陽だまりの人【ヨン・ウンスside】



「大護軍、医仙。おれ、トギに振られました」



王宮へ出仕する折。俺とイムジャが馬車に乗り込んだところへ、御者を務めるテマンが、俯き気味に報告してきた。



「え、振られた??どういう事、テマナ」


戸口から身を乗り出してイムジャが問うのへ、テマンは幾分すっきりした顔を向け、


「こないだ相談した…あれです。やっぱり、嫌だって言われました。その…気持ちだけでいいって」


へへへ、と眉を下げるテマンに、俺とイムジャは思わず顔を見合わせた。



「そうだったの……でも、これからも一緒に暮らすんでしょ?お互い好きあってるんだもの。ね??」



イムジャが力付けるように返すと、テマンは既にいつものテマンで、「はい、もちろんです!今までと何も変わりません」と答えた。


そして、笑顔で馬車の戸口を閉め、前に座り手綱を取ると、ゆっくり馬車を動かし始めた。



「……」

「……」


並んで馬車に揺られながら…少しの間、俺とイムジャは目を合わせて沈黙し、やがて、はぁーーー…と同時に大きく息を吐いた。



「まぁ…予想していた通りでしたね」


俺がそう言うと、イムジャもうんうんと頷いて、


「トギは元々、籍を入れる気は無い、何にも縛られず、ずっと薬草の研究をしていきたい、って言ってたもの……テマンもそれを承知の上だから、って言ってたしね」

「はい」

「トギの言う事も分かるのよ。ソウルではそういうカップルも珍しくないし。事実婚っていってね、お互い自立して認め合ってて、カッコいいと思うわ。でも、高麗(ここ)ではまだ特殊よね……」



イムジャが、目線を落として更に溜め息を吐く。



「何故貴女が気落ちしているのですか?どうするかは2人が決める事です」

「そうだけど……うん」


そうなんだけどね……


最後にはそう呟いて、イムジャは俯いて黙り込んだ。



「イムジャ?」

「……私も昔はトギに近い考えだったわ。結婚はビジネスだ、って思った事もあった。

でも、私は貴方に出会っちゃったもの。

好きな人の奥さんになる事が、こんなに良いものなんだって事……

テマンに、結婚て良いものですか?って聞かれたの。凄く良いわよ、って答えたわ。それできっと、テマンもトギにプロポーズしようと思ったのね」

「……」


「幸せの形は人それぞれなのにね。テマンとトギ、2人の形があるのに。私が残念がるのもおかしな話なんだけど、ちょっと見てみたかったなー、なんて……    え?ヨン?」



俺は、イムジャの両肩を掴むようにして抱き寄せると、そのまま、ぎゅう、と、己が胸に抱き込んだ。



「どうしたの、ヨンァ」

「そんなに良かったですか」

「え?」

「俺の妻になって、良かったと」

「あら……」



イムジャは、ふふ、と息を溢しながら、俺の胸に顔を埋め……細腕を俺の背に回し、抱き締め返して——



「もちろん。凄く、凄ーーーく、良かったわ。チェ・ヨンの妻。最高。お勧めよ」



そう言って、俺を見上げて破顔して——



「……あ、やっぱりダメ。貴方の妻は、他の女(ひと)には勧められないわ。絶対」



そう言い足して、また笑った。




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明けましておめでとうございます!

素晴らしい企画に参加出来て、いい感じに新年のスタートが切れました✨


【悋気の行方】は単発ですが、【陽だまりの人】は、当ブログで綴っているもののスピンオフになってしまったので、未読の方々には申し訳ありませんが…『家族』というお題で書いてみたかったお話が出来ました。


でんべ様、今年も参加させていただき、ありがとうございました♡


皆さま、今年もどうぞよろしくお願いいたします‼️



ビビ