イキって本を読んでみようと思い342冊目に入りました。

今回読んでみたのは「ほんとうのバリアフリー建築」(阿部一雄 作)


ほんとうのバリアフリー建築の表紙


館ものミステリーに憧れて建築の本を読み始めた第4弾です。

前回↓

今回はバリアフリー建築だそうです。

バリアフリー建築……ミステリーの館とは対義語にありそうな概念。

ミステリーの館は健康な人が住むにも普通に不便そうです。

一応「水車館の殺人」に出てくる水車館は館の主が車椅子の人でしたよね。

あの家一応エレベーターあるけどあんな間取りで大丈夫なのか…?

それでは感想を書き散らかしていこうと思います。



適当な概要

一級建築士である著者は37歳のとき事故で脊椎を損傷し車椅子生活になった。

身体障害の当事者になってから世の中に『建前のバリアフリー』とでも言うべき実態に即さないバリアフリー建築が多いことに気づいた著者は、

当事者・介護者双方が本当に便利に暮らせる家を設計する『トータルバリアフリーコーディネーター』としての活動を始めた。

車椅子当事者としての視点と一級建築士としての視点から見たバリアフリー建築の建て方を解説する本。



この下ネタバレありの感想









『バリアフリー』とはただスロープやエレベーターを付ければいいというものではないのがわかりました。

ただ階段をなくせばいいだけじゃなくて、車椅子の人と介助する家族双方のプライバシーが守られた家でないと本当のバリアフリー住宅とはいえないのだそうです。


本編の文章の中には『動線』という言葉がよく出てきます。

車椅子の人が家の中で活動する場所、他の家族が活動する場所、ヘルパーさんが通る場所などを予測して、住人同士がお互いのプライバシーを侵害しないように廊下などを設計しているそうです。

注文住宅ってそこまで繊細に考えられて作られているんだなあと驚かされます。


一番驚いたのが著者の洞察力です。

『依頼主と握手するときに握力を見てどれだけ体力があるか調べる』とか『指や腕の動きを観察してどれだけ体を動かせるか予測する』とかおっしゃっています。

建築士ってすげえ。

依頼人の袖の汚れだけで職業を当てる名探偵みたい。

依頼主や家族の本当のニーズを知るためには大切なことで、特に後天的に歩けなくなった車椅子の人は心を閉ざしてしまいがちなのでより必要なのだそう。

一級建築士ってすごいんだな……。


本編はガチで真面目な福祉の本なのでこんな話をするのは申し訳ないのですが、あのミステリーに出てくる変な建築家もこうやって打ち合わせしてたのかなー!とかばっかり考えてしまう。

なかなか建築士の方の書いた文章を読むことってないですからね。

読んでいると中村青司の解像度が上がってきて嬉しい。

水車館を建てるとき紀一さんと『小ホールからトイレへの動線は一直線にしましょう』とか話してたのかな。


というか、この本を読んで車椅子の人が住みやすい家のポイントを確認してから水車館の間取り図を見ると、意外とポイントが守られていてびっくりしました。

動線ができるだけシンプルになってる…!

トイレとお風呂がセットになってるし、家族のトイレが別で存在してる…!

車椅子が曲がる場所のスペースが確保されている…!

もしかして水車館って館シリーズの館の中で一番住みやすい説ありますか?


注文住宅の設計に洞察力が必要だからミステリー作品には建築士のキャラクターがよく出てくるのかもと思いました。

建築士が探偵役のシリーズも多いですよね。

「変な家」シリーズの栗原さんとか。


私はこんな話で盛り上がっていますが、本編は本当に真面目な福祉の本です。

後天的に身体障害を負った方が感じる精神的な負担や家族との軋轢などと真剣に向き合いながら、医療とも連携して暮らしやすい家を追求していらっしゃいます。

また、個人の住宅だけでなく、福祉施設の設計もされています。

住人一人ひとりに合わせて作る家と違い、複数の体の不自由な方がたくさん訪れる施設には、また別の気を付けるポイントがあるのだそうです。


スロープがついていれば『平等』とか、階段の他にエレベーターがあれば『平等』だと今まで勘違いしていたことが申し訳なくてなってきました。

社会でバリアフリー化が済んでいるとされる公共施設(駅など)でも車椅子の人は実際に不便を感じているのかもしれないと、想像力を働かせないといけないと思いました。


駅を建て替えられるわけでもない私たちにはエレベーターを譲ったりすることしかできませんが、車椅子の方は周りから手を借りることが精神的な負担なのだということも今回の本で知りました。

どうすれば負担をかけないんだろう…

他人に『ありがとうございます』『申し訳ありません』と言い続けないといけない辛さはなんとなく共感できるけど、実際に脚を失わないと本当の辛さはわかることができないのかもなあ……。



館ものに憧れて軽い気持ちで手に取ったこの本ですが、なかなか重い問題について考えさせられました。

しかし、著者の方は決して悲壮感を持って書いているわけではなく、バリアフリーコーディネーターの仕事に使命感を持ちながら、事故の原因となったバイクの趣味も決して諦めてはおられません。

受傷後に新しく車椅子マラソンの趣味も始められたそうです。

バイタリティがすごい。

一級建築士ってすごいんだな……。