「その後も、高宗(ゴジョン)の時代で過ごされたのですか?」
ジテへの激しい嫉妬から気を取り直して(だってどうしようもない事でしょ⁇諦めてよ、って宥めすかしたわ。もう大変……)ヨンが口を開いた。
「ううん。天門が開いてね、一旦ソウルに戻ったの。どうやら天門て、一度はソウルを経由するみたいなのよね」
そうる……
そうヨンが呟くのへ、私は、はた、と気がついた。
「ああ、ソウルってね……
んーと、皆んなが天界って思ってる所の地名なの。
前にも話したわよね。
私は未来から来たんだ、って。
未来……先の世って言った方が分かり易い?」
ここら辺で、きちんと理解しておいてもらおう。
私は天人じゃない。
650年先の世で生きていた、ただの人だって。
「……俺が貴女を攫いに行ったのは、ずっとずっと先の世界……」
「そうよ。天界じゃないし、私は天女でもないのよ。
ソウルは今から600年以上先の世界。
もう貴方も私も……生きてない時代ね。
高麗も国名が変わってコリアになって、その都の名前がソウルよ」
こんな話したら、以前は貴方に怒られたっけ。
医仙は先読みをする、って、噂が立って。
私を権力の道具に欲しがる人達がたくさんいて。
危険に晒されるから、って。
今ならよくわかる。
貴方がどれだけ、私の心配をしてくれていたか。
だから——
「……これからは必要な時にだけ、貴方にだけ話すわ。その時は聞いてくれる?信じてくれる?」
「前にも言いました。俺は、貴女の言う事を信じると。
俺にだけ、お話ください」
言ってヨンが、私の頬を撫でる。
その手に自分の手を重ね、私は微笑んで頷いた。
私は、ソウルに戻ってすぐ天門が閉じた事、それから、両親に会いに行った事を話した。
……ヨンのお墓に行った事は、今はまだ話せない気がして。
もちろん、いずれ話すわ。
あの事も……聞いておきたいし——
「ご両親に、お会いになれたのですね……良かった……」
良かったです。と、ヨンはもう一度呟くように言うと、目線を下げて押し黙った。
……ヨンったら。
明らか私に、申し訳ないって顔してるわ。
1人で背負いすぎなんだから。もう……
私は椅子から立ち上がって、覆い被さるように、ヨンをぎゅう、と抱き締めた。
ヨンはおずおずと、私の背に腕を回して受け止める。
「ヨンァ。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「……はい」
私は腕を緩めて、未だ戸惑いを滲ませているヨンへ、にっこりと笑いかけた。
「貴方が気に病むのもわかるわ。私に両親を捨てさせた、って責任感じてるんでしょ?
確かに、もうアッパとオンマには会えない。
2人を悲しませてると思う。
でも私は……私が幸せになる事が、本当の親孝行なんだって、思い至ったの。
自分に都合のいい事を、言ってるかもしれないわね。
だけど、そう思うの……
だからね。
貴方に、重いお願いをするわ。
謝らないで。
謝るんじゃなくて、身勝手な選択をした私を……
両親を泣かせた親不孝を、一緒に背負ってくれない?」
ヨンが私の頬に手を当てた。
そっと拭われて……私は自分が泣いている事に気づいた。
あれ? 私、笑ってるんだけどな。
こんなお願いをして……それでも、貴方に笑顔を見せてるつもりなんだけど。
誤解しないでね、ヨン。
だって後悔は無いの。
貴方と幸せに生きていくんだって、私、決めてるんだもの。
貴方も同じ想いでいてくれるって、自信があるんだもの……
「——背負います。
貴女を必ず幸せにします。俺の全てをかけて。
ご両親に誓います。イムジャ……」
ありがとう。俺を選んでくれて——
涙交じりのヨンの呟きが聞こえて。
私は、その何処よりも満たされる場所に包み込まれる。
涙腺が崩壊した私を、ヨンは黙って温め続けてくれた。
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ご両親との別れのくだりは、何度書いても辛いです(;_;)
その分、めちゃめちゃ幸せになってね。
2人でね。と思います。
ビビ