昨日、「天国」と「地獄」ってすごい発明だよねー、というお話にたどり着いたのですが(自分で言っててスケールの大きさに驚くわw)、その発明がされる以前。

 

「黄泉の国」といわれる死後の世界は発明(?)されていました。

誰も行ったことのない死後の世界、おそらく地下に広がると思われる死んだ人たちの一大国家です。

このイメージも世界に共通しているところも興味深い。土葬からのイメージなんでしょうね。

 

そんな黄泉の国で痴話げんかからの離婚沙汰を繰り広げるのが我らが日本の創造神、イザナギ・イザナミ夫婦です。あっさり死んじゃったり喧嘩したり離婚したり、なんと人間的な神様たちなのでしょうか。

今日は気分的に、女神・イザナミのモノローグでお送りします。

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わたし、イザナミ。夫のイザナギと二人で、日本という国を作ってました。

最初は私たち二人しかいなかったし、国自体も虚無だったから、島を生んだり、神々を生んだりね。

島はもちろん日本の国土になり、子供たちである神々はそれぞれ自然を担当したの。風、とか、山、とか石、とか、そんな感じ。

ところが、あるとき、火を担当する神を産んでしまったから大変よ!

燃え盛る炎を出産したものだから私ったら、重度の火傷で死んでしまったの。

そんなことってある?

怒り狂った夫は、生まれた子供を切り殺してしまったらしいけど・・ちょっとそういう、おバカなところがある人なのよね・・

 

ともあれ、女神といえども死んでしまったものは仕方がない。

というわけで私は、地下にある黄泉の国、というところで暮らすことになったの。

これは結構大変よ。女神のわりに、体はきっちり腐ってくるし、虫も湧くしね。死体になんかなるものじゃないわね。

でもまあ、周りは死人だらけだし、みんな同じようなものだからあまり気にしないようにしていたのだけど・・

 

驚いたことに夫・イザナギがわざわざ、迎えに来たというじゃないの!

生者は決してくぐれない扉の前で座り込みをしているとかなんとか・・。

とても日本を生み出した偉い男のすることとも思えないし、私のほうも夫に愛想をつかして実家に帰った嫁ってわけでもないから、迎えに来られてハイそうですか、って帰れるわけないじゃない?

すっかり困り果ててしまったわけ。っていうか虫、湧いてるしね。

 

だからしばらく放置しておいたんだけど、どーしても帰らない、と頑張るわけ。夫も。

よっぽど私のこと好きだったのねーとは思うけど、帰りたくても帰れないこっちの身にもなってほしいって言うか本当に空気が読めないって言うか・・

これだから男って・・

でもそれでも私も女なのよね。情にほだされてつい、帰ろうかな、なんて思っちゃったの。馬鹿ね女って。

 

だから私、夫に向かって言ったの。

「わかったわ、あなたと一緒にもう一度、そちらの世界で暮らします。でもこのままでは帰れない事情があるの。だから、準備ができるまでそこで待っていて。決して準備している私の姿を見ないで」って。

だってそりゃそうよ、愛する男に醜い姿なんて見せられないじゃない?ましてや、腐って虫が湧いている姿なんて。

私は何とか、変わり果てた姿を隠すため、入念にお化粧をしたり、衣装を着換えたりをし始めたわ。

 

女の身支度っていうのは、生きているときだって時間がかかるもの。

そして、すっぴんで下着一丁のときって、どんな美女も誰にも見せられない状況になりがちでしょ?

ましてやこの時の私は腐乱部分やら蛆虫やらを修正しているのだから、その阿鼻叫喚は女子のみんなならわかってくれるわよね?

でも分からない人っているのよ!!!

これだから男ってやつは!!!!

 

身支度も佳境に入ったその時、私の耳に聞こえたのは夫の悲鳴だったわ。

思わず出てしまった声を慌てて押し殺したような短い悲鳴だったけれど、確かに聞こえたの。

そして振り返ったら・・ああ、やっぱり・・夫は決して見ないでね、という私のお願いに背いて、わたしの身支度を覗き見ていたの。しっかり目が合ったわ。

そして分かったの。夫は私のこの姿を見てしまった、って。

そして・・なんと!

あろうことかあの人ったら、脱兎のごとく逃げ出したのよ!!!

 

これには驚いたわ。死後の世界まで迎えに来てくれるほど私を愛してくれた、その夫が。

私の姿を見たとたんに、なりふり構わずにげていくなんて!

あんなに見ないと約束をしたのに、だからわたしは見ないでといったのに・・こんな醜い姿を見られてしまって、そして逃げて行かれるなんて!!

何たる屈辱。何たる裏切り!

 

これはもう反射的に私は追いかけたわ。

屈辱に震え、裏切りに震えながら。

プライドも美しさもすべてかなぐり捨てて、愛の裏返しの夫への復讐の気持ちとともに。

 

けれど・・散々追いすがったけれど、

ついに、あの人には追い付けなかった。生と死を分かつ黄泉比良坂は、私たちの間を永遠に分けてしまった。

私は恥と怒りに震えながら、死者の国へと舞い戻ることとなった。一日1000人の人間を殺し、私の地下の王国に連れ去ることを宣言して。

夫の戻る生者の国に永久の幸せなどは決してないのだと呪いをかけて。

 

そして私は、死者の国の女王となった。(あとバツイチ)

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あ、なんか盛り上がっちゃった。

のですが、イザナミ側の視点としては大体そんな感じなのではないかと思われます。

 

女にとって、美しさを夫の認めてもらえるのってやっぱり大事ですよね・・って、そこ?そこなの?

 

ともあれ、日本を生み出した創造神であるイザナギ・イザナミ夫妻の離縁のお話がこの結構なズッコケっぷりであるあたり、古事記というのはやはりなかなかのものだなーと思うのです。

 

ほとんど同じ話がギリシア神話にもあるのですが、あっちは(天才とはいえ)しょせん(半分以上)人間夫妻の話だからなー、創造神夫妻とはコトの重さが違います。

そしてこのギリシアから日本を股にかけて伝わる「夫が妻を死後の世界に迎えに行ったけど失敗する話」の伝えたいことの意味とは・・?

 

結局のところ

「これだから男って」

だったりして♥