2023年11月5日告示・同11月12日投票の八幡市長選のレポートです。


京都市長選の前哨戦という評判も出ているこの選挙、見どころは、何といっても維新が京都府での首長取りに成功するかどうか、自立公相乗りの現職後継が維新の侵攻を食い止めるのかという点です。


0.背景


京都府と大阪府の境目にある八幡市。人口約7万人の京阪沿線では小規模な市です。

石清水八幡宮をはじめとする伝統的な観光名所があり、昔ながらの街並みが残る一方、男山団地など住宅開発もなされているので大阪・京都のベッドタウンでもあります。

こういうベッドタウンの例に漏れず、近年人口が減少傾向にあり、駅前も少々寂しさが感じられる八幡市の政治をどう舵取っていくのかが課題になります。


体調を理由とした現職の辞任に伴い行われた今回の選挙、立候補したのは、以下の3名です。

かめだ優子 (62) 新人・共産推薦

おがたけん (43) 新人・維新公認

川田しょうこ(33) 新人・自民、立憲、公明推薦


1.かめだ優子候補

(1)候補の紹介

(ライフ前で演説するかめだ候補)


かめだ候補は、八幡市議を20年間務めており、2023年の京都府議選八幡選挙区では落選したものの、今回改めて共産党推薦で出馬しました。

他候補と比べ八幡市での実務経験が豊富であることから、八幡市のことを分かっていることをアピールポイントとしていたほか、国や府に対してものを言える候補であるという点もアピールしていました。

(掲示板ポスター)


(2)主な政策


(かめだ候補のビラ。すぐやるプランとして、予算も含めた具体性がある)


(3)選挙戦の展開

(団地に向かって演説するなど、地元経験の長さを活かした活動をしていた)


かめだ候補は、短時間高頻度の演説を市内各地で連発する方式で選挙戦を進めていました。到着〜撤収まで、1ヶ所15-20分程度で行っていたこともあり、政策内容をコンパクトに整理して演説していました。

かめだ候補は政策の練り込みが他候補と比べても深いだけあり、当日に小学生から聞いた「バスケットゴールを学校においてほしい」という話を組み込むなど、話の内容も場に応じて自在に変えていたように思います。


あと、共産系の候補にしては珍しく、SNSで活動スケジュールを公開しており、有権者が選挙運動に接しやすくする動きも見て取れました。

(握手に回るかめだ候補)


2.おがたけん候補

(1)候補の紹介

(音喜多政調会長が応援に来た時の図)


おがた候補は、京田辺市選挙区から府議として3期選出され、2019年の京田辺市長選で自公推薦で落選した後、今回、生まれ育った八幡市の市長選に維新公認で出馬した候補です。

府議3期の経験のある即戦力候補として、財政難・人口減少の進む八幡市を変えたいとして、立候補していました。


(掲示板ポスター)


(2)主な政策


(おがた候補のビラ。維新テンプレ(身を切る改革など)以外も組まれている)


(3)選挙戦の展開

いつも通り、駅立ち・辻立ちを熱心にやるなどの、徹底したドブ板による安定の維新スタイルです。

また、維新としては是非とも取りたい選挙なので、維新幹部の応援がいつも以上に入っていました。八幡市は中核市でもないのですが、政治活動期間に馬場代表・吉村知事(告示日前日)、選挙期間に音喜多政調会長、吉村知事、藤田幹事長と、吉村知事ダブル投入というすごい力の入れ方です(しかも、維新のマジックミラー号に吉村知事を数時間載せてたらしいです)。


ただ、今回(確認団体)ポスターを全然使わなかったのは、何か戦略があったのでしょうか?街中で全然維新ポスターを見なかったのですが、維新は普段ポスターフル活用するはずなので、街への浸透が不十分だったのではないかという疑問はあります(何か戦略があるにしても多くのパンピーには見えてこない)。

あと、もうちょいビラの記載や演説に具体性(地名とか数字とか)が出てくると、量産型維新の候補ではなく、八幡市に密着した候補だというところが伝わったのではないかと思います(誰か財政指数上げたりしてた気もしますが)。


その他、どうでもいいっちゃいいですが、維新にしちゃ通称の設定を練っていない気がします。「おがたけん」とGoogleに入れたら、俳優の緒形拳さんが真っ先に出てくるので、SEO的には良くないですよね。


(スマホのGoogle先生で「おがたけん」を検索した結果)


3.川田しょうこ候補

(1)候補の紹介

(議員らに囲まれて演説する川田候補)


川田候補は、京大→京都市役所→山東昭子議員秘書という、国政選挙に出てもおかしくない綺麗な経歴の持ち主で、満を持して今回の選挙の候補者として選ばれた候補です。
33歳という若さと女性という点も押し出されていたほか、京都府と唯一連携できる候補であることが強調されていました。

