特養入居が決まり退院の日が決まった。


3か月余りの入院で認知症がどれだけ進んでいるか不安だった。私のことがわかるのか…


退院当日、病棟で会計の書類を受け取り会計を済ませ母を迎えに行くと、車椅子で母が出てきた。


私を見た母が開口一番

「あら、何しにきたの?」と言う。

時間の感覚がないので久しぶりという感じがないが、私のことは覚えていたのでホッとした。

車椅子から降りて、看護師さんに腕を支えてもらいながら歩く母を見て頑張ったんだなぁと泣きそうになった。


エレベーターホールから車に乗るまで、すれ違う看護師さんやリネン交換の人、リハビリの先生たちにニコニコとハイタッチする仕草をしながらご機嫌に無事退院した。


特養に入居する為に少し衣類を買いに寄り、回転寿司に昼ご飯を食べに寄った。

マスクを外した母を見て主人と私は驚いて顔を見合わせた。入れ歯をしていない為に漫画に描くようなおばあちゃん顔だった。

病院ではお粥メインと言っていたので入れ歯を使っていなかったようだ。

それでも茶碗蒸しと好物のマグロ、いなり寿司を食べられた。


入居の時刻まで時間があったので通っていた地域カフェに立ち寄ると「歩こう会」や「ちぎり絵」で一緒だった人たちが迎えてくれた。母は皆さんのことを覚えているようで得意のジョークまじりの会話を楽しんでいた。記念撮影をした写真の母はにこやかに嬉しそうだ。


その後、自宅に寄ると玄関先の梅の花を見て「いい具合に咲いてるじゃない」と花好きの母らしい言葉。

しかし、部屋に入ってもしばらく感想がなくキョロキョロ見回して「あぁこれね、これあったわね。うん、そうそうこれね。」と、壁に飾ってある写真やぬいぐるみたちを指差してうなづいていた。


「階段をささっと上れるようになって、もう少し早く歩けるようになるまで〇〇(特養)でリハビリ頑張ってきてね」と言うと心配していた抵抗もなく自宅を出た。


特養に着くと入居前の説明と顔合わせがあった。


施設長、ケアマネ、相談員、フロア担当、看護師と次々応接間に入ってくると、母はみんなの椅子が足りるか気配りを見せた。

一通り挨拶と説明が終わり、いよいよ入居スタート。

エレベーター前で「ここで娘さんとはさよならして行きましょう」と言われた母は私と職員の人たちを見て「誰にしようかしら?」と別れ際までジョークを忘れなかった。



いつかこの日が来るとは思っていた。

あれほど最後まで自宅にいたいと言っていた母を終の住処に見送るときに罪悪感に苛まれるのではないかと恐れていた。


実家から見える施設、職員の人たちの感じの良さと気分良くウキウキでエレベーターに乗った母。


私が恐れていたことは何もなかった。


入居して半月余り、やっと母に感謝の気持ちが芽生えてきた。


今日は私の誕生日。2度目の面会に行く。


「生んでくれてありがとう」


と、初めて母に伝えよう。