新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~③ | 中島陽子のフリーダムなブログ

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新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~③

注意ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。



$中島 陽子の〔And ...〕



*新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~
CV:細谷佳正


近藤さんに呼ばれて部屋に行ってみると
近藤さんは居らず、代りに土方さんが・・

「土方さん、何してるんですか?」

ワタシに背中を向けていたので、良く分からなかったけど
声を掛けると物凄く驚いた様子だった。

「うっ、何をしにきた。」

「?、近藤さんに呼ばれて・・袴と胴着をお持ちしました。」

「そこに置いて行け。」


(それは良いんだけど、土方さんの口元に何か・・付いてる)

「土方さん、口元に何か付いてますよ。」

ワタシは土方さんの手元を見ると、お菓子の包みが開いていた。

(これを食べたのね。)

「人の御菓子を勝手に食べても良いんですか。」

「うっ、うるさいっ、人を呼んでおいて留守にする近藤さんが悪いっ。」

「土方さんでも御菓子なんて、食べるんですねっ。」

「そ・・・そう言う事もあるっ、たまにはなっ。」

少し顔を赤らめて視線を逸らしながら言う土方さんが
可愛く見えて、つい笑ってしまう。

「なんだっ、笑うなっ、妙な所を見られたなっ。おいっ、こっちに来いっ。」

ワタシは土方さんの側に近づいた。


「口を開けろ。」

「はぁ?」

「っ、良いからっ、開けろっ。言う通りにしろっ。ほらっ、あーんっ。」

御菓子を口に運ばれ、それを頬張る。

土方さんはそれを確認すると、にやりと笑う。

「よしっ、食ったな。これでお前も同罪だっ。」

「それって、酷いですっ。」

食ったのはお前だ、俺は口を開けろとしか言ってないと言いながら
もう一つ、御菓子を口にする土方さん。

(土方さん、それって屁理屈ですよっ。)

こんなものを買込んでと文句を言う土方さんに

「今日は冬至ですから、柚子饅頭を買われたんですね。」

「冬至?柚子饅頭?」

「ええ、冬至には無病息災を祈るために柚子湯に浸かったり、柚子を食べたりするんですよ。」

「ああ、そう言えばさっきの香りは柚子だったのか。そう言えばこっちの紅白の干菓子は、椿と水仙か。なるほどな、たかが菓子とは言え、風流だな。」

そう言いながら干菓子をつまんで食べた。

他の隊士まで嗜好品を勝手に持ち込むと、厄介事が増えると土方さんは言った。

「真面目なんですね。」

「何度も言っているだろう、これが俺の役目なんだっ。」

文句を良いながらも、ずっと御菓子を食べている土方さんが
いつもの怖い土方さんとは違って、幼く可愛く見えたので
くすくすとワタシは笑う。

「っ、何だ、笑うなと言っているだろうっ。」

干菓子より柚子饅頭が気に入ったようで、ワタシにも薦める。

でも、後で近藤さん驚くんじゃないかしら。
全部食べちゃって。

二人で(近藤さんの)御菓子を食べながら
冬の少し暖かな日差しの中
穏やかに時間は過ぎて行った。


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廊下を掃除していると土方さんに呼び止められた。

「昼間、庭で掃き掃除をしていたな。近藤さんが屯所を出て行くのを見なかったか。」

「いいえ、見ていません。」

肝心な時に役に立たないと、じろりと睨まれた。

(だって、見てないんだもの。)

「分った、もう良いっ。」

その慌てぶりで、いつもと違う緊急を要するのだと感じたワタシは
「近藤さんを一緒に探します。」

「・・分った、お前は屯所の中と、この町内だ、近藤さんか・・後、総司でも良い、見つけたらすぐ俺の部屋に来るように伝えろ。」

土方さんはワタシの耳元で皆に聞こえないように話す。
「良いか、この事は他言無用だ。隊長格のやつらにも、だ。分ったなっ。」

「・・分りました。近藤さんか沖田さんを見つけたらどうしたら良いですか。」

「・・山南の件だと言えっ。」

(山南さんの?)

あの、いつも穏やかで優しい山南さんに、何かあったのかしら。
ワタシは二人を捜す為、土方さんの側を離れた。

沖田さんを見付けたワタシは、土方さんの言われた通り話した。
沖田さんは顔色を変え、土方さんの部屋へ急いだ。

結局いくら捜しても近藤さんは、見つからなかった。
沖田さんの旅支度を手伝い、ワタシは何が起こったか察しが付いた。

山南さんが、屯所から逃亡した・・・。

これは何を意味するのか・・・法度を重んじる
土方さんの心中を思うと、胸が痛い。


雨が振り出した。

ワタシは土方さんの部屋へ報告しに出向いた。

「土方さん、失礼します。」

「ああ、お前か・・人目に付く、入れ。」

ワタシは部屋に入り、襖を閉めた。

「総司の支度は済んだか。」

「はい、明朝に発つと伝言を預かってきました。」

「そうか・・」

雨音が激しくなる。

「すでに気付いている思うが、山南が行方を眩ました。江戸に向かったそうだ。大よその理由は分っている。・・あいつは俺と近藤さんの決めた事に反対していた。何より新撰組に身を置きながら勤皇の志が強かった。」
「新撰組の理念とは根本から違っていた。俺達も、あいつ自身も、それを知っていたはずだ。」

「・・いつかこうなると言う事も・・な。」


土方さんは大きな溜息を付いた。

荒くれ者の中で、慈悲深く、見識もある、そんな山南さんを
手放したくなかったと土方さんは辛そうな表情で言う。

「だが結局・・・死なせてしまう事になるとは・・。」

「っ!」

やはり・・そうなのですね。
見つかれば、山南さんは、切腹・・なのですね。

「勘違いするな、局を脱するを許さず。総長だろうと平隊士だろうと、法度を犯した者を許して置く訳にはいかない。」
「罰すべき者は、罰する。それが新撰組だ。」


「土方さんは、強がりです。」

今の貴方の顔、どんな顔していると思いますか。
悲しそうで辛そうで、本当は、そんな事
したくないんでしょう。

狼狽する土方。
「っ、何を馬鹿な事を。」

「そんな事、本当は望んでないんでしょうっ、本心では違うんでしょうっ。」

「っ、この俺がっ、山南を失うのを辛いなどと思っていると言うのかっ。ああっ、奴を失うのは新撰組にとって痛手だ、奴は有能な男だった。」
「たとえ考えが異なっても、山南敬介と言う人間は、組にとって必要だった。」
「俺が悔やんでいるとすれば、俺の思い通りに奴を動かす事が出来なかった自分の無能さだっ!」


ワタシの肩に手を掛け押し倒す。
ワタシを畳に押し付けるように手に力を込める土方さん。
それでもワタシは視線を彼から外さず強く見つめた。

(じゃ、貴方の瞳がうるんでいるのは、何故なの。・・いつも強がってばかり。)

「お前、何時の間にそんな過ぎた口を訊くようになった。強がり?本心?お前ごときにそんなものを見せた覚えはないっ。」
「他愛も無い生娘が、俺を知ったような口を訊くなっ。それとも何か、」


ぐいと顔を寄せられる。
「俺の本心が見たいのか。俺がどんな男か知りたいのか。・・良いだろう、お前が望むなら見せてやる、俺の本心とやらを。」
「覚悟しておけよ、俺はこう見えてもしつこいんだ。」


雨音は酷くなり
土方の声を掻き消す。