陽だまりの人【トギside・後編】
——家族、か。
私もテマンも身寄りは無く、長いことずっと1人で生きてきた。
それでも、特に辛いとか困った事は無かった。
テマンには大護軍が、私にはチャン先生がいたし。
淋しいとか、そんな事を思ってる暇も無かったし。
家族なんて持ったら、きっと面倒が増える。
子どもなんて持ったら手がかかる。やりたい事が出来なくなるじゃないか。
私は何に縛られる事なく、自由でいたいの。
だから1人で生きていく。
全て己れで責任を持つって……そう決めてたのに。
なのに、今 私はテマンと一緒に居る……
やっぱり1人は淋しかった?
心細かった?
不便だった?
……ううん、どれも違う。
好きだから。
いつのまにかテマンの事、好きになってたから。
祝言を挙げて籍を入れてなんて、そんなのは要らないけど……ただ好きだから。
一緒に暮らして、テマンが帰る家になりたいと思った。
私の帰る家になってくれたらな、と思った。
普段はお互いに、やりたい事をやるのがいい。
テマンは大護軍にベッタリだから、留守にする事も多い。私だって、ほとんど典医寺に居るから、家には寝に帰るだけの日もある。
それでも、家で顔を合わせたらいろいろな話をして……(やっぱりテマンが一番話が合うし、手話も上手い)
一緒にご飯を食べて、一緒に眠る。
そういうのも悪くないなって思えたから、今も一緒に暮らしてる。
だけど、テマンは“形”が欲しかったのか……
今のままじゃ駄目なのか?
一緒にいるだけじゃ足りないのか……?
「——トギャ」
いつの間にか、テマンが真面目くさった顔で、私を見つめていた。
今度は目を逸らさずに、真っ直ぐに。
「おれと、籍を入れよう。紙切れ一枚、お役所に出すだけでいいんだ。
おれの…嫁さんになってくれ。トギャ」
ほんの少し、躊躇した。
私の返答を待つ…真剣な面持ちのテマンを前にして、湧いてきたこの気持ちは一体何だろう?
たかが紙切れ一枚。
それも悪くないような気さえしてくる……
だけど……ね、テマナ。
あんたも私も、互いを縛る必要なんて無いと思う。
そんな事しなくたって、私達は大丈夫だろう?
これからもずっと……一緒に居るだろう?
周りの目なんて、どうでもいい。
大護軍とウンスの、私達には私達の、それぞれの“家族”の形があると思うんだ。
互いが必要だから 一緒に居て
そして互いに 自由がいい——
「……な、いいだろ? トギャ」
うん。
だからね、テマナ。
(嫌)
私は笑顔でそう告げて、へ?と、呆気に取られて固まった愛しい男に口づけた。