2024年4月14日告示・同4月21日投票の大東市長選のレポートです。

 

衆院補選3つが選挙期間に入っていること、自公対立民(野党第一党)を占う上では目黒区長選の方が注目されること、市長選には極端にヤバい候補が出てもいないことから、一般にはあまり目立たない選挙でした。しかし、大阪で維新が負けるという、なかなか見どころがある選挙でした。


私は告示日に「今回は維新が負ける」と(多分最速で)予想しましたが、その理由も含めてご覧ください。

 

0.背景

大東市は、生駒山地のふもとに位置する都市で、江戸時代の新田開発で大坂への農産物供給地となったことやや野崎観音への参拝でかつてから栄えてきた都市です。新田開発というところからもうかがえるように、市内には河川が多く存在し、かつて大規模な水害が生じたこともあるので、まちづくりにあたっては防災政策にも力が入れられてきました。

現在では、大阪市内まで電車で10分程度という都心部からの近さもあり、面積が18.27㎢と小さめの市であるものの、人口11万6000人程度を要するベッドタウンとなっています。

現職が多選を回避すべきと主張して出馬を自粛したことで、新人同士の選挙戦になりました。大東市独特の争点というよりは、少子高齢化が進む中での子育て支援・介護の充実、財政再建といった、近年どこの自治体でも課題とされる内容が主な争点になりました。

今回出馬したのは、以下の3人です。

 

おおさか伸子(56) 新 (現職後継)

松浦てつろう(71) 新 共産推薦

石垣なおき (57) 新 維新公認

 

 

1.おおさか伸子候補

(バスロータリーで演説するおおさか候補)

 

(1)候補者の紹介

おおさか候補は、34年間大東市役所職員として勤務し、理学療法士の資格を取り、保健医療部課長などを歴任してきたという、行政経験豊富な候補です。「大東市をもっと元気なまちに!」という思いから立候補したとのことです。

おおさか候補は、「大東元気でまっせ体操」という体操を考案者とされています。これは、おおさか候補の売りらしく、確認団体の名称にしていたり、この体操を通した政策で介護予防給付費の抑制を実現したことが紹介されていたりしました。


おおさか候補は、最終日に現職市長が応援に入ったとのことであり、政党の推薦は出ていないものの、現職後継としての地位は確立できていたと思われます。

 (教育関係で、子供たちが通いたくなるような学校を説くおおさか候補)


(2)主な政策

(選挙公報より引用)

 

(3)選挙戦の展開

おおさか候補は、市役所での豊富な経験を活かし、演説の中で、特に専門にしてきた高齢者福祉・介護予防を地域で実現していく施策を具体的に話したり、ビラや選挙公報で手薄な防災対策について補足したりするなどしていました。これにより、他候補よりも行政・政策への理解が深いことを示していたように思います。

現場の動きも、空中線部隊がきびきびと色々な角度から撮影したり、ビラ配りも積極的に声掛けするなど、維新に引けを取らない動きができていました。


おおさか陣営の組織について、一応政党の推薦は出ていないようであり、事務所の前から眺めた限りでは、為書きで大っぴらに支援をアピールしていることもありませんでした。公明党の市議カーが通った時にテンション高く応援していたものの、あれが公明支援を表しているのかは不明確です(まあ最近の公明は維新絶対倒すマンと化しているので、支援しててもおかしくないですが)。


しかし、最終日に現職(もともと自公推薦で当選)が応援していたとのことであり、現職後継としての盤石な基盤はあったようです。また、後述しますが、市外からの応援も得ていたようです。

(マイク納めまで士気高く選挙戦を展開していた)

 

2.松浦てつろう候補

(駅前広場で聴衆との握手に回る松浦候補)

 

(1)候補者の紹介

松浦候補は、大東市立の中学校で英語教師を長年勤めてきた候補です。共産系の候補者であり、大阪の教育政策や介護の問題などに問題意識を持っていたようです。

維新政治の下で導入されたチャレンジテストには反対で、維新は教育を荒らしてしまったと主張していました。

競争社会ではなく、優しさ溢れる市政を作りたいという想いに基づき、市政に取り組みたいようです。


(初日の合同街宣で学校の先生としての経験を語っている図)


(2)主な政策

(選挙公報より引用)

 

