上田麗奈さんがついにフルアルバム
「Empathy」をリリース。
過去にリリースされた上田麗奈さんのミニアルバム「RefRain」とシングル「sleepland」はどちらも僕の年間ベストソング10選に入ったほど評価がバチクソ高い。
何より上田麗奈さん本人の個人名義歌唱に対する野心の強さが高すぎるのだ。「こういう曲をこういう表現で歌いたい」という思いが一曲一曲ごとに強いというのが彼女の特徴なのである。
それを察してか楽曲提供者も気合を入れて製作しているので相乗効果で毎度高水準の音楽を我々に届けてくれている。
「Empathy」のリリースは本当に待ち遠しかった。
過去のリリースがミニアルバムとシングルだけだったこともありフルアルバムとしての上田麗奈の音楽が聴ける待ち遠しさが大きかったのである。
そして一聴。期待で上がりまくってたハードルを彼女は軽々飛び越えてきた。
元々Empathyの全曲感想は書くつもりではいたが更に全曲感想に残さなくてはという使命感に駆られる結果となった(笑)
そんなこんなで曲目はこんな感じ。
縦書きがオシャレ。
なんと本人単独の作詞が2曲も!これは楽しみであった。今まで補作詞という形で歌詞に関わってはいたけど単独は無かった模様。
早速全曲の感想を書いていこうと思う。
あとこのアルバムは自身によるライナーノーツ(曲の解説)があるのでそれと照らし合わせながら進めてみたい。
1.アイオライト
作詞:上⽥麗奈 作曲・編曲:Kai Takahashi (LUCKY TAPES)
→1stフルアルバムの1曲目で自分で作詞する声優おる?
更に1曲目からBメロに7/8拍子を叩き込んでくる声優おる?
自身のライナーノーツにも書いてある通り以前曲を出した時からの変化についても歌詞に表されていて、確かに以前はビョークやシガーロスのようなアンビエントで北欧感のある曲が多かったが今作はレディオヘッドのようなUKチックなポストロックの影響を受けた作品が多い様に思える。
それにしてもBメロの7拍子を歌っている時の吐息が心地よい。声優としてのスキルもバッチリ曲に落とし込んでいる辺り、声優アーティスト上田麗奈のポテンシャルの高さを誇示出来ている。一曲目として本当に文句無しの極上ポップス。
2.あまい夢
作詞・作曲:ORESAMA 編曲:⼩島英也
→いきなりI maybe〜と歌い出してからの軽快なBPMで刻まれるリズムはあの「恋愛サーキュレーション」を彷彿とさせる。そしてこの歌詞とライナーノーツはまんま「ヤマアラシのジレンマ」を表していて一曲丸ごと使って好きな人への絶妙な距離感を歌い上げている。ORESAMA凄いなぁ。シンセとベースの絡みも絶妙で時に歌と音ハメユニゾンする箇所が本当にツボ。めちゃくちゃオシャレ。
3.Falling
作曲・編曲:⽯川智久
→声優アーティストのアルバムにインタールードが入るのは珍しい上になんと2曲も入っている。
この曲はシンセの音を軸に上田麗奈さんの声をサンプリングして速さやピッチを変えた「あまい夢」と「ティーカップ」のフレーズが用いられている。
「声」を存分に活かしたまさに声優アーティストとしてのインストとなっており「あまい夢」と「ティーカップ」の極上の繋ぎとしても作用している。僅か1分半のインストでもこれだけ語れちゃう。
4.ティーカップ
作詞:安藤紗々 作曲・編曲:広川恵⼀ (MONACA)
→5拍と3拍で無理やり4/4に押し込んだイントロのフレーズが印象的。本人も「いい意味でとっても気持ちわるい曲」と語っているのが面白い。歌詞もティーカップを持った自分の視点とティーカップの中から見た外の世界の詩世界が目まぐるしく交差してこっちも不思議な気分になる。
Cメロの「あぁ ゆだねてしまいたいのに〜」の歌い方とコーラスワークでこの曲は山場を迎える訳だが本当に上田麗奈さんの表現力に恐れ入る。
5.いつか、また。
作詞:RIRIKO 作曲:⼭⽥かすみ 編曲:笹川真⽣
