私が今まで何処で何をしていたか。
『医仙は天界人で華陀の弟子』
ソン・ユに難癖つけられた時に、一度は王様が、天界なんて無い、って宣言してたけど……
そもそも、チョ・イルシンが自信満々で触れ回っていたから、今でもそれを信じている人がほとんどだと聞いた。
だから、それをそのまま使わせてもらう——
私は、居並ぶオジ様達へ、じ…と、視線を移しながら口を開いた。
「私はもともと高麗の人間ではありません。皆さんは、私が何処から来たか、ご存知ですよね?」
「天界、でございますか?」
「はい。皆さんにそう呼ばれている所です。そこへ帰っていました」
天界……
天界ですと……
やはり天界はあるのですな……
とかなんとか、再び騒つくオジ様達。
ちら、と隣のヨンを見上げると、小さく笑みを湛えた瞳が私を見ていた。
——大丈夫、よね?
——はい。大丈夫です。
「まことに天界へ?元国へ行かれたとの噂もありましたが」
「違います。里帰りしてただけです。皆さんにも故郷がお有りでしょ?」
「……では、そうだとして。里帰りにしては4年は長くありませんか?他に何か……なされていたのでは?」
「他にって?」
「例えば……医仙が、元国や徳興君と通じている……などという噂もありましたので」
「はぁ?? そんな訳、」
つい出てしまった、はぁ⁇に、ヨンがぎゅうっ、と手を握り締めてきた。
しまった。想定内の話だったのに。
ウンスャ、落ち着いて、落ち着いて……
私は深呼吸をして続けた。
「——ありません。徳興君…あの男、今は元に居るそうですね。天界からは連絡のしようも無いですし、する気もありません。
皆さんも覚えておいででしょう?あの悪党が何をしたか。
王妃様を…… 、高麗まで売ろうとしたんですよ。私だって毒を盛られたんですから」
なんと??
医仙に毒を?!
そんな事が?!
ああ、知らなかったのね……物騒な話に、場は騒然となってしまった。
……毒の話はまずかった?
不安に巻かれていると、ヨンが私の手を、きゅ、と引いて、小さく頷く。
……そうよね。大丈夫よね、本当の事だもの。
ソウルへ戻ってた時に、改めて検査もして、治療を受けた事は事実だし。
「——本当です。徳興君に毒を盛られて、実は、天界で解毒の治療を受けていました」
私が答えるのへ、王様が更に足してくださる。
「当時、医仙が徳興君の毒に侵されたは、公にしていなかった事だ。悪事を重ねていたとはいえ、元国との関わりもあった故に、全ては捕らえてからと行方を追っているうちに医仙は天界へ……
すまぬ事であった。医仙」
「いいえ、王様」
「して、解毒は成ったのか?もう体はよいのか?」
「はい、王様。その…解毒に時間がかかってしまって……戻るのが遅くなりました。本当は、もっと早く戻りたかったんですけど」
そうか、それは良かった。
王様が、笑みを浮かべて頷いてくださる。
そこへ、毒にビビっていたのが気を取り直したのか、兵曹さんが再び口を開いた。
「すると、医仙。解毒の為に戻るのが今になった、と言うのですか?」
「そうです。毒を盛った相手と繋がりたい訳が無いでしょう?あの男とは無関係です。顔も見たくないわ」
「しかし、徳興君は婚姻されるはずだった方ではありませんか。毒の事は初めて耳にした話。お2人が今も通じていて、この高麗に仇なす事も無きにしもあらず、と噂されても仕方ないと思いますが」
兵曹さんの言い分に、そうだそうだ、と同調の輪が広がった。