田舎駅

  JR宝塚線の脱線事故で107人が死んだことは、イタリアでも大きなニュースになった。今頃、この機関士自身も、その家族も大変なプレッシャーだろう。亡くなった乗客やその家族も可哀想だが、張本人はもっと苦しいことだろう。


 私は、ミラノに事務所に通うのに毎日電車を使っている。イタリアの電車を日本のとを比べると、時刻に正確とか以前の大きな違いがたくさんある。


現状

  ミラノはイタリアで一番通勤通学で郊外から通ってくる人たちが多く、その数は一日100万人と言われている。人口128万人の都市にである。イタリアの場合の通勤では、マイカーを使う人たちも多いのが特徴だが、電車通勤の場合日本ほどではないが、使われている。そういうわけで大都市ミラノへ通勤する電車のほとんどは、なんと一時間に一本程度しか本数がない。そのうちいわゆる私鉄なのはミラノ北鉄道(Ferrovie Nord Milano)くらいのもので、他は、民営化された元国鉄Trenitaliaの電車である。


システム

 プラットホームが低く、電車までステップを登って乗らなくてはならず、お年寄りや子供、体の不自由な人は困る。だから日本のシティー電車をイタリア人は地下鉄(Metripolitana)に見えるそうだ。自動改札はもちろん改札もなく、車内で車窓さんが回って検札するだけ。ただし、プラットホームなどにある打刻機に乗車券を挟み、乗車前に日付と時刻をスタンプしておかないと乗車券として有効でなく、スタンプのない乗車券でも車掌さんから罰金を払わされることもある。自動券売機もあるが、かなり使いにくくだいたいの人は人がいる切符売り場の窓口で買う。しかし、その作業があまりにも遅くいつも並んでいる。通勤通学者は、定期券を持っているが、定期券も一回乗車券と同じように使用開始時にスタンプを打ち込まなければならない。


  さて、これらの電車は通勤時間用のもので毎日5分か10分の遅れは普通で、時々定刻に来る。時には30分の遅れや1時間の遅れ・・・と言うことは、その電車はキャンセルされ次の電車に乗りなさいということになっていたり、そんな苦労を知らない電車は、観光客もよく使うEuro Star(イタリアの新幹線、のようなもの)くらい。イタリアの鉄道も過去に脱線事故があった。しかし、たった90秒の遅れのためにこれだけの犠牲を出したのは、日本独特である。

 日本はこれまで、たった1秒も狂いのない鉄道を世界に誇ってきた。毎日毎日正確そのもののリズムで日本国中が管理され、まるで一つの生き物のように動いている。ただ、その生き物はほんのわずかな狂いにより多大のダメージを及ぼすと言う特徴を持つ。だから、わずかな狂いは命取りという仕組みに社会が出来ている。


  同じ時刻の電車には同じ顔ぶれの乗客が乗ることですっかり知り合いになってしまう、のどかな通勤電車は今日も遅れてて来た。これまでは、電車が遅れたときでも、誰も気を止めることなく過ごしてきた。

  通勤仲間たちは日本の脱線事故のニュースを聞いてから、彼らは日本人の私に毎回のごとく言うようになった。

 

「遅れて来ても、脱線されて事故死するよりましだよね」