出勤途中や会議中に突然、お腹の調子が悪くなりトイレに駆け込まずにいられない。そんな便通異常を繰り返すが、病院で検査しても体に異常が見当たらないのが特徴。放置すると悪循環に陥り、仕事の失敗にもつながる。早めの対処が肝心だ。
【脳から腸に反応】
胃腸は“心の鏡”といわれるように、脳のストレスの影響をとても受けやすい。よく「悩み事が多くて胃が痛い」という言葉を耳にするが、この病気の場合、腸にその症状が現れた状態だ。
「消化管の働きは脳の視床下部の自律神経によって無意識のうちにTPOをわきまえてコントロールされている。ところがストレスの影響で視床下部に狂いが生じると自律神経が正常に働かなくなり、腸の運動が乱れてしまう。
また『脳腸相関』といって、脳がストレスを感じると腸管が敏感に反応するのです」と脳と腸の密接な関係を説明するのは、表参道内科胃腸科クリニックの大黒学院長。
そのため発症には、ストレスを受けやすい性格かどうかも大きく関係する。きちょうめんで超まじめ、責任感が強い、気弱で内向的といったタイプの人は要注意だ。
【また起こるかも】
症状が出やすいのは朝食後の午前中。きちんと排便を済ませているにもかかわらず、あるシチュエーションになると突然、発作のように腹痛や便意をもよおす。
排便をすれば、その時はお腹の症状は治まるが、残便感があり、1日に何度もトイレに駆け込むことになるのでうっとうしい。
「多いのは出勤途中の電車内、商談中や会議中など。トイレに行けないような状況になると決まって起こる。
大事な場面で繰り返すと『また起こるのでは』という不安がさらにストレスになって悪循環に陥るのです」
腸の運動異常によって排便のタイプが異なる。腸からの水分の吸収が悪いと下痢型(男性に多い)。腸のぜん動運動が悪いと便が出にくく、ウサギの糞のようなコロコロした便になる便秘型(女性に多い)。下痢と便秘を交互に繰り返す交替型もある。
【新薬登場】
精神的ストレスが関与するので根治は難しいが、対症療法で便通をコントロールして不安を取り除くことが大切。治療では便性状改善薬をベースに複数の薬剤を組み合わせて様子をみていくことになる。
また、男性の下痢型に限っては、過敏な腸の運動や痛みが脳に伝わるのを防ぐ新薬が昨秋保険適用になったばかりだ。
大黒院長は「便通改善には時間がかかるが、1、2週間で効果がないと、すぐにあきらめて医療機関を転々としている人が少なくない。ある程度の試行錯誤は避けられないこともある」と腰を据えた治療の大切さを強調する。
長引く便通異常には大腸がんの危険性も潜む。検査だけは早めに受けるようにしよう。
★「過敏性腸症候群」チェックリスト
(1)下痢や便秘が長期間続いている
(2)突然、便意や腹痛が起こる
(3)出勤途中や会議になるとお腹の調子が悪くなる
(4)排便をすればお腹の症状が楽になる
(5)排便後も残便感がある
(6)お腹の症状は午前中に多い
(7)ガスがたまりやすくお腹が張る
(8)休日や夜間にはお腹の症状はない
(9)几帳面、まじめな性格といわれる
(10)仕事で悩み事を抱えている、またはストレスを強く感じている
3つ以上該当するようなら疑いが強い
*表参道内科胃腸科クリニック(東京・神宮前)/大黒学院長作成