。


そうよね。ヨンに伝えなきゃ。

自分の口から伝えたい……



「医仙っ、走っちゃダメですっ」


テマンに止められて、そうね、と苦笑いする。


ゆっくり、ゆっくりですよ、と、私の暴走を阻むテマンの手に守られるようにして、私はそわそわしながら歩き出した。


ヨン……喜んでくれるわよね?

聞いたらどんな顔するかな?

私はもうニヤニヤしちゃってるけど……


............................................................  



イムジャが俺を訪ねて迂達赤(ウダルチ)の兵舎へ来た時、俺はまだ軍議の最中だった。


居合わせたトクマンが、戻るまで2階の俺の部屋で待ってはどうか、と勧めたそうだ。

するとテマンが、「2階なんてダメだ!」と喚き、イムジャは「う〜ん…このまま下で待つわ。お邪魔かしら?」と、美しく微笑んだ……と、後にトクマンから聞いた。


俺が兵舎へ戻った時、イムジャは鍛錬場の椅子に腰掛けて隊士達の様子を眺め、手を叩いたり、声をかけたりしていた。


思いがけないイムジャの訪問に、つい口元が緩んでしまったが——


あいつら……普段からあれくらい熱の入った稽古をすればよいものを……


やたら覇気のある隊士達を忌々しく思いながら、急に訪ねてくるとは、もしや何かあったのかと心配になった俺は、足早にイムジャの元へと駆け寄った。



「あ、悪い話じゃないのよ。うん」


開口一番、イムジャは笑顔でそう言うと、貴方に伝えたい事があって…と俯いた。


2階へ行きますか?と聞くも、それはちょっと…と歯切れの悪い返事。


つ、とテマンへ目を遣るも、「に、2階はダメです!」と、やけにきっぱりと言い切るだけ……


それでは、と、隊士達に鍛錬を続けろと睨みを利かせ、俺はイムジャの肩を包むようにして、その場を離れた。



何があったのか、何処へ行こうか、あの四阿(あずまや)へでも行こうか……思案しながら共に王宮内を歩いていると、すれ違う宮人達に、会釈を返していたイムジャが不意に足を止め——


「あのね、ヨン。実はね……」


と、背伸びをして俺の耳元に顔を寄せるのへ、俺も応えて頭を下げる。


すると、イムジャが囁くように、「出来たの」と言った。


「出来た?」

「うん」


俺の耳元から離れ、頬を染め、下から掬うように見つめてくるイムジャに、俺はそのままを問うた。


「何が出来たのですか?」

「赤ちゃん」

「赤……」


「………」

「………」




何と言ったらいいのか——


こんな気持ちになったのは初めてだった。