イキって本を読んでみようと思い333冊目に入りました。
今回読んでみたのは「匣の中の失楽」(竹本健治 作)
日本四大奇書の中の一つです。
夢野久作「ドグラ・マグラ」、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」、中井英夫「虚無への供物」の日本三大奇書に本作を加えて四大奇書と呼ばれています。
これで四大奇書コンプリートです!
以前読んだ三大奇書とは違ってこちらの作品はまだ作者の方がご存命で、比較的近い時代に書かれたんですよね。
近い時代に書かれたといってもまあ70年代ですが……。
それでは感想を書き散らかしていこうと思います。
適当なあらすじ
ミステリー好きの大学生や高校生たちはいつも『黄色い部屋』という喫茶店に集まってミステリー談義をしていた。
そんな中メンバーの一人である曳間(ひくま)が失踪してしまう。
ある日、メンバーの倉野がアパートの部屋に帰るとそこに曳間の死体があった。
部屋は外側から鍵がかけられた『さかさまの密室』で、ミステリー仲間たちは密室トリックについて推理することになる。
……というのは小説の中の話。
メンバーのナイルズが書いたその小説を死体役の曳間も一緒に読んでいた。
ところが、メンバーの真沼が奥の部屋に入ったまま出てこなくなってしまう。
合鍵で開けてみると、真沼は鍵のかかった部屋から忽然と失踪していた。
ミステリー仲間たちは密室からの消失トリックについて推理を披露しあう。
……というのも小説の中の話で…?
二つの世界線で起こった事件の真相とは、そしてどちらの世界が現実なのか!?
この本はミステリーなのでネタバレが嫌な方はご注意ください。
この下ネタバレありの感想
↓
ミステリーオタクの集団が出てくるとすぐ事件が起きます。
もう ミス研=死亡フラグ だよ。
「月光ゲーム」や「十角館の殺人」が好きなのでテンションが上がってきました。
だけど今作のミス研は大学生だけでなく、高校生から大人まで幅広い年齢の人が集まっています。
学校外にこういうサークルがあるのって楽しそうですね。
しかし登場人物が全員やたらと喋る。
普通こういう集団が出てきたら、ウンチクを語る役と聞き役とツッコミを入れる役に分かれると思いますが、このサークルは全員ウンチクを語る奴しかいません。
スーパーロングお喋りクラブ。
しかも全員オタクなのでとにかく『濃い』奴しかいません。
そんなわけで黄色い部屋のイカれたメンバーを紹介するぜ!
まず一人目は曳間了(ひくま りょう)さん。
心理学部の大学生です。
第一章の世界線ではセリフも無く殺されてしまいますが、第二章の世界線では長ゼリフを駆使して喋りまくります。
この世界線分けるシステムすごい発明ですよね。
ミステリーで最初に殺されるキャラは描写が薄くなりがちなのを、パラレルワールドで生き返らせればいっぱい喋らせることができるという。
お前そんな喋ったんか!と驚きました。
曳間さんは子供の頃に天気図の『不連続線』の話を聞いてから、ずっと『不連続線』を越えることに興味を持っているそうです。
後半では催眠術が使えるとかなんとか設定が盛られていく強キャラ。
二人目は倉野貴訓(くらの たかよむ)さん。
薬学部の大学生です。
この人もこの人でセリフが長いが、おそらく一番の常識人。
でもいきなり『俺たちの人間関係を図で表すと麻薬の化学構造式になるんだああ!』とか意味不明なことを言い始めます。
急にどうしたんだ…疲れてるのか?
囲碁が得意。
三人目は甲斐良惟(かい よしただ)さん。
美大で油絵を専攻する大学生です。
乱暴な奴に見えるけど周りの変人たちにツッコミを入れるツッコミ役でもあると思う(たぶん)
第二章の世界線での扱いがひどい。
やたらとブ男扱いされたり万引きの常習犯呼ばわりされていますが、第一章の世界線ではそんなことない普通の人です。
ちなみに喫茶店『黄色い部屋』は甲斐さんのお兄さんが経営しています。
囲碁が得意。
四人目は根戸真理夫(ねど まりお)さん。
理学部数学科の大学生です。
いきなり恋愛感情を座標で表した謎のグラフを挿入してくるヤバい奴。
そのグラフ絶対本筋に関係ないやろ。
でも比較的ツッコミに回ることが多いので常識人寄りではある。
理学部ですが民俗学にも興味を持っていて呪術の本を集めています。
あと甲斐さんと一人の女性を巡って三角関係にあります。
五人目は真沼寛(まぬま ひろし)さん。
文学部国文学科の大学生です。
ポエマー……というか、本当に詩を書いている人です。
第二章の世界線ではすぐに失踪してしまうのでセリフが少ない。
六人目は布瀬呈二(ふせ ていじ)さん。
文学部仏文学科の大学生です。
延々とウンチクを語りまくるスーパーロングお喋りお兄さん。
なんと一人称が『吾輩』です。
一人称強すぎるだろ。
あと笑い方が『あっは』で微妙にムカつく。
セリフを喋り始める前にやたらと『あっは』と言ってきます。
なにわろてんねん。
七人目は影山敏郎(かげやま としろう)さん。
理学部物理学科の大学生です。
こっちはなんと一人称が『小生』。
一人称が吾輩のオタクと一人称が小生のオタクが同時に喋ってるサークル濃すぎるだろ。
このサークルの中では一番新しく入ったメンバーです。
八人目は羽仁和久(はに かずひさ)さん。
文学部国文学科の大学生です。
一人称はマトモだけどやっぱり延々とウンチクを語りまくるお喋りお兄さん。
文学部ですがなぜか目の神経に詳しく、『プルキニエ現象』について薬学部の倉野さんも納得するほどの解説を披露します。
しかしこのプルキニエ現象の話は一切本筋と関係ありません。
長々と喋ってたけど関係ないんかい。
九人目はナイルズさん。
高校生です。
こんな名前ですが普通に日本人で、本名は片城成(かたじょう なる)さんといいます。
第一章の世界線ではナイルズさんが第二章の世界を小説として書いている設定で、
第二章の世界線ではナイルズさんが第一章の世界を小説として書いている設定です。
まだ高校生なので知識量では年上組に負けますが、彼もまためちゃくちゃ喋り倒します。
十人目はホランドさん。
高校生です。
ナイルズさんの双子のお兄さんで、本名は片城蘭(かたじょう らん)さんといいます。
弟とは微妙にキャラが違うけど、やっぱり喋りまくります。
十一人目は久藤雛子(くどう ひなこ)さん。
最年少15歳の高校生です。
一番の年下かつ数少ない女の子ということで控えめなのかと思いきや、やっぱり喋りまくります。
さすが濃いめのミステリーオタク。
年上のお兄さんたちに囲まれても一切怖じ気づくことなくオタトークを連発しています。
見習いたい。
十二人目は久藤杏子(くどう きょうこ)さん。
大学を卒業し終えた大人です。
雛子さんの叔母さんですが、まだ20代の若い女性です。
甲斐さんと根戸さんとの間で三角関係を繰り広げているモテ女。
メンバーの中ではあまりオタク感はありませんが、やっぱり喋ります。
メンバー多いですね……。
こんなにいるのに世界線を分けるシステムのおかげで全員出番があるのありがたい。
最終的に全員好きになってきちゃいます。
ところで『第一章の世界線』『第二章の世界線』とはどういうことかというと、
第一章では曳間さんが密室状態のアパートで殺害される事件が起き、それをミステリーオタク仲間たちが推理していきます。
いっぽう第二章では、第一章で起こったことは全て小説の中の話で、曳間さんも普通に生きています。
しかしこちらの世界では真沼さんが密室から失踪する事件が起きます。
第三章になると第一章の世界線に戻ってきて曳間さん殺人事件の推理の続きをします。
こっちの世界では第二章で起こったことは小説の中の話です。
第四章ではまた第二章の世界線に戻ってきて真沼さん失踪事件の推理を再開します。
ややこしい!!!
でも読んでたらへぇ~なるほどという気分で読めます。
名探偵津田の1の世界と2の世界みたいなやつなのかもしれません。
長袖をください。
匣の中の失楽のキャラで名探偵津田パロ考えたけど誰が津田で誰がみなみかわなのか全然思いつかない。
この作品って誰が探偵役で誰がワトソン役なんだろう。
ずっとトンチキな推理が出てきては『やっぱりハズレでした~』という展開なので、これ最後までに答え出るんか?と心配になってきます。
最後に一応犯人とトリックは判明しますが、この推理が正しいのかもわからない。
結局犯人は曳間さんを殺したのは○○さんでホランドさんを殺したのは○○さんで合ってたんだっけ…?
だけど仲良しの若者たちの青春が終わり、一人一人去って行くラストの切なさがとても好きです。
オタクのサークルはいつか解散する一瞬のモラトリアムなのか…
だからこういうミステリー研究会が出てくる推理小説にときめくのかもしれないと思いました。
四大奇書全部読んだ!
「匣の中の失楽」は四大奇書で一番近い時代に書かれただけあって、先行の三大奇書の要素を取り込んでいるなあと思いました。
やたらとウンチクを喋るのは「黒死館殺人事件」で、
トンチキ探偵たちが推理対決をするのは「虚無への供物」、
作中作がやたらと出てくるのは「ドグラ・マグラ」のオマージュなのかもしれません。
次は第五の奇書を読みたいですが、第五の奇書を名乗っている本は何冊もあってどれを読めばいいのかわかりません。
山口雅也さんの「奇偶」
舞城王太郎さんの「ディスコ探偵水曜日」
乾くるみさんの「匣の中」
芦辺拓さんの「綺想宮殺人事件」
という本などがあるそうです。
第五の奇書候補たちの中に、以前読んだことのある「夏と冬の奏鳴曲」という本が入っていて驚きました。
奇書のことを知る前に読んだので……。
また手に入りそうなものから読んでいけるといいなあと思います。

