婚礼当日の花婿ほど、役に立たないものはないな……



皆が慌ただしく準備を進めてくれている。


何か手を貸そうにも、さっさと飯を済ませてください、あっ、花婿なんですから手伝わないでください……


挙げ句には、スンオクが「ああ、忙しい忙しい」と溢しながら、俺の支度にやって来て——


「私はこの後も、式場と祝宴の最終確認で忙しいのです。故にお構い出来ませんので、お支度が済みましたら旦那様、大人しくお部屋に居てくださいませ。主役が出歩いていては、式の格が下がります」


そして、あれよあれよとタンリョンポを着せられて、花婿の支度はあっという間に終わった。



……出歩くな、と言われたが。


これだけ人の出入りがあるのだ。テマンやドンジュ、ジホ達で、手は足りているのか……

怪しい輩は潜んでいないか……


気になって、警備の様子を見に出て見れば、ドンジュが血相変えて飛んで来て、


「花婿がウロウロしないでください!目立ち過ぎです。怪しい者を見つけても、逃げられてしまいます!」



……確かに。



「大護軍、外はおれ達に任せて、式が始まるまで、じっとしててください。ね?」



テマンにまでそう言われて、渋々部屋へ戻ったが……落ち着かない。


何より、昨夜からイムジャの顔を見ていないのだ。


花嫁の支度は、時間がかかるのだろうな……


今、どんなご様子か。

どんなにお美しい事だろうか……


俺は溜め息で目を閉じ、愛しい面差しを求めた。


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ようやく陽が傾き、式場へと呼ばれた。


向こう側から、スンとソニに両脇を支えられたイムジャの姿が見え——





……何なのだ。あの方は。


まこと、天女か——


母の花嫁衣装を纏ったイムジャが……其処だけ神々しく光って見えるのは、俺だけか?


この世の者とは思えない美しさ……


惚れた贔屓目などでは決してないこの方の美しさは、目にした者の心を捉えて離さない。


ああ……今すぐ隠したい。


今すぐこの場から連れ出して、他の男どもの目から、この方を覆い隠したい。


俺がそう思うのは、当たり前だろう?



やっと合間に交わした言葉も、俺だけに向けられる微笑みも、そのひとつひとつが、愛しくて大切でならない。


ああ、ようやく 

本当に この方が俺の妻に……



しかし、一連の儀式はいつ終わる?


型にはまったしきたり……親族達も集まってくれた中、大切なのは分かる。

分かるが。


早く 早く終わってくれ。


ただでさえ、昨夜から引き離されてい、イムジャの髪一本にすら、触れられずにいるのだ。


もう限界だ。そろそろ駄目だ。




なのに



「は?……無礼講の祝宴?」



……嫌な予感しかしない。



俺達の為だとは分かっているが……


まだ終わらないのか……

早くイムジャと2人きりにしてくれ……



罰当たりとは思いつつ、俺は盛大に溜め息を吐いていた。