川田候補の演説によると、弟が知的障害を抱えており両親が苦労してきたこと、行政が十分なサービスを提供できていないと感じたことが政治を志すきっかけになったようです。こうした福祉面の主張をするだけでなく、自民系の強みを踏まえ、府と連携したインフラ整備なども関心を持っているようでした。
(よくこんな人引っ張ってこれたな自民京都府連…)


(掲示板ポスター)


(2)主な政策


(確認団体ビラ。まちづくりは府との連携を背景に踏まえていそう)


(3)選挙戦の展開

後で書きますが、資本投下量がおかしいレベルです。物量・人海戦術で圧倒しにきていました。

また、自立公相乗りだけあり、超党派で地方議員や国会議員、京都府知事も応援に入っていました。国政選挙でもここまで注力することは少ないのではないかと思います。


なお、候補者本人は真面目そうで、駅立ちなどはしっかり行っており、資本力にあぐらをかいていたわけではなさそうです。


4.考察等

(1)結果

今回の結果は、以下の通りです。


当 川田しょうこ 10,516票

落 おがたけん    8,334票

落 かめだ優子    5,878票

(投票率:43.67%)


JX通信の世論調査通り、川田候補とおがた候補が接戦を繰り広げ、川田候補が差し切りました。


(2)考察

(a)選挙における「アンチ巨人」

(i)前提

まず、前提として、川田候補の選挙運動を写真でわかる範囲でご覧ください。


①ポスター・看板

(岩清水八幡宮駅を降りると目に入る川田候補の看板。写真だと手前の時刻表の文字より「川田」の文字の方が大きく見える)



(主要な交差点を軸に、50-100m歩けば1回は目に入る川田陣営の看板・ポスター)

(初日に撤去しきれず残っていた政治活動ポスター。バス停付近を押さえていることに注目)


②事務所

(交通量も多い、市役所前の一等地に綺麗な事務所。なお市役所は期日前投票所。)


③人員

(土曜日の期日前投票所だったこともあり、演説開始3時間前から10人体制でアピール。他にも男山泉交差点(交通量は多いが府境の辺)に確認団体で10人置くなど人海戦術を敷いていた)


④什器

(選挙期間中は使えない2台目以降の確認団体カー。1台壊れても余裕)

(天候・昼夜問わず候補者をLEDでライトアップできるように配慮されている選挙カー)


ここまで圧倒的な物的・人的資本が投下されている候補は珍しいのではないでしょうか。


(ii)圧倒的資本への反発?

(西脇知事も応援に駆けつけた)


川田候補本人は、前述の通り、政治家としてかなり綺麗な経歴の持ち主です。

川田候補の現場での動きを見ても、出馬の動機や政策について、自らの家庭環境なども交えた具体的エピソードを自分の言葉で話し、政策内容も福祉や経済に目を配ったものでした。若さへの不安感も市民と共に政策を実現していくと述べ、払拭しようとしていました。

また、応援弁士の演説中も手を振り続けていたり(西脇知事がくたびれるからと止めるレベル)、逐次「ありがとうございます」と有権者だけでなく陣営の人にもお礼を言うなど、態度もしっかりしていました。

つまり、川田候補は、ポンコツではなくかなりいい候補に入ると言えます。


ここに圧倒的資本が投下されたら、普通は有無を言わさぬ圧勝だと思うのですが、接戦になったのは、プロ野球でいういわゆる「アンチ巨人」と同じメンタルが働いたのではないでしょうか?

ここまでやると、ローズ、高橋由伸、小久保、ペタジーニとかやって控えに清原と江藤がいるとかいう、金に物言わせた巨人軍的な布陣に見え、金満政治を嫌がる人が出てもおかしくはない気がします(例えで年齢が特定されそう…&野球知らない人スイマセン)。


(b)維新は健闘、とはいえ府境の壁は高かった

(吉村知事らの演説に集まる人々)


自立公相乗りで維新を阻止すべく、大量の資本投下を行い、候補者自体もかなりいい候補を送り出してきた中、維新も維新で相当健闘したと思います。

おがた候補は、京田辺で出馬し続けていたというネックはあったものの、八幡生まれ八幡育ちという点を説明できていました。

自公からの鞍替えがダメだという意見も見られましたが、京田辺市長選に自公推薦で落選したのも直近の統一地方選ではなく4年前のことです。所属政党が当時と変わってもおかしいとは言いにくいでしょう(個人的には東大阪の野田市長と同じ「寝返り」扱いは、おがた候補に気の毒だと思います)。また、維新自体も元自民の人たちが創設したもので、鞍替えを受け入れる土壌はあります。そのため、鞍替えもあまり強い批判にはならないと思います。


そういうわけで、反維新バイアスをかけなければ、おがた候補は悪くない候補だと思います。それでも自公立を破ることができないとなると、やはり維新にとって京都府の壁はなかなか高いのでしょう。京都府議選では八幡市選挙区でトップ当選したなど、維新の勢いがある面もみられるものの、大阪のように独走体制を敷くにはまだまだ時間がかかりそうです。


(c)府市連携を巡る戦い

川田陣営が「府と唯一連携できる候補」とアピールしたものだから、おがた陣営は「維新だったら連携しないのか」、「行政をわかっていない」など、綺麗にカウンター攻勢を仕掛けていました。


ポンコツ自民候補が「府とか国とかとのパイプがー」と言っていたら、「アホがなんか言ってる。」で片付けるのですが、今回は戦略のぶつけ合いを感じられ、面白く見ていました。


というのも、維新といえば大阪都構想ですが、その背景には、「(今は人的関係で連携できているが、)かつては二重行政で府と市が連携できなかった」というのが出てくるでしょう。

今回あえて川田陣営が連携を押し出したのは、「維新の言ってきたことからしたら、維新じゃない京都府知事との連携ってできるの?」という批判を込めていたのではないかと推察します。


(d)都道府県議落選→市区町村長は無理(?)

かめだ候補は、共産系の中では有権者の近寄り難い選挙運動(共産党員の人スイマセン)をやっておらず、SNSも上手に駆使して、かなり具体的な政策を挙げており、説得力もありました。候補者自体はかなりいい線と思います。

とはいえ、やはり府議選に落選した直後の市長選挙に出てくると、なかなか伸ばしづらいところもあったのではないでしょうか。


東大阪でも、突如義憤に駆られて出てきた政治経験0の人と大阪府議選に落選した共産系候補があまり差のない結果になったように、落選直後の首長選に出馬するというのは、筋が良くないように思いました。


(e)京都も共産は高齢化がすごい

(スーパー前でのかめだ候補の聴衆)


やっぱり共産系の支援者は高齢化が進んでいますね。

(三重県の若返り方はアレどうやったんだと聞きたいくらいですが、そこまでいかなくとも)氷河期世代とかその辺にもっと訴求しないと、得票数だけでなく選挙運動の維持もキツくなってこないでしょうか?


(3)雑感

(a)ちょい反省

(i)事務所パシャパシャ撮ってスイマセン

おがた陣営の事務所をパシャパシャ撮ったあと、かめだ候補以外の動向が不明だったので、この後どうしようとフラフラしながらぼーっとしてたら、事務所の人が気になったみたいで、ちょっと不審そうに声をかけられてしまいました()

証紙貼りの邪魔になってたらゴメンナサイ(>_<)

(府境の交通量の多い交差点に陣取っている事務所。シャッター化しつつある商店街を立て直せるか…というような内容で使いたかった)


(ii)予想を見事に破られました

初日に見た時に、「川田>(大差)>かめだ>おがた」の順になると予想しましたが、大外ししました(>_<)


なんでこんな無謀な予想をしたかと言うと、京阪が人身事故で止まって、現地入りが遅れた中で、↓の図を見たからなのですが、ポスター貼りはたまたま間に合ってなかったっぽいですね()まあ石清水八幡宮駅って八幡市の端ですしね。

予想は最終日まで保留するようにします()

(維新のポスター貼り、普段は超速なのに、駅前一等地でこれ見たら、おがた候補劣勢と誤解しても仕方ないですって(弁明))


(b)京都市長選への影響は?

ないと予想します。


中核市でもない八幡市で、自立公がここまでやって負けたら逆に大事故も大事故です。ここで維新が負けたからといって、維新の士気の低下は起こらないでしょうし、有権者も維新はもうダメだとは捉えないでしょう。

数字上も、対決構図が似ている選挙で見ると以下のとおりであり、維新支持が国政選挙や統一地方選で跳ね上がる時期を除き、漸減する傾向にあることからすれば、傷が深いとも言えません。


<八幡市維新得票数・率(2023府議→今回)>

8,240票(38.5%)→8,334票(33.7%)


というわけで、この選挙が京都市長選の帰趨に影響する程度は小さいでしょう。


むしろ、自立公が松井孝治さんを擁立することになっており、維新支持者ですら勝負あったと思っている人が散見されること、その一方で維新は公認候補にこだわり候補者選定でぐだっていることの方が、京都市長選の情勢を決めていると思います。


(c)その他

今回の選挙は、情勢的に消化試合ではなく、後に京都市長選が控えていることもあり、どの陣営もかなりいい候補を出していたように思います。

今回、各候補の政策をビラをアップして紹介しましたが、各候補ともよく考えているように思います(おがた候補がちょっと維新テンプレ感あるかな?)。

いい候補が並立していい政策が出てくるのは、いいことです。


あとは、川田市長が公約・政策をしっかり達成するよう、選挙が終わったからと言って関心を失わず、市政を各自チェックしていく必要があるでしょう。