新法王 今月2日に死去したヨハネ・パウロ2世の後継ローマ法王を選ぶ枢機卿たちの選挙会議(コンクラーベ)は19日、保守派ドイツ人のヨゼフ・ラツィンガー枢機卿(78)を21世紀最初の法王に選出した。新法王は先代法王の下で教理省長官を務めていた。ベネディクト16世を名乗り、世界の10億人以上のカトリック教徒の頂点に立つ。正式の就任式は24日行われるんだって。

 彼は265代目の法王で、サンピエトロ広場に集まった20万人近い群衆が見守ったとのこと。
 
  また、ベネディクト16世は78歳という高齢。前法王は「空飛ぶ法王」として、積極的なバチカン外交を展開しましたが、新法王の外交面での活動を不安視する声も上がってるんだって。

 ラツィンガー氏は14歳の時、ナチスの青年組織ヒトラーユーゲントに参加した。だが、カトリックの神学校で学ぶため間もなく除隊。2年後、ドイツ軍防空部隊に招集され、強制収容所の囚人らが働かされていた航空機エンジンの製造工場を防備する任務に就いたという。

 ただし、ナチスの戦犯を追及しているユダヤ人人権擁護団体サイモン・ウィーゼンタールセンターの幹部は「我々が知る限り(ラツィンガー氏が)戦争犯罪に関与したことはない」と述べ、法王としての資質が問われることはないとの見方を示している。

 日本では、このニュースをある宗派の頂点の人が変わっただけのことと受け止めるかもしれないが、イタリアでは、意味が違ってくる。今日も、自宅から電車の中で、いつも同じ電車に乗っているうちに知り合いになった女性たちが、この新法王のことを話していた。その評価が言いか悪いかは別にしても、イタリアで、宗教が生きているというのではなく、その存在は、イタリア政府と同じくらい、あるいは政府を信じない彼らにとってはそれ以上に思い入れがあるように話していた。そういう意味でも、ドイツ人法王であることは、「神の前では国籍や人種は関係なく平等である」はずなのにカトリック教徒が少数派で、EUのリーダーであるドイツ側にとっても重要なことなのだ。

 宗教のこととはいえ、ローマというイタリアの地域という点から見て、ローマが建国された時にリーダーが7代続いた王達だったが、やがて共和国政、そして皇帝がローマを中心とする広大な帝国を治めた。この皇帝のことを法王と同じようにPonteficeと呼んでいた事からも、313年にコスタンティヌス皇帝がキリスト教を容認して、国教になってまもなく、ローマ帝国は蛮族によって崩壊され、新しい民族を取り入れたヨーロッパが形成されたころ、ローマ帝国が姿を消しても、それ以前にローマ人の宗教であった多神教とは違って、ユダヤ教起源の一信教キリスト教は、奴隷の間でも、蛮族の間でもますます広がっていった。

 中世のカトリックは、政治、経済、文化、軍事という世俗的な権力を牛耳り、領土はローマを中心とした「教会国家」と呼ばれるイタリアの中部だけだったが、カトリックの信者は、ヨーロッパ全土、アフリカやアメリカ、アジア大陸にも着実に広げて行き、1861年イタリア統一まで領土内の全権力を持っていたわけだ。

 もともとキリストはユダヤ人で、ユダヤ教が、キリスト教の基になっているのは事実だ。

人間の行動原理の正し手をユダヤ人は宗教に求め、ギリシア人は哲学に求め、ローマ人は法律に求めた。

 宗教が麻薬のような働きをすることを知ったローマ人は、それを手放しにしておくことも出来ず、正式に国教として取り入れるが、帝国が崩壊してもなお、キリスト教は生き続け、新しい秩序を生んだ。中世から抜け出した近代的になったヨーロッパでもそれは同じだが、戒律は少しずつ書き換えられ、科学の発展と共にその形だけが残った。

 経済大国ニッポンと言っても、先進国でキリスト教でないのはわが国だけで、そうなればキリスト教が絶対に正しいのではないかと我々は思ってしまう。僕は、イタリアに住んでいるがカトリックに改宗していないし、するつもりもない。だって宗教が違っても神の真意を本当に理解していなければだめだし、僕らの潜在意識こそ神そのものだと思う。イタリアはカトリック教国で、ほとんどのイタリア人がカトリック信者ということになっているが、例えばかつて西側最大と言われたイタリア共産党は、教会が離婚や妊娠中絶を合法化して女性の票を獲得した例でも、どのように法律と宗教を解釈して共存しているか、住んでみないと実感がわかない。というのもカトリックの聖職者だけが結婚を禁止されているにもかかわらず、教会はいつでも信者の性の問題に関わってきたのだ。戒律が性に関して厳しいほど、皆そのことへの関心がより強かった。離婚と中絶が合法化された反動で、イタリアの結婚は減少し、出生率はヨーロッパ最低に落ち、離婚が増え、同性愛者が筍のように増えた。

 現実的なイタリア人たちは、法律こそ人間にとって必要なことだと知っていたが、法律を作る政治家が国民のことよりも、自分の利益だけを追求しているこの世の中で、えてして単なる宗教団体になったカトリック教会のポーランド人前法王ヨハネ・パオロ2世は、人々の心の支えになってくれた。同時に国際政治にも影響を与えた功績は、彼の時代に生きてきたことを誇りに思えるくらいである。

 この新法王がいったい僕たちにどんなメッセージを送ってくれるのだろうか?