(3)選挙戦の展開

松浦候補は、共産党市議候補と協力しながら演説等の選挙運動を行っており、宮本岳志衆議院議員や山下芳生参議院議員も応援に駆けつけていました。こうした点は、いつもの共産党の選挙運動を思い浮かべてもらえればいいと思います。ただし、「いつもの」と書きましたが、今回はオッペケ選挙は見られず、穏当な選挙運動をしていました。

(最終日に山下参議院議員が応援している図)


また、松浦陣営は、共産系にしてはかなり積極的に駅前周辺での展開を意識しており、例えば住道駅前の定点でビラ配りするだけでなく、確認団体の構成員が京阪百貨店周辺の方まで出張り、ひたすら幟を持って肉声で呼びかけながら歩き回るという力技も展開していました。


このように書くと、共産党系の候補にしてはちゃんとした選挙戦を展開しているようであり、期待感が持てそうですが、必ずしもそうとはいえない面が出てきてしまってはいました。

松浦候補は、良くも悪くも学校の先生という話し方であり、生徒とのエピソードなど具体性はあるのですが、聴衆を引き込む、通行人の足を止めさせるということはできていませんでした(朝礼の先生の話が退屈だった人にはおそらく刺さらない話し方・話の展開の仕方)。


また、後述しますが、陣営全体で高齢化が著しく、動きの活発さ、勢いという点では、おおさか・石垣両陣営に敵わない面が出ていました。

(細かい数字を伝えたいのでなければ、街頭演説で原稿は見ない方がいい)

 

3.石垣なおき候補

 (支援者と握手する石垣候補)


(1)候補者の紹介

石垣候補は、今回の候補の中で唯一の地元出身候補で、地元との繋がりも活かし、3期12年大東市議を務めてきていました。元々市議4期目に挑戦する予定だったようですが、今回市長に鞍替えすることになりました。

市議としては、前回トップ当選を果たしており、現職維新市議の中では最長の在職期間でした。


維新からすると、今まで首長を取れていなかった大東市において、現職が退任することになる今が、チャンスです。そこで、維新の中でも市政への経験と得票力がある石垣候補が、今回出馬する候補として抜擢されたのかもしれません。

(マイク収めで最後に支持を訴える石垣候補)


(2)主な政策

(選挙公報より引用)


(3)選挙戦の展開

石垣候補は、告示前に藤田幹事長と吉村知事を投入したほか、告示後も初日に横山大阪市長ほか多数の周辺自治体の維新市長、最終日に藤田幹事長らといった、維新の幹部と首長を惜しみなく投入していました。また、梅村みずほ参議院議員や高木かおり参議院議員といった国会議員、大阪維新の会の地方議員も立ち替わり大東市入りして応援に駆けつけていました。

そのほか、一般のボランティアも大東市民に限らず駆けつけており、人足が充実していました。

要するに、いつもの大阪維新の地上戦をしっかり展開していました。

(最終日には藤田幹事長、伏見枚方市長が応援に入っていた)


4.考察等

(1)結果

今回の結果は以下の通り。


当 おおさか伸子 17,204票

落 石垣なおき 14,869票

落 松浦てつろう 5,200票

 (投票率:39.70%)


大阪市に隣接する自治体で、維新が公認候補を出したものの、負けるという結果になりました。


(2)考察

(a)維新衰退の始まり…ではない

結論を言うと、おおさか候補自身の地力が素晴らしいのと、選挙戦略も極めて優れていたので、順当に勝っただけです。

石垣候補が特別に弱かったわけでも、維新が弱体化したわけでもありません。

というわけで、具体的に見ていきましょう。

 

(i)おおさか候補自身の地力

おおさか候補は、上記の通り、大東市役所職員として保険医療部課長等を歴任してきたと記載しましたが、おおさか候補の取り組んできた政策は、業界誌や他自治体でも取り上げられたり、参考にされたりすることがあったようです。


また、現職後継らしいことは先に述べましたが、そのほか、 流山市の井崎市長や霧島市の山口市議など、近畿外の他自治体首長や議員の支援も受けていました。

上の記事のように、市役所職員としての取り組みから、こうしたつながりが生まれていたのであれば、立候補前の段階で既に市外から参考にされる実績があったということであり、強いのも納得です。

(どこで知り合ったのか、山口霧島市議が鹿児島からはるばる応援に来ていた)

 

