47分のうち30分はほとんどが愚痴で終わった。中には「今この瞬間どれだけの~」という、自分で名言だと思ってしまった文句もあったが、大部分が情けない遠吠えだったと思う。しかしここで少し展開が変わってくる。なんていうか自分に何かを言い聞かせるような語調になっていくのだ。
「来年のクリスマスはこんな風にならんぞ、新宿か六本木のレストランでな、十何階とかでな、夜景を見ながら彼女の瞳に乾杯だ、そうなっとる」←現時点では厳しそうだが…。
「俺だから出来る、俺なら出来る、俺は自分という存在を信じきっている」「よく言うじゃないか、家族のおやつを食べてしまった、いくら文句言われても先に腹に入れてしまったものは取り返しが無い、それと同じだ、あとで親にいくら文句を言われようが先に車を買ってしまえばいいんだ」「いいか?俺なら出来る。俺なら車だってクリスマスイブだって来年は思い通りになっとる」「我慢がはじけそうになってるから、俺はこうやってたまに爆発させるんだ」「夢を追うのも一人ぼっち、愚痴も一人ぼっち、いつでも俺は一人ぼっち」
「誰に助けてくれとも言わない、助けてくれるんだったらありがたいけど、後で必ず恩返しはするけど、助けてもらおうとは思ってない。自分ならできると思ってるし、あぁ、俺ならできる。俺だからできる。(今の環境で)ここまでできるやつは俺しかおらん」
「最悪の日だからこうやって録音してる。足跡を残してる。後で笑え。幸せになった頃の俺が後で笑ってくれたらそれは、今の俺だって幸せだ」
「俺の味方は結局俺だけだ。まだ帰る気分じゃねーよ、もっともっと歩くぞ。もっともっと歩いてもっともっと愚痴ってやる。さあ次は何を愚痴ろうかね?そうだレーサーになれんかったことを愚痴ろう。レーサーになりたかった。車好きの延長上で。だからカート場に連れて行ってって親に頼んだけど冗談としてしか受け取ってくれんかった。田舎の家の生まれだった時点で」「自分に運転の才能があるかどうか知ることもできなかった」
「レースゲームで世界で戦うことはできたが、寂しいことだった。やっぱり本物じゃないと人は尊敬してくれないし、だからレーサーになりたかった。でもな、視力だってそうだ。親の遺伝で視力が落ちて、それもあって無理だって言われた。だから視力が悪くてもF1のワールドチャンピオンになったジャック・ビルヌーブは俺にとっては非常に尊敬できる人だ。ジャックの父のジルだってそう。ジル・ビルヌーブは決して諦めることを知らんかった、今の俺のように妥協したりもしないし、ずっと全力で何もかもやり続けて全力で人生を駆け抜けた、素晴らしい人だ。尊敬できる。それに比べて俺は、俺はこんなみじめな思いをして、本当はレーサーになりたかったのに」
「子供のなりたいものを全力で応援してくれるのが親ってものだ。進学させてもらえてよかったことは別だけど」「大学行くように育てられてきたから、大学行くんだなくらいにしか思ってなかったけど、車も買えないほど金がやばいってわかってれば大学なんて行かなかったのに」
ここから、思いもかけず重大なメッセージが吹き込まれていた。
「俺がもし…もしじゃない、いつかだな。必ず、結婚して子供生まれたら、その子供が5歳になったときに一回家族会議開いて、その子が本当になりたいものをちゃんと聞き出して、それを全力でサポートする。もし10歳になってその考えが変わってたらもう一度家族会議開く。15歳になってももう1回、3回目の家族会議開いてな、…いやそれくらいの歳になったら1年ごとに開くのが・・・。まぁとにかく、無理に何しろああしろとも言わないし、そりゃ不良になりたかったらなったらいい。ただ犯罪者だけにはならないでほしい(人を傷つける人にも)、自分の身体も気をつけて欲しいからドラッグとかにも、タバコとかにも手を出さないで欲しい」「(子供が)それなりに分別つくようになったら、そんな歳になったら、俺が今まで生きてきた中で思ったこと全てをな、話して聞かせるつもりだ。俺がどんな思いをして、ここまできた(幸せをつかんだ)か。この録音だってそのときに聞かせたい」
「屈辱だけど帰るか。もう1時間近く、走ってるしな」…こういって足跡がしばらく響く。「ついに爆発したな、ついに爆発した。今まで自分は精神だけは冒されてないと思ってたけどもう冒されてるんだな」「毎日こうやって爆発しても良い、時間が経ってくれればいいんだ。無事にその日を迎えることが、俺にとって今できる最大のことだ。いいな、この日に誓ったこと絶対忘れるなよ。絶対、今まで話したことを忘れてはいけない。幸せにならなきゃいけない。スカイラインも買わなきゃいけないし」
「もうちょっと歩こうぜ」「誓ったもんな、誓った…」「別に社会的な地位名誉を手に入れるとか、そんな夢は持ってない、人並みの幸せ。その幸せを手に入れるためにまずは車が必要」「なにも大企業の社長やプロのスポーツ選手になりたいんじゃない」「いろんなことに挑戦して全てに敗れ去った俺が今望む最大の夢、最大の目標だ」「人並みの幸せを得るってのは、当たり前、何も恥ずかしいことじゃないし、誇りを持ってる」
「人に自慢できる職業になったってな、その瞬間が不幸だったら意味が無い。俺はその逆になりたい。たとえ人に自慢できなくても自分が幸せだとわかってればそれでいい。それでよろしい」、これが録音に残っていた最後のメッセージであった。