ヒジェに見送られて、寄り添いながら部屋に戻った俺達だったが……


互いに何となく視線を合わせないまま、身支度を始めていた。



「着替えを用意しました。よかったら着てください」

「ありがとう」



………

………




何とは無しに、若干の気まずさいや、気恥ずかしさなのだろう。


それ以上の言葉は出ないままで。




布巾で濡れた髪を挟み持ち、ポンポンと水気を取っているイムジャが、目の端に入る。



……見るな 見るな、俺。



ヒジェに右手を差し出した時の、イムジャの溢れるような笑顔が。

ヒジェに止められるまでの、イムジャとの遣り取りが。



『互いに好きで好きでしょうがないだけ』



そうだ。ヒジェの言う通り。


俺達は互いに……それだから、互いを疑ったり測ったりしてしまう。



好き過ぎて。



故に、どうしたって目が追ってしまう。



互いに、の前に、この俺が

俺のほうがずっと、この方を好いているから。



湯上がりの上気した肌や、艶やかな濡れ髪……


それらを今、目に入れてしまったら、困るのは俺自身なのに。



王様がお待ちだ。

チュンソクもトクマンも、ドンジュにも会っていただきたいのに。



見てはならない、そう思うも、やはりそんな事は到底無理——







俺は、引き寄せられるようにイムジャの手から布巾を奪うと、その豊かな髪を包み込んだ。




「ヨンァ……


イムジャが、湯上がりのせいだけではなく頬を染めて、その唇から俺の名を溢す。



「俺がやります」

「ありがと……      それからね、あの、」



——さっきは ごめんなさい



俺に髪を委ね、大人しく俯きながら、イムジャが小さく呟く。




「いいえ……俺のほうこそ、すみませんでした」

「ちゃんと話すから。今はまだ聞かないで。待っていて」

「はい……




先に謝られてしまった……


胸の内で舌打ちしながら、俺はイムジャの髪から水気を吸い取っていく。



そうしていると、垣間見える白く頼りなげな襟足に、また目を奪われてしまう。



これ以上触れたら駄目だ。



駄目だ———








「あ……っ   」



イムジャが、ピクリ、と身体を震わせる。


俺の唇が落ちた首筋から、さぁっと薄桃に染まっていく。



俺はぎゅっ、と目を瞑り、息を整えて



「イムジャ……こんな事をしていては駄目です」


と、呻いた。






……え? 駄目って、してるのは貴方よね?」



イムジャが、頬を染めたまま俺を振り返った。



俺は下唇を噛み締めて目を逸らす。



「そうです……駄目なのは俺です。

貴女は悪くない。


先程も、相手がヒジェだから、我慢も試みたのですが……土台無理でした。


ただの嫉妬です。

申し訳ありません——




ようやく詫び言を口に出来た俺は、イムジャの頭を持ち、くい、と前を向かせると、再びその髪を乾かすべく手を動かし始めた。





しばらく、黙って前を向いていたイムジャが、布巾を使う俺の手に白い手を重ねて、ゆっくりと振り向いて言った。



「ヒジェさんは、貴方の事……初めて会った私の事も、よくわかってくれてるのね。

改めてちゃんと話がしたいわ」

「はい。そうしましょう」



イムジャが俺の手を、ぎゅ、と握る。



「王様が待ってくださってるのよね?チュンソクさん達も」

「はい」

「急がなくちゃね」

「そうですね」


………

……イムジャ?」


「じゃあ、今は時間が無いから……



握った俺の手を引き、自身の胸元へ押し当てて、イムジャが蚊の鳴くような声を出す。



——後でね。



辛うじて耳に届いたひと言に、身体が、カッと熱くなる。


いい年をして……まるで若造のようで。



何とも面映く、照れ臭い——




だがそれは、この方も同じだった。



俯いて見えない表情も、容易に想像出来る程紅く染まった首筋に、俺は返事の代わりにもう一度唇を寄せた。





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イチャコラしてないで、そろそろ先へ進もうよ……(^-^;


書きながら照れているビビでした。