コーシー列のココロは、収束する先がわからない時には代わりにずーっと先の項を使って収束の定義を試みてみるということでした。
しかしその有効性はあくまで希望的観測の域を出ないので、確かめてみる必要があります。
数列
① a1,a2,a3,……
が収束することとコーシー列であることとの関係はどうなっているのか。
結論を言えば、実数列や複素数列などの場合には
①が収束する ⇔ ①はコーシー列である
が成り立ちます。このうち、
② 収束する ⇒ コーシー列である
の証明は簡単です。
たとえば①がbに収束するとすると、任意の正数εに対してある自然数Nが存在し、N<nを満たす任意の自然数nに対し|an-b|<ε/2となります。(εの代わりにε/2に対してNを用意していることに注意してください)
すると、N<n,mならば
|an-am|≦|an-b|+|am-b|<ε/2+ε/2=ε
となるので、コーシー列の条件が満たされます。これにより②が示されました。
③ コーシー列 ⇒ 収束する
の証明は多少の手間がかかります。
ここでは①が実数列である場合に、上限と下限を使った証明を考えてみましょう。
実数の(空でない)集合Sが与えられたとします。
ここで、次の3つの場合が考えられます。
(ⅰ) Sに最大値Mが存在する場合
(ⅱ) Sの中にいくらでも大きな数が存在する場合
(ⅲ) 上限はあるけれど、最大値が存在しない場合
(ⅰ)の場合、Sの上限 (sup S)はMとなります。
(ⅱ)の場合はsup S=∞です。
(ⅲ)の場合、「Sのどの要素もD未満であり、しかもDにいくらでも近い数がSの中に存在する」ような実数Dが存在します。このDがsup Sとなります。
下限(inf S)についても同様です。
さて、①のn項目以降を集めた集合
{an,an+1,an+2,……}
をSnと置きます。
コーシー列の定義においてε=1に対するNをとると、aN以降の項amは
④ aN-1<am<aN+1
を満たすので、sup Sn ≠ ∞ です。また、nが増加するにつれてsup Snは減少(より正確には非増加)します。
しかも④より aN-1< sup Sn です。
下限のある減少数列は収束するので、pn=sup Snと置くと、数列{pn}は極限値pを持ちます。
同様に、qn=inf Sn と置くと、qn≠-∞であり、数列{qn}は極限値qを持ちます。
ここで、仮にp≠qであったとして矛盾を導きます。
この場合、q<pとなりますが、(p-q)/2より小さい正数εを任意にとったとき、p-ε<anとなるような項anが無限に存在します。(∵ 各mに対しp≦pmなので、m項目以降に必ずp-ε<anとなるようなanが存在します)
同様に、q+ε>amとなるような項amも無限に存在します。
すると、コーシー列の条件においてε´=p-q-2εに対するNをとることができなくなって矛盾します。
よって背理法によりp=qとなります。
ここで、任意の正数εに対し、pN-p<ε,q-qN<εとなるようなNをとることができます。
するとN項目以降のどの項anもpNとqNの間にあるので、p=qとの誤差はε未満となります。
よって①は極限値p(=q)に収束することが示されました。
以上により、実数列①に対して
⑤ 収束する ⇔ コーシー列である
ことが確かめられました。
それでは90年代にヒットした Ace of Base のこの曲を。
https://www.youtube.com/watch?v=30n5EL38Lbs (The Sign / Ace of Base)