王様から暇(いとま)をいただいてから10日程。


俺は運気調息を終えた後も、すぐに皇宮へは戻らず市井で過ごしていた。

手裏房の面々と、手筈を整えたいことがまだまだある。


そこへ、天門に張り付いていたはずのシウルとジホが戻ってきた。


何事かあったか、と立ち上がった俺に、マンボ姐が、


「心配しなさんな。交代に他の子を行かせたんだよ。こいつらも、こっちでいろいろ仕事があるからさ」


と、2人に飯を出してやりながら言った。



「天門はあのままだ。ウンともスンとも言わねぇ」


ジホが、出されたクッパを 熱っ、と言いながら掻き込む。


ただ、こんなもんがみつかってさ、と、シウルが懐から何やら取り出した。


「装飾品かな?見たことない形だけど」


どれどれ、と、俺よりも先にマンボ姐がそれを手に取る。


「へぇ……ノリゲにしては小さいねぇ。それにこんな細かい細工、見たことないよ。医仙のものかい?」


そう手渡されて、俺は目の前にそれをぶら下げてみる。


限りなく小さな円が連なった細くて長い鎖に、不思議な形をした銀の塊がひとつ通されて。

埋め込まれた青い石が、陽の光を反射して煌めいている。


俺は爪の先ほどの小さな塊を、指で摘んで転がすように眺めた。


「何処にあった?」

「天門の前だよ。土に埋もれてたのが、こないだの大雨で流れ出てきたみたいでさ。なぁ、医仙のものなのか?」

……わからん。俺も初めて見る」

「だけど、ちょっと見ない細工だよ。この辺りの、いや、元のものでも無さそうだ。きっと医仙のだよ」


3人はそうだそうだ、と頷き合っている。




……そうなのだろうか。


あの方の持ち物の……天界から持ってきたものの中にあっただろうか。

いろいろと変わったものをお持ちだったからな……


胸の奥が つ、と痺れるのを感じながら、俺はそれを懐に入れた。




「テジャン!」


転がるようにテマンが店に飛び込んできた。


俺が皇宮を留守にしている間、テマンには皇宮の様子やコモとの繋ぎを任せていた。


シウルとジホの姿を認めて、互いに無言の挨拶を交わした後、テマンが俺の前に書簡を差し出す。


「チェ尚宮様から、預かりました」

「何かあったか」


俺は話しながら書簡を開く。


「今日も、皆んな、バタバタしてました。何かあったような、ないような、オ、オレにはさっぱりです」


コモからの書簡を読み終えた俺は、思わず額に手を遣り、腹の底から大きな息を吐いた。


「あの老いぼれども……

「へ⁇」


呻きつつ顔を上げると、テマンの途方に暮れたような、への字眉が目に入った。




——ねぇ、そのクセ。眉間のしわ。

貴方よくしてるわ。気づいてる?



ふと、いつぞやイムジャが、可笑しそうに言っていたのを思い出した。


あの時も楽しげに笑って。

いつだってあの方は……ご自分が辛い時も、周りを明るくしようと笑顔で……



俺は緩んだ口元を引き締めて、弟分に向き直った。


「テマナ」

「イ、イェ、テジャン」


「明日皇宮へ戻る。コモにそう伝えてくれ」



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翌日、兵舎に戻った俺を、迂達赤たちが盛大に出迎えた。

戦で大勝して凱旋したかのような人集りに、呆れて溜め息しか出ない。


……お前ら。そんなに暇なのか。だったら」

「イェ!鍛錬いたします!みな、散れ‼︎


イェェ‼︎‼︎‼︎


チュンソクの号令に野太い声が続き、迂達赤たちは蜘蛛の子を散らすごとく、鍛錬場へと駆け戻って行く。


「お戻りなさいませ、テジャン。みな嬉しくて仕方ないのです。稽古をつけてやってください」


チュンソクが破顔して言う。


「前にも言ったろ。お前に任せると」

「お留守の間はもちろん努めましたが、私では間に合わない事も多く」

「誰が決めたんだ、そんな事」


チュンソクの肩をポンとはたくと、俺は汗を流す迂達赤たちの元へ足を向けた。


一際熱のこもったトクマンの号令が、鍛錬場に響いていた。







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最終回で突如現れたペンダント。アレですアレ。