→この曲を聴くといつも胸が押しつぶされそうになる。ここまで泣き声のような歌い方で感情を落とし込んだ歌い方はある意味ギャンブルで人によっては拒否反応を起こす人もいるかも知れない。ぶっちゃけオタク受けも悪いかも知れない。それをアルバムに入れた英断にも天晴だし「声優が楽曲を出す意味」にも的確にアンサーしていると個人的には思っている。
「私ダメで〜」から「扉をノックするんだ」を経て「さあ目を覚まして」のカタルシスを表現出来る歌い手はどれほどいるだろうか?と思わせてくれる。独自の存在感を放つ一曲。
6.きみどり
作詞・作曲:Chima 編曲:下川佳代
→オタクの大好きな3拍子曲。変化を受け入れる怖さと変化を受け入れた時に見える新しい世界を表現した詩世界の完成度が高過ぎる。
音数も少なめになっており上田麗奈さんの歌声そのものが活かされている。気持ちが浄化されるような極上の4分間を味わえると同時にアルバム前半戦を締めくくる最高の曲となっている。
余談だけどサビのコーラス初音ミクが入れてない?(気のせい)
7.Another
作曲・編曲:⽯川智久
→私信感あるタイトル。アルバム2曲目のインタールード。
「Falling」よりも荘厳なイメージでやはりこちらの曲も「旋律の糸」のフレーズがサンプリングされていたりと「声」を活かした作りになっている。と同時に雰囲気の変わるアルバム後半戦に向けて一息付くようなインスト曲。アルバムに2曲も歌無しを入れてるにも関わらず全然クドくないのは本当に作り手の熱意が込められていることの現れだと思う。
8.aquarium
作詞:唐沢美帆 作曲・編曲:⾼橋 諒
→僕的今作のMVP。毎日狂ったように聴いている。
ノリやすい曲が好きな声優オタクに対して変拍子を臆せずぶっ込んで来る上田麗奈さんだがこの曲は特にイカれていてAメロは5拍子、Bメロが3拍子でサビで通常の4拍子に戻る作りになっているし曲の最後はサビで落とさず独立した展開を使って締めている。なんだこれは…。
TRUEさんの詩世界も驚きだ。アクアリウムを外から見た景色ではなく「私の心」がアクアリウムの内側から脱出する内容になっている。その水中の息苦しさを表現するための5拍子と3拍子だとしたら本当に鳥肌が立つ。歌詞の「濃紺のカーテン」はまさに水中から見た水面の景色だし「逆さまの空」はまさに水面に写る空だしTRUEさんの写実的な作詞力が本当に本当に凄すぎる。
サビ最後の歌い方も本当に好き。この感情の込め方はなかなか出来るものではない。
マジでこのアルバムでダントツ好きだしなんなら人生で聴いた曲でTOP20の中には間違いなく入る。
9.旋律の⽷
作詞:RIRIKO 作曲・編曲:⽯川智久
→ベーゼンドルファーという聴き慣れない名前のピアノを用いて作られた曲。ピアノと声と少しのリバース音のみで作られたシンプルかつ破壊力抜群の曲。最後のラララララのリフレインがだんだん近づいて来る様子はイヤホンで聴いてると鳥肌が増す。
Empathyの曲については明確に上田麗奈さんが演じたキャラクターから自身が共感(Empathy)した内容を作詞家に伝えて作った曲であることが明言されている。この曲は「ハーモニー」の御冷ミァハの影響を受けているらしい。作品見てみようかな。ちなみに「いつか、また。」はグリッドマンのアカネ君とか何とか。
10.Campanula
作詞:上⽥麗奈 作曲・編曲:加藤達也
→「カンパニュラ」ってなんだ?と思って調べたら和名で風鈴草と呼ばれる植物らしい。しかも花言葉は「感謝・誠実な愛・共感・節操・思いを告げる」とのこと。まさに今回のアルバムの為の曲なんだなぁ。ごめんねではなくありがとうを伝えるという一貫したコンセプトの詩世界、これ本当に上田麗奈さんが作詞したのか!?という素晴らしい内容。どうやらアニポケのマオから共感して書いてるらしいけど見てないからなぁ…。実際このEmpathyを一本の映画に例えるとこの曲がクライマックスシーンみたいな、そんな極上のバラードナンバー。
11.Walk on your side
作詞:松井洋平 作曲・編曲:⽥中秀和 (MONACA)
→「Campanula」が映画のクライマックスシーンならこの曲はエピローグとエンドロール。イントロから大団円を連想させるピースフルなフレーズ。アルバムの最後にクライマックスの山場を持って来ずに最後から2曲目にピークを迎えさせて最後に余裕を持ってエピローグ的な曲を置くってのは本当にこの「Empathy」が自信作って事。
100点の作品を作りたいなら「Campanula」をラストにすれば良い。けどこのアルバムは120点を目指したからこそこの曲がラストに鎮座している。
曲調としても最後に相応しいしド頭の「アイオライト」に戻るにも違和感の無い繋がりになってて本当に完璧だと思う。
「優しい声が応える それがほんとに嬉しくて どうしたって過ぎてく毎日をがんばりたい」ってラストの歌詞がこれまでのアルバム曲を踏まえると説得力が強過ぎるし、他の楽曲でも見せてる上田麗奈さんの「安定感のある不安定な揺らぎ」も味わい深い。これは正真正銘声優的な技術だと思うし声優アーティスト楽曲の醍醐味だ。
こんな感じで全曲の感想を閉じたいと思う。書きながらアルバムを聴いてたら更に書きたいことがジャンジャン出てきたけどキリが無いからやめとく(笑)
さてここからは余談になるのだがこの「Empathy」を聴いていたらとあるアルバムに雰囲気が似ていたので軽く語ってみたいと思う。
それはイギリスのロックバンドRadiohead(レディオヘッド)の
「KID A(キッド・エー)」という作品である。
このアルバム、発売が2000年なので今年で20周年を迎えたおめでたいアルバムだ。
簡単にアルバムの説明をすると
「1st〜3rdアルバムで極上のロック音楽を完成させて大成功を収めたバンドがこれまでのロック的な表現を自らぶっ壊して実験的な電子音を大胆に用いて作り上げ賛否両論を巻き起こした4thアルバム」
である。全然簡単じゃ無かった。
「Empathy」を聴いてて気付いたKID A感をこじつけながら書くと1曲目から変拍子を交えて少しのサプライズを与えてきた「アイオライト」はロックフォーマットの破壊と再生を高らかに宣言し世界にサプライズを与えた1曲目の「Everything in its right place」だし、ダンサブルな「あまい夢」は「Idioteque」、インストの「Falling」は静かで美しい「Kid A」を感じさせる。
不規則なリズムで雰囲気を作っている「ティーカップ」は奇妙なリフで引き込んで来る「In Limbo」、「いつか、また」だけは該当曲が無かったが3拍子曲の「きみどり」は4拍子3拍子3拍子のポリリズミカルなアコギが鳴る「How to disappear completely」にこじつけられる(こじつけと自分で認めている)。
荘厳なインストの「Another」は「Treefingers」を連想させるしこのアルバムって「KID A」っぽいな?って気付いたのが実はこの曲から。
5拍子を駆使したスーパー名曲「aquarium」は同じく5拍子を用いていてこの「KID A」と次作の「Amnesiac」にも別バージョンが収録されたスーパー名曲である「Morning bell」と言えるだろう。
ほぼピアノのみで構成されている「旋律の糸」も「KID A」に該当曲は無いが次作に収録された「Pyramid song」のピアノ的な美しさを連想させる。
そしてアルバムのラストを締めくくる「Campanula」と「Walk on your side」の大団円感は間違いなくKID Aのラストを締めくくっている「Motion picture soundtrack」だ。
発売から20年経った今でもロックシーンに燦然と輝いている「KID A」のように「Empathy」も20年後、名盤として語り継がれているだろう。と同時に上田麗奈さんの次回作にも今から期待が高まっている。
余談もこの辺で。
はーやっと書けた。
これでやっと麻倉ももさんの「Agapanthus」が聴ける…。