(ii)おおさか陣営の選挙戦略

①ハード面

組織力・資金力が十分にある選挙を展開していたと思います。

確認団体ポスターは、八幡市長選ほどの密度で貼られていたわけではないものの、交差点のように人の目につくポイントを、広範囲で的確に押さえていたように思います。

(極端にベタベタ貼られていたわけではないが、交差点など目に留まる場所をうまく押さえていた)

 

ビラ・選挙公報も、主張の配置や強調したい点について、しっかりしたデザインがされており、陣営にデザイン性を意識でき、かつしっかりデザインできる人がいることも窺えます。

空中戦も、適当にスマホで撮るのではなく、しっかりしたカメラを用意したり、カメラを使い分けたりして、よくここまで準備できたものだと思うものでした。

(高性能な撮影機材で空中戦もバッチリ)

 

八幡市長選の川田候補や京都市長選の松井候補のように、ポスターを広く展開できるだけの組織力や、ビラ・機材に対する資金力を見て取れ、王道の選挙戦略を展開できていました。

 

[参考]

上記で触れた京都市長選と八幡市長選はこちら。

 

②ソフト面

おおさか候補は、対抗馬の強み潰しを、さりげなく完璧にできていたと思います。

対維新の観点では、何か今までの政治を改革してくれそう・変えてくれそうという維新の強みを、「大東市初の女性市長を!」というポイントで潰しにきています。

また、維新の石垣候補は、財政改革を重視しており、バラまくだけではダメだという点を主張していました。これに対しても、おおさか候補が発案したという「大東元気でまっせ体操」を取り入れた介護予防・日常生活支援総合事業により、介護予防給付費を23.4億円削減し、別の用途に使用できたという実績を紹介し、市民の身を削らない形での財源創出をアピールして、しっかり潰していました。


対共産の観点でも、市役所で34年間勤務し、上記事業などを通し、高齢者の健康に貢献してきたことを押し出すことで、介護・福祉を重視する共産党の強みが抑えられていました。


候補者の属性・実績で相手の強み潰しをするという、王道中の王道を展開できるのは、強いというほかありません。


(iii)おおさか陣営の切り札

(茶髪の兄ちゃんなど若者にも支えられている)

 

おおさか陣営の特徴として、若い世代の支援者が活発に動いていたことが挙げられます。若者からも応援されているというアピールは、維新以上に十分できていたのではないでしょうか。

この点、候補者の息子さんがフランクな雰囲気を出してのびのびと動いていたのですが、もしかしたら息子さんの伝手で色々集まっているのかもしれません。

(この点はボランティアさんに「息子さんのご友人ですか?」と聞いてみればよかった)

(候補者の息子さんがかなり頑張っていた)

 

あと、候補者の息子さんの髪型、バンドマンにいそうというか、ブラック校則のある学校だったら真っ先に取り締まられそうな髪型です。

三流の選挙参謀なら、「選挙なんだから髪型変えろ」とか言いそうですが、普段の髪型で出てきたのは正解だと思います。おおさか候補は、34年間市役所勤めしてきたということで「お堅い候補」というイメージは十分です。役場とか銀行とかの「お堅いイメージ」と異なる人にも応援されているというのは、幅広く応援される人だという印象を広める上でも有効なのではないでしょうか。


候補者本人の実力もさることながら、息子さんの活動も相当プラスの影響を与えたのではないでしょうか?


(iv)数字で見てみよう

大東市における今回の前の直近の選挙は、2022参院選なので、この時の比例得票数を見てみましょう。 

維新について、2022参院選と今回の結果を比較すると、以下の通りです。


2022参院比例維新:18,674票(投票率48.37%)

2024大東市長選 :14,869票(投票率39.70%)

※小数点以下四捨五入


維新支持層が地方選だとどのくらい投票に行かなくなってしまうのかというのは、難しい面があるのですが、投票率8.67ポイント減に対して、約3,800票減に抑えたなら、維新が衰退したとは言いがたいことが数字でも見て取れます。

 

(b)大阪維新の会の選挙運動のキレ

(i)流石の街頭活動

石垣候補の街頭活動は、流石維新というもので、人の流れがある場所を確保して、ボランティアを面で展開して通行人に漏らさず声をかけていくということができていました。

見ていて驚いたのが、藤田幹事長が率先してビラ配りしたり、市民と話したりしていたことです。大東市は、大阪12区で、藤田幹事長の選挙区なので、こういう機会に市民に接するのは、自分の票に結びつく面があるのは確かです。しかし、野党第2党の幹事長が、地方選挙のビラ配りを行うというのは、日頃の積み重ねを大切にしているのだと思わされました。

(藤田幹事長直々にビラ配りを率先している)

 
また伏見枚方市長が応援演説を終えた後、駆け足でロータリーの通路に戻ってきて、ボランティアさんから腕章をつけたショルダーバッグを受け取って、直ちにビラ配りに入っていたのも印象的でした。市長クラスの人がすぐにビラ配りに入れるようにするという、地上戦の徹底ぶりと、きびきびとした動きは、維新の地上戦の強さを窺わせます。

(ii)ビラ内容も変化させつつある(?)
今回石垣候補のビラを受け取って、内容に目を通した時、少々驚きました。

(石垣候補のビラ表・裏)

維新候補なのに、「身を切る改革」の文字や、給与削減・退職金廃止を記載していません(市議5人のビラを見ても1人が身を切る改革について記載するのみ)。
 
たしかに、選挙公報には身を切る改革の話を書いてますし、演説で応援弁士の伏見枚方市長が、率先して身を切るということは述べていたので、維新が身を切る改革を放棄したわけではありません。
しかし、身を切る改革一本足打法では限界があることは、ところどころ指摘されるようになっています。


今回の石垣候補の証紙ビラは、そうした有権者の機微に早速対応しようとしている表れなのかもしれません。
 

(c)共産党系は諸々の厳しさが…

(i)避けられない高齢化

今回は初日の合同演説と最終の合同演説に行ってみましたが、いずれも例に漏れず高齢化が極めて進んでいました。教え子が松浦候補に声をかけてくれたという話はありましたが、現場の支援者にはいないように見えました。

候補者はたつみコータローさんとか世代交代できているところもあるとはいえ、全体で見ると世代交代が図れていないのは、やはり痛手でしょう。


(聴衆・スタッフ共に高齢化が極めて著しい)

 

また、高齢化というところとも関わるのかもしれませんが、今回は練り歩きを頑張っていた面があるとはいえ、ビラ配りなどは維新の方が優れている(もらいやすい)といえます。共産陣営はこちらからビラを受け取りに行かないと、ビラをもらえないこともあったと思います。


(ii)政策あっての共産党だが…

松浦候補は、教育問題・教師の置かれた状況、ヤングケアラーの存在などの生徒から知った問題は、現場に即した詳しい話ができる一方、(支持層が高齢なのに)介護政策に不安があるような話し方をしていました。

具体的には、初日の話はじめが、「松浦は介護のことわかっているのかと不安にお思いの方いらっしゃるかもしれませんが(苦笑)」から入っており、介護保険に関する書籍で出てきたのが岩波ブックレットであるなど、介護政策の理解は十分ではないと思える内容でした。

共産党が政策面で強みを見せられないと、なかなか厳しい選挙戦と思われます。


あと、福祉の拡充のために財政調整基金を使うというのは、共産党の負けパターンになっているので、何か上手い方法を考える必要もあるのでしょう。


(iii)小括

今回は、共産党のいつもの「オッペケ選挙」は見かけませんでしたが、「オッペケ選挙」をやらないことは最低限の要求なので、勢力拡大にはさらなる改善が必要でしょう。


(3)雑感

以上のとおり、今回はおおさか陣営が横綱相撲を展開して、力で押し切った形になったと言えるでしょう。

「なんで告示日に大阪で維新が勝てないと予想できたの?」という点については、結局、「実績・実力のある候補者が出ていて、選挙戦略もしっかり練られていたから」という身も蓋もない答えになってしまいました。


おおさか候補が結局自公の支援を受けているのか客観的証拠を持ち合わせていない(公明支援についてはあったらしい)のですが、大阪自民がこういう候補を発掘できて、選挙戦略も「夢洲にディズニーリゾートを!」とかぬかさずにまともに展開できるのであれば、公明が維新絶対倒すマンと化しているのも考えると、まだまだ大阪自民が復活する余地もあるのではないかと感じられます。

 

極端な維新一強が望ましくないのは(ごく一部の維新支持者を除き)一致する意見だと思うので(NewsBAR橋下 #218 橋下徹×東国原英夫!選挙&政治のアプデを考える/観光戦略に穴は」参照)、今回の大東市長選を見て、どういう候補者がどういう選挙戦を行えば、大阪でも維新に勝てる可能性があるのか、分析するのは重要になるでしょう。


(今回の選挙ウォッチ飯)