公理的な定義 | うろこ雲のブログ

うろこ雲のブログ

ブログの説明を入力します。

線形代数はまっすぐな空間の性質を調べる数学です。


まっすぐじゃない空間なんてあるのかというツッコミがきそうですが、この宇宙にしてもいくらか曲がった空間になっているらしく、まっすぐであることはなかなかに貴重な性質であるようです。


ともあれ、線形代数では空間を公理的な方法で定義します。


これは「こうこう、こういう式が成り立つものが(まっすぐな)空間なのだ」という風な抽象的な定義のしかたです。


はじめてそういう定義を見たときには、かなり面くらうことが多いようです。


式の一つ一つはそう難しくないのですが、どうしてこんなわけのわからない定義をするのかという、まさにそのことが謎めいています。



そこで、線形代数からは少し離れますが、次のような公式を考えてみることにします。


① (x+y)(x-y)=x^2-y^2


この式は次のようにして確かめられます。


(x+y)(x-y)=x(x-y)+y(x-y)=x^2-xy+yx-y^2


         =x^2-xy+xy-y^2


         =x^2-y^2


ここで使われているのは足し算と掛け算についての交換法則と分配法則・結合法則のみです。


ということはその性質さえ成り立てば、x,yがどんなものであっても①の公式は(同じ証明により)成り立つことになります。


すると、x,yが整数の場合,実数の場合,整式の場合,関数の場合などを一々別個に証明しなくても、一度ですべてにあてはまる証明ができて便利であることがわかります。


線形代数でも同じ理由で、まずはいろんな場合にあてはまる性質そのものに着目します。


その性質が成り立てば同じ公式や命題が成り立つことが示されるので効率的だからです。



線形代数では空間を点の集まりであると考えます。同時に、点はベクトルとして扱われます。


そのため、(まっすぐな)空間は「ベクトル空間」と呼ばれます。


ベクトル空間の公理は次のような内容を持っています。



② ベクトルには足し算と引き算が定義され、また数との掛け算も定義される


③ 原点にあたるベクトル(=ゼロベクトル)がある


④ 数とベクトルの計算において通常のベクトルと同じような計算が行える



要するに高校でやったベクトルの性質をそのまま取り出しただけです。


④はもうすこし具体的に言うと次のような内容です。



⑤ ベクトルの足し算について、交換法則と結合法則が成り立つ


⑥ ゼロベクトルを足してもベクトルは変わらない。また、どのベクトルにも逆ベクトルが存在する


⑦ 数とベクトルの計算において、分配法則と結合法則が成り立つ


⑧ 1を掛けてもベクトルは変化しない



⑦は式で表すといくつかの内容が含まれますが、要は高校でやったベクトルと同じように扱えるということです。


こういうなんでもない内容でも、一つ一つを式で表して並べるとなんだかわけがわからないような説明になるのですが、そこに眩惑されないで落ち着いて見てみれば大したことは言っていません(笑)


たとえば⑥の前半部分だと



⑥´ 零ベクトル o∈V が存在して、すべての v∈V について v+o=v を満たす



みたいな説明になって意味不明な感じがしますが、ここではVは空間全体,oがゼロベクトル,vが一般のベクトルを表していて、単に、「ベクトルにゼロベクトルを足してももとのままである」と言っているだけのことです。


線形代数は公理的な定義に眩惑されそうになりますが、結構見かけ倒しなので安心してください(笑)


(つづく)