「えっ、医仙様??」

「どちらへ??」



何も言わずに突然駆け出した私を、護衛に立ってくれていた武女子2人が、慌てて追いかけて来る。



私は、はた、と立ち止まって、


「ねぇ、ヨ…   主人は何処かしら?あなた達、知ってる??」


迂達赤(ウダルチ)の兵舎かしら? それとも王様の所??


「さ、さぁ私達には……


私の剣幕に気圧されて、オロオロと顔を見合わせる2人。


いいわ。居そうな所を片っ端から……そう思い定めた私の視線の先に、なんと当事者の1人が——



「〜〜っ!!  テマナッ!!!」


「あれ?医仙。帰るにはまだ早いんじゃ……

て、——え? 何ですか??」



典医寺へ私を迎えに行く途中かひょこひょこ現れたテマンを捕まえて、私は有無を言わさず、物陰に引きずって行き……


問い詰めた。



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「あ〜確かに。おれ、医仙に言った覚え無いです。すみません」



私がとにかく捲し立てるのを、目を瞬きながら聞いていたテマンの……開口一番、間の抜けた謝罪に、行き場なく昂っていた気持ちが、しゅうぅ……と萎んでいく。



……酷いじゃない。私、ついさっき知ったのよ?どうして言ってくれなかったの」

「いや、あの……別に、わざと言わなかったわけじゃ……えっと。いつ言えば良かったですかね?」

「いつでも良かったわよっ!」

……怒らないでください、医仙」



溢すようにそう言って、思い切り眉を下げているテマンに、私は深く大きく溜め息を吐く。

……おめでたい話なのに、何でこうなったのよ。



「怒ってるんじゃないわ。そうじゃなくて……



気持ちを鎮めようと、何度か深呼吸をしてから、私は改めてテマンに向き直った。


「ごめんね、テマナ。もの凄く驚いたから、怒ったみたいになっちゃった」

「驚かせてすみません、医仙」

「トギったら、忙しいから、って詳しく教えてくれないの」

「ああ〜そうでしたか。すみません、いっつも忙しいんです、トギは」


何を聞いても素直に答えるテマンに、落ち着きを取り戻した私は、近くの中庭へテマンを引っ張って行き、置かれた長椅子に並んで座った。


そして



「で、いつから?どっちから告白したの?私が居た時から好きだったの??」

「ええっとですね……



テマンは本当に……素直だ。ピュアだ。


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「それで?結局、俺の所へはいらっしゃいませんでしたね」


その夜、ヨンが何故か残念そうに言った。


「テマンに会わなかったら行ってたわよ。そしたら大変だったと思うけど?」

「貴女が大騒ぎをして?」

「そうよ。大護軍の体面、チェ家の品格を、貶めずに済んで良かった。スンオクが卒倒するとこだったわ」


はは、とヨンが溢すように笑う。


「だいたい、最初からヨンが教えてくれてたら良かったのよ」

「すみません……自分達の事に精一杯で」

「知ってたら、もっと気遣ってあげられたのに。トギにもテマンにも、いろいろ頼み過ぎてるわ」

「大丈夫ですよ。あの2人なら、やりこなします」

「そうじゃなくて……もっと2人で過ごす時間をね、んっ」



不意にヨンの唇が落ちてきて……すぐ離れては甘い微笑みで見つめられる。



「そろそろ、俺達にも2人で過ごす時間をください。イムジャ」



今度は深く塞がれて……私は目を閉じ、それを恍惚と受け止めた。