バーンスタインとグールドの伝説のブラームス、ピアコン1番。
冒頭での識者からの異例のスピーチにおいて、バーンスタインは言います。
「指揮者とソリストの間では、しばしば、曲に対する解釈の齟齬が生まれる。しかしほとんどの場合、これは説得、魅了、あるいは脅しによって解決できる。そして調和の取れた演奏が可能となるのだ」
さすがアメリカが誇る大指揮者、バーンスタイン。交渉事の肝をしっているな、と。

私も交渉事のプロですが、理論的な説得や情に訴えた駆け引きも大事ですが、実は効き目があるのは「魅了」と「脅し」だったりします。脅しについては深く語らないことにして(笑)、特に「魅了」。
これに気づいてる人ってあんまりいないよな~、と思うのですが、これはもちろん色仕掛けとかそういう話ではありません。そんな単純なことじゃない。
ものすごく大雑把に言うと、「この人がこう言ってるんだから、言うことを聞いてみたい」と思わせる人間力みたいなもの。

この時、バーンスタインは、多少不本意ながらも、グールドの解釈に従って指揮をしています。
バーンスタインが自分の解釈をあきらめ、グールドに譲った理由のうちの一つは、「魅了」、つまり、グールドの才能と熱意、そしてその確信に満ちた自信に「従ってみたい、彼のいう音楽を作ってみたい」と思わされたからでしょう。

「この人のいうことに従った未来を見てみたい」「この人の言う通りのビジネスをしてみたい」と相手に思わせるだけの信頼関係と説得力、能力と人間性。そういうのがすべてそろって初めて交渉事に「魅了ポイント」が加算されて、そしてそれこそが意外と、決め手になったりします。

結果、素晴らしい演奏がこの世に残ることになって、みんなハッピー。驚異的に斬新なブラームスのピアコン1ですが、大好きです。

https://www.youtube.com/watch?v=zuxPKikM0NI