イキって本を読んでみようと思い54冊目に入りました。

今回読んでみたのは「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティ 作)。

この本を読んでいるとなんだか自分の人生が全て間違っていたような気がしてきました。

私は結婚も子育ても未経験なのですが、良き娘・良き子供として生きてきた自信があったのでぶっ刺されてしまいました。

もし結婚してから読んでいたら致命傷になっていたと思います。

皆さんも傷が浅いうちに読んでおいてください。

それでは感想を書き散らかしていこうと思います。



適当なあらすじ

主婦のジョーン・スカダモアは弁護士の夫との仲も良好、3人の子供は無事に独り立ちし幸せの絶頂にいると信じていた。

病気になった末っ子の見舞いにバグダッドへ行ったジョーンだったが、イギリスへ帰る途中で汽車が止まってしまい宿で3日間を過ごすことになる。

ジョーンは偶然出会った学生時代の友人との会話をきっかけに人生を振り返り始める。

子供たちのため全てを犠牲にして尽くしてきたはずだった。頼りない夫を懸命に支えてきたはずだった。 本当に?

ジョーンが築いた理想の家庭は、本当に理想の家庭だったのか……?



この本はサスペンスなのでネタバレが嫌な方はご注意ください。


この下ネタバレありの感想




ミステリーの女王が容赦なく刺しにくるよぉ。

手加減してくれー!

ジョーンは私のことかもしれません。

いや、私です。

これまで良き娘として頼りない両親を支えてきた気でいました。

私が良かれと思ってやってきたことは全て独りよがりだったのかもしれません。


よく考えると最初の同級生との再会のシーンからすでに違和感が始まっていた気がします。

同級生のブランチさんは学生時代はクラスの人気者でしたが、結婚後に不倫相手と駆け落ちしそれからも次々とダメ男に捕まってしまい貧乏暮らしをしていました。

ジョーンはそんなブランチさんを心の中で『お気の毒』と思っていたのですが、なんかマウンティング感があるな…という感じの言い回しなんです。

宿の部屋に戻ったあとの迫真のマウンティングお祈りは嫌すぎてちょっと笑えてきます。


ブランチさんのアドバイスをもとに人生を振り返ってみるジョーンでしたが、そこでもちょっとマウント感のある文章が続きます。

ママ友のレスリーさんのことを下品だとか、あんな人がシェイクスピアなんか知ってるはずないとか、基本褒めてるはずなのに微妙にトゲのあるモノローグであれ?もしかしてこの人性格悪いな?と思ってきます。


そして読み進めていくと実際に性格が悪いことがわかってきます。

自分を犠牲にして夫と子供たちに尽くしてきたみたいなことをずっと言っていますが、その尽くしてきた内容というのがどう見ても押し付けにしか見えないんです。

人生の何が間違っていたのか?という謎を追っていく中で、読者にだけ先に主人公の何が悪かったのかわかっているのである意味倒叙ミステリーなのかもしれません。

でもけっこう身に覚えがあってつらい……。


弁護士を辞めて農家になりたい夫の転職を無理やり諦めさせたところにめちゃくちゃ覚えがあります……。

私が小学生のころ父が突然『脱サラしてイタリアで寿司職人になる』と言い出したので、素人がいきなり寿司職人になってやっていけるわけないでしょ!と反対したことを思い出しました。

だけど本当は父の安定した収入が無くなるのが嫌だっただけなのかもしれません。

応援してあげればよかった……。


次女のバーバラさんの友達を選んであげた話なんてもう最悪すぎてうわぁ〜と思いました。

友達は選んでもらうものじゃなくて自然にできるものですよ。

しかも選ぶ基準が性格とかじゃなくて親の職業なのが最悪です。

だけどこれも身に覚えがあります……。

母の友人の一人を一時期気に入らなくて、その人のブログをヲチして弱みを握ってやろう!と息巻いていたことがあります。


長女のエイヴラルさんは全部気づいてたんですかね……。

バーバラさんの彼氏がダメそうだと説得したのもエイヴラルさんだし、

長男のトニーさんが"保護色"を使っていると言ったのもエイヴラルさんですから。

私は兄弟いないけど、親には言えなくても年の近い従姉妹になら相談できたことってありましたからなんかわかります。

でもどうして年上の男との不倫がバレたときの話し合いでお母さんも同席してほしいって言ったんでしょうか?

思い知らせてやろうと思っていたのか、まだ分かりあえると信じていたのか……。


エイヴラルさんの不倫の話し合いのシーンは一番嫌な緊張感がありました。

今まで一番子供のことをわかっているのは母親である自分だと思っていたのに、一人だけ蚊帳の外で娘のお父さんしか知らない面をずっと見せつけられることになります。

ジョーンの言うことが全部的外れに聞こえてきてこっちまで悲しくなってきます……。


砂漠の中を歩く中でジョーンはついに人生の真相にたどり着きます。

そして自分は家族のことを何も知らなかったことに気づきます。

これまでのページの回想に出てきた細かいセリフが全部伏線になっててすごい……。

こういう人生の伏線回収ってありますよね。

なんか他人のちょっとした発言が後から繋がってくることあるよね……。

この本を読んでからあの時あの人が言ったことって私のこと嫌いって意味なんじゃ…と心配になりました。


帰りの電車で出会ったサーシャ公爵夫人に人生を相談しているとき、ああこれからはやり直していけるんだ…と思いました。

家に帰ったら旦那さんに謝って、新しい人生が始まるんだ……。


と思ったら、やっぱり人って簡単には変われないよね〜というラストです。

救いはないんですか?

でもここでちゃんと謝ったとしても夫婦の間に余計に亀裂が入っていくだけかもしれないし……。

どうすればよかったんですか?

『君はひとりぼっちだ』という最後のセリフが重い。

私もひとりぼっちです……。



もうずっと読みながらひぃ〜許して〜!と思っていました。

私は本当に良き娘でしたか?

子供の頃からゲームを欲しがらないのがいい子だと思っていて、買ってくれると言われても意地を張って断っていました。

自分は察しが良くていつも気を配っているのにみんな気づいてくれないと思っていました。

自分は我慢強いと思っていました。

ひとりっ子なのに長女気質を自称していました。

もしかして全部私の一人相撲だったのか?

もういっそ殺してください……。

勘弁してよぉ。

あと1日は立ち直れそうにありません。

クリスティ先生、私は間違っていましたか?


春にして君を離れの表紙