ソメイヨシノが終わった後も、桜は私たちの目を楽しませてくれます。

その代表格が、八重桜ではないでしょうか。

 

八重桜は一重の桜と違って、花びらをはらはらと散らさないので、ゴージャスな安定感がありますよね。

ソメイヨシノなどの一重桜を「可憐なのに豪奢」とするなら、八重桜は「豪華絢爛」の趣。私はその中でも、薄黄色(もしくは金色)の花をつける鬱金桜(うこんのさくら)を激愛しています。

 

先日もお話ししたように、桜というのは品種改良しやすい種ということで、様々な植木屋さんが意欲的に品種改良した末、たくさんの美しい花が産まれています。

これは、いにしえのころから変わらない傾向のようで、平安時代にもばっちり、八重桜はありました。

ただ、どうやら八重桜も、昔々は不動の桜の名所グランプリ、吉野(あるいは奈良)で咲き誇っていたようです。

京都に都があった平安時代、珍しくも絢爛豪華な八重桜が宮中に献上されたら・・桜にアツすぎる平安貴族たちは、さぞかし大興奮だったことでしょう。

そしてそんな舞台で、ややトラウマになりそうな事件(?)が繰り広げられたことはご存じでしょうか。

 

折しも、平安貴族のなかでも最も栄華を極めていた藤原道長が君臨する宮廷に、奈良から八重桜が届いたときのこと。

なにごともとにかく儀式やら祭りやらが何より大事、イベントごとに命を懸ける平安貴族のすることですから、もちろん、

「八重桜到着記念パーティー」が行われます。

藤原道長という圧倒的権力者が開くパーティーは、さぞかし盛大で、しかも宮中行事ってものすごくめんどくさい決まり事がやまのようにあるので、準備する人たちは胃が痛かったことでしょう。

 

そしてその八重桜を受け取る晴れの役目に抜擢されたのは、当時から源氏物語が大人気で、押しも押されもせぬベストセラー作家、宮中一の才女の誉れ高き紫式部。キング・道長のたっての願いで、道長の娘であり帝の妃、彰子の家庭教師として後宮で女房(女官)として仕えていたのです。

同僚である女房達の間でスーパースターである紫式部が八重桜を頂くのであればだれが見ても文句なし、憧れと称賛をもって見つめたことでしょう。

 

ところが・・事実だけ書くと、紫式部はこの大役を辞退。女官として新入りの、伊勢大輔という若手に譲った、というのです。

正確なところはわかりませんが、どうやら15歳くらい年下の女の子だった模様。

伊勢大輔ちゃんは、その名前からもわかるとおり、伊勢神宮の神職の家系であり、歌人としても名高い一族の娘さんなので、その年のルーキーとしては一番の注目株だったのでしょう。

 

突然の抜擢に戸惑いつつも、なんとか八重桜を受け取った伊勢大輔ちゃんでしたが、そこでキング・道長からの無茶ぶり。なんと、その八重桜を題材にして即興で一首、詠めというのです!! いるよねこういう、無邪気な迷惑を振ってくる偉い人!!

 

平安貴族の世界というのは、評判一つで何もかもが決まってしまう恐ろしいところです。ここで失敗したら、どんなズッコケたあだ名をつけられ、この先の長い女官生活がみじめなものになってしまうことか・・こっちがドキドキするわ!

固唾をのんで見守るギャラリーの前でうら若き伊勢大輔ちゃんが詠んだのは

 

いにしえの 奈良の都の 八重桜

けふ九重に 匂いぬるかな

(昔、都があった奈良。その奈良からやってきた八重桜が、

いま都がある京都、九重(宮中の別称)で美しく咲き誇っております。)

 

そう!百人一首にも採られている、有名な八重桜の歌です。

この素晴らしい歌を即興で詠みあげたということで、伊勢大輔ちゃんのデビュー戦は華々しい勝利となり、その後も華やかな女の一生を満喫したのでした、という素敵なお話し。

 

なーのーでーすーがー。

 

わたしこれ、すごい怖いマウンティングというかパワハラ事件だと思う・・

女房(女官)界って、帝の妃に仕える女たちがひしめき合っているところです。この女たち、女官とはいうものの、あたりまえですが全員、貴族の娘です。家に帰れば「お姫様」です。

数多くのお姫様が、実家を離れて宮中という「職場」で、一緒に暮らしながら、だれが一番お妃さまに気に入られるか、とか、だれが一番賢いか、美しいか、とかでしのぎを削ってるんだから・・そんなの怖いところに決まってるじゃん!

そんななかで、ベテランでありスーパースターであり文字通りお局様である紫式部が、間にいる15年分くらいの後輩を差し置いて、新入りに大役を譲るって・・いったいどんないじめなんでしょうか

しかも、そこにキングが無茶ぶりして即興でネタ披露を迫るって・・どんなパワハラなんでしょうか!!!

新入りに期待するにしても、もうちょっとほかにやり方があるでしょう!!!

 

伊勢大輔の成功話として話が出来すぎているところがあるので、もしかしたらすべてが仕込みで、若い有望株のデビューのため紫式部&道長の権力者コンビがおぜん立てしてあげてたのかもしれないけど、それはそれでどんだけ伊勢大輔って根回しがうまいの?という話になって

怖い。

だって道長と紫式部ですよ?今で言ったら安倍総理大臣と蓮舫さんが・・・いやYOSHIKIとMISHA・・う・・・うーん・・いやなんか違う気がする。なんかもっと壮麗で優雅な感じの人選なんですよ現代人ではたとえられない、これ

ともあれ、ものすごいビッグ2に引いてもらえる伊勢大輔って何者?という話になる。

 

真実は想像するしかないですが、晴れがましいイベントの中のドキドキエピソードをおもうと、八重桜は一層美しく、この一首もいっそうエキサイティングに思えてくるというものです。

 

東京の八重桜は、鬱金の桜を別にすれば、赤坂のニューオータニ前の並木道がお気に入りなのですが、今年はいけないかな。しょぼん。