新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~② | 中島陽子のフリーダムなブログ

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新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~②

注意ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。



$中島 陽子の〔And ...〕



*新撰組黙秘録勿忘草 ~土方歳三~
CV:細谷佳正



ある日、土方さんに呼ばれ部屋に行ったワタシ。
顔を見るなり、凄い力で引っ張られ畳の上に転がされた。

何がどうなったのか気が動転したワタシ。


「お前が屯所に来たばかりの頃、まさか間者ではないかと疑った事もあったが、今頃になってぼろを出したか。油断したか?」


「っ、何を言われてるのか分りませんっ。」

「お前が海鮮問屋の丁稚から預かってきた書状・・あれは隊士を罠に嵌めるものだった。」

「っ!!」

「男に呼び出された隊士は、ついさっき、虫の息で診療所に運び込まれた。」
「お前が書状を渡した男だ。・・・自分が何をしたか分っているな。」



がくがくと身体が震えた。
あの、書状が罠・・。
自分が渡したあの書状が・・

「申し・・訳ありません。」

「お前は書状を受け取った時点で俺か近藤さんに知らせ、判断を仰ぐべきだった。そうしていれば奴は死ぬような目に合う事も無かっただろう。」

ワタシの腕をギリギリと締め上げ
「おれの所に報告に来た隊士がお前の事をなんて言っていたと思う。お前は"内通者"だそうだ。屯所に入り込み、内部の事を探り譲位使臣に情報を流す。」

「そんな・・誤解ですっ。」

「だからどうしたっ!お前の軽率な行動のせいでこうになった事に変わりは無いっ。もし奴が命を落としたら、どう責任を取るつもりだっ。この罪は重い。分っているな。」

掴んでいた腕を乱暴に離された。
刀を鞘から抜く土方さん。
刀身を目の前に差し出された。

「余所者は災いを招く。・・此処でお前を始末しておく事は隊の為かもな。」

ワタシはこのまま斬り捨てられてしまうんだと思ったら
泪が頬を伝った。

土方さんはそんなワタシを見て
弁解しないのかと聞いた。

ワタシは瞼を閉じ、刀が振り下ろされるその瞬間を
身を硬くしてただ待つ事しか出来なかった。

(・・振り下ろされない・・?)


「・・つまらん。本当にお前は愚直なだけの女だな。・・・こんな甘ったれですぐ泣く間者がいるはずもない。」

土方さんは刀を鞘に戻した。

「立て。いつまでそうやって這いつくばっている。」

ワタシの腕を取って立たせる。
でも緊張していたワタシは上手く立てずふらふらしていた。

「・・来い。近藤さんに詫びを入れに行くぞ。原因はどうあれ、騒動を引き起こしたのはお前だ。」


近藤さんはワタシが正直に話せば分ってくれると土方さんは言った。
そして一緒に行ってやると・・。

土方さんはあれこれ言いながらも世話の焼けるワタシを気遣ってくれているのが
分った。


「あの・・信じてくださってありがとうございます。」

近藤さんの部屋に向かう廊下を歩きながらワタシは
土方さんに話す。


振り返りもせず土方さんは
「屯所で起こる面倒はそのまま俺の仕事になる、俺は厄介事を少しでも早く片付けたいだけだ。」

歩みを止め振り返る
「良いか、女だからと言って泣いて許しを請えると思うな。・・いつでも俺が仲裁してやれるとも限らない。」
「俺の目の届かない場所で不始末をしてみろ、その時は首に縄を掛けて繋いでやるっ。」


首に縄っ?!
それは嫌だわ・・さすがに・・。

「嫌なら心しておけ、次はないぞ。分ったな。」

ワタシは何度も頷いた。


夜更けに庭で稽古をしていた土方さんに気付いたワタシは
手拭いと水を持って稽古の合間を待っていた。

気配に気付いた土方さん
「誰だっ。・・お前か」

こんな夜中に何を出歩いているのかと聞かれ
手拭いと水を持ち待っていた事を告げた。

「・・庭先とは言え、こんな夜更けに女がふらふら出歩くな、又、面倒を起こすつもりか。」

「この間の・・隊士さんはどんな様子ですか・・」

自分の軽率さが原因で怪我をさせてしまった隊士の方の
事がずっと気掛かりだった。

それを聞いてどうする、そんな事より自分の行いを反省しろと
着物を整えながら土方さんは言った。

ワタシは俯いたまま反論できないでいた。

屯所内も最近緩みがちだと、土方さんは憂いだ。

「・・奴は無事だ。」

ワタシは顔を上げて土方さんを見た。

怪我をした隊士の方は近藤さんが腕利きの医者を見付けて特別に療養させて
くれたおかげで一命は取りとめたと教えてくれた。

(・・良かった・・)

「お前からも近藤さんに礼を言っておけ。」

「はい。」


土方さんは言い方も強くて怖いし、纏う雰囲気も威圧的で近寄りがたい。
でも内側は色んな所に気を配り、下女のワタシにさえ気遣いをしてくれる。

「・・損をしてるような気がします