新撰組黙秘録勿忘草 ~斉藤一~④
ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。
*新撰組黙秘録勿忘草 ~斉藤一~
CV:高橋 直純
次の日、廊下で斉藤さんと出くわした。
「・・お前か、昨日は良く眠れたか。」
「はい、ありがとうございます。」
「そうか、良かった。」
昨日、斉藤さんに抱き締められた事を思い出し、視線をそらしてしまった。
髪に挿した簪が揺れる。
「早速、簪を挿したのか。」
「あ・・はい。」
やだ・・・顔が赤くなる。
「そうか、それなら良かった。まっ、大事にすると良い。」
斎藤さんが簪にそっと触れる。
髪に寝ぐせが付いてると言われ、慌てて髪を触るワタシ。
「女のくせに、だらしない。ほらっ、ここだ。」
笑いながらワタシの髪を直してくれた。
「後でしっかり直しておけよ。」
「あ、ありがとうございます・・」
いつもよりもワタシに触れて来る斉藤さんに、心臓が高鳴る。
「そんなに恥じらうな。今にうちに気が付いて良かったではないか。・・他の男に見られるより・・・」
「え・・」
「い、いや、何でもない。」
今度は斉藤さんが視線を逸らした。
「で、お前そんな荷物を持ってこれから何処へ向かうつもりだ。」
「あ・・町へお使いを頼まれたのでこれから出かける所です。」
「確かに、お前は都合が良いからな。」
「それ、どういう意味ですか。」
少しふくれて、斉藤さんを見た。
「そう怒るな、それなりに役に立っているのだと受け取っておけ。」
なんだか腑に落ちないけど。
「あ、そうだ、一つ忠告をしておいてやろう。」
「はい。」
「今夜は雨が降るらしい。ぶざまな姿になって新撰組に恥をかかせぬ様、注意しておくように。からかっている訳ではない、肝に銘じておけよ。」
「はい、分かりました。」
「ではな。」
斎藤さんと其処で分かれて、ワタシは町まで使いに出た。
「あ・・雨。」
斎藤さんが言った通り、雨が降り出した。
かなりの本降りで、店先で雨宿りをさせてもらった。
「小ぶりになるのを待ってたら、遅くなっちゃった。」
ワタシは走って屯所まで戻った所、斉藤さんに呼び止められた。
斎藤さんはかなり怒っているらしく、口調も厳しかった。
「人に教えを請うして起きながら、稽古の時間に来なかったのは何処の誰だっ。」
「も、申し訳ありません。」
ワタシの髪から雨の滴が落ちる。
「で、何をしていたんだ。雨の中で人を待たせておいて答えないでいるつもりかっ。」
「・・・雨が止むのを待っていました・・濡れ鼠になり新撰組に恥をかかせぬ様、斉藤さんの言いつけ通りに・・していました。」
「・・だが結局、お前もずぶ濡れではないか。それだけでは飽き足らず、この俺を待たせるとは。」
斎藤さんはワタシの手を取り
「来いっ。」
「な、どこに行くんですかっ。」
「良いから来いっ。」
強引にワタシを引っ張り道場まで連れて行く。
刀を振れと、ワタシに指示をする。ワタシは刀を握り濡れたまま上段に構え振り下ろす。
手がかじかみ、刀を落してしまう。
斎藤さんは冷たく
「そんな事は知らぬ、最初から俺の言う事を聞かず雨などに振られたお前が悪い。」
朝の態度とは一変して、冷たく理不尽な物言いに少なからず
ワタシは淋しさと悔しさを感じていた。
「泣くなっ、お前は強くなりたいのだろう。さあ、俺の命令に従えっ。何処までも付いて来いっ。刀を拾えっ。」
そうだ、ワタシは強くなりたい。
・・でも・・
斎藤さんに別の感情を抱いてしまったワタシは
胸が軋んだ。
何度となく落す刀を、かじかんだ手で拾い
素振りを続ける。
「まだまだ、お前を許す気はない。」
突き放す言葉と雨で濡れた身体は
立っている事も耐えらなくなっていった。
「もう良い、お前の無様な姿など見飽きたぞ・・・こっちに来い。」
重い身体を引きずり、斉藤さんの側まで行く。
斎藤さんは、ワタシを抱き締めた。
(ど・・どうして・・)
「寒いのだろう・・こうして抱き締めていてやったほうが暖まる。」
どうして、ワタシの事なんて、なんとも思ってないくせに
どうしてこんな事するんですか・・。
ワタシは・・ワタシはっ。
身を捩って逃れようとした
「抵抗するな、もっと俺に身を委ねろ。そのままでは風邪をひいてしまう。まさかその程度の事が分からないとは、言わせないぞ。」
「どうしてそんな顔をする・・困惑しているのか・・」
ワタシは、頷いた
「困惑したのは俺の方だ。この時代、女が戻らぬと言う事は何を意味するか・・・分からない訳ではないだろう。加えてお前は新撰組の下女だ・・・俺たちを良く思わぬ輩に危害を加えられる可能性もある。」
「あ・・・。」
「俺は全てを新撰組に捧げてきた、今回の任務についても、たとえ其処で死んだとしても構わぬと・・思っていたんだ。だが・・・」
「お前が俺の元に帰って来ない。ただそれだけの事が・・その決意を微かに揺るがせた。」
斎藤さんはワタシの顔を見ながら
「・・俺は他の女がどうなろうとどうでも良い。だが・・お前は違う。お前は俺に・・・欲を抱かせた女だ。」
「今夜はお前に、特別な指導をしてやる。この俺を雨の中で待たせた罰だ。」
遠くで雷が鳴る。
こうやって男に抱き寄せられるのは、初めかと言われる。
この間、斉藤さんに抱き締められたのが初めなのに・・。
「そんなに怖がるな、身を固くされると、ますますそそるぞ・・。お前が恥じ入れば恥じ入る程、俺は気分が良い・・。」
「・・離して・・・止めて下さい・・。」
「・・断る。」
ワタシの見つめる目に熱がこもる。
「この俺を外で待たせたのだから少しくらい、言う事を聞け。」
稽古をつけている時は、男も女もないが、こうしているとお前が女なのだと分かると
抱き締める力を強められた。
「こっちを向け・・お前の唇を・・奪ってやる。」
頬に手を添えられ、唇を重ねられる。
至近距離で視線を捉えられる。
「嫌がらないのか・・。」
そのまま崩れ落ちそうなワタシの腕を
自分の首に回せと・・そして自分から口付てみろと・・
そんな事、出来ない・・ワタシは下を向く。
ワタシの顎を持ち上げて、斉藤さんは口付を落とす。
雨に濡れた身体は次第に熱を帯びる。
髪が首筋に纏わりつく。
斉藤さんは髪を指でなぞり
唇を這わす。
ぞくっとする感触に身が震えた。
「お前のせいで、俺まで冷えたではないか・・来い。」
風呂場まで連れて来られ、濡れた着物を脱がされた。
冷えた身体に温かな湯船は心地よかったが
後ろに斉藤さんも居たので、恥かしくて仕方ない。
「何故、背を向ける。こうして男と風呂に入るのは、初めてという訳ではなかろう。」
「はっ、初めてですっ。」
口付だって初めてなのに、男の人と一緒にお風呂なんて、あるはずないですっ。
「これはこれは、初な事で。」
からわれている事に気が付いた。
気がついたけど、この状況ではどうする事も出来ない。
後ろから抱き締めてくる斉藤さんに、どうしてか優しさを感じていた。
肩・うなじと口付を落とす斉藤さんに、もどかしさを感じた。
(ワタシ・・どうかしている・・)
「・・これは命令だ・・覚悟を決めて・・俺の部屋へ来い。」
「命が惜しければ、他の誰のも見つからず・・な。」