二ートの僕が子育てをしたら 第1章 18話
皆さん、こんにちは。
黄金龍星です。
早いものですね。
もう5月です。
そして、この物語も早くも第1章を終えます。
隆の人生が、これから本格的に変わって行くことになる前にしばしの休憩。
それでは本編をどうぞ。
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二―トの僕が子育てをしたら 第1章 18話
仮想と現実のリンク
(17話を読む)
僕はミサキさんと約束したベンチで岬を抱いて待っていた。
待っている間に考えていたことは、
僕の世界がとても曖昧になっている。
ということだ。
僕がバーチャル・パレンツの世界の住人になり、しばらくの時間が経った。
こうして岬の父親という気持ちも芽生えるようにもなった。
こんなふうに、仮想と現実の世界を行き来すると毎日の生活の様々なことが曖昧になってくる。
現実の世界の僕は傍目で見ると何も変っていないように見えるだろう。
以前と何も変らないニートだ。
でも僕にしか分からないことだが、以前と比較して随分と僕の内面は変ったような気がする。
他人から見れば、現実逃避をしてこのバーチャル・パレンツという仮想世界に逃げ込んでいる
哀れな人間に見えるかも知れないが、
僕の中ではそうではない。
言葉にするのはむずかしいが、何かが少しずつ変化している。
つい最近ある出来事があった。
僕が本当に生きている現実世界の出来事の話だ。
ある朝、いつものように母親がパートに出かける際のことだった。
「隆ちゃん朝ごはんを置いているから食べてね」
といつもどおり母親が僕に声を掛けた際に、
「ありがとう」
と僕は思わず言ってしまった。
言った当の本人の僕も驚いたが、一番驚いたのが母親だ。
「え、いま何を言ったの?」
母親がびっくりしていた。
僕は少し気恥ずかしさもあったが、
「ありがとうって言ったよ」
と言うと、
「うん。しっかり食べてね。」
と少し嬉しそうにしていた。
普通の一般的な親子にとってたいしたことではないかもしれない。
でも、僕の現実世界ではこの程度のことでも変化と感じるほど、毎日の変化なんて何も無かった。
バーチャル・パレンツの世界での影響が僕に何かを及ぼしているような気がする。
そんなことを考えていると、
僕の中にある二つの世界の境界線が曖昧になっていることに気づいた。
いつの間にか僕は長い暗闇から解放されつつあるのではないかと。
そんなことを考えていると、ミサキさんと勇君が戻ってきた。
ミサキさんが、
「すいません。お待たせして」
と勇君と嬉しそうな顔をしている。
僕は、
「何か良いことでも言われましたか?」
と言うと、
「そうですね。嬉しいことを言われたような気がします」
とニンマリしている。
僕は何を言われたのかを聞いてみたい気持ちになったが、それはやめることにした。
こういうのは自分の中で大切にして置くことが大事なような気がしたからだ。
それから、しばらく僕達は施設内を歩くことにした。
すると勇君が、
「さっきのママとお話していた人に聞いたんだ」
僕は勇君に、
「何を聞いたの?」
と聞くと、
「虹の下にどんな宝物があるのって聞いたの」
僕は勇君に、
「どんな宝物があるの?」
と聞くと、
「えっとね。僕にかわいい妹ができるって。」
勇君の言葉にミサキさんが、
「そんなこと言わないの。もうおしゃべりなのだから。」
と勇君の口を手で塞いだ。
僕はふと冷静になり、
「ミサキさんは誰の子供を産むのだろう。
あれ、この世界では二人目の子供をどうやって持つことができるのだろうか。」
という疑問を持った。
ミサキさんは何もなかったような顔をしている。
このことについてミサキさんに聞いてみたい衝動に駆られたが、聞いてしまうともうミサキさんに
会えなくなるような気持ちがしたので、あえて何も無かったような振りを僕もした。
それからしばらくして、僕は別れた。
さっきの勇君の言葉。
あれは何を意味するのだろう。
岬との帰り道の中、そのことばかりを僕は考えていた。
(第2章につづく)
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