小物四十八手 その十三
かつての教え子と呑むのは私のささやかな楽しみのひとつとなっている。過日は、武蔵小山のホルモン屋で春から美容師をしている男と呑んだ。少しでも縁がふえればと、私の友人も一緒である。異なる世代間の化学反応を眺めて、ホルモンを食べるなんて私にとってはこのうえない贅沢なのだ。酒がすすむにつれて、教え子がハサミ四丁をだした。心こそ他者
道具こそ己
日本刀をおもわせるその商売道具に、おじさんたちがとびついたのは云うまでもない。何氣ないものに、時折こちらがはっとさせられることがある。そのような道具には等しく持ち主の想いがはいっており、永い場合はそれが何世代にも連なる。教え子の持っていたものは、今はまだ高価なハサミに過ぎないけれども、やがては己そのものになるのだろうか。カット練習用の生首をバッグにいれてかえるうしろ姿を視て、楽しみにおもった次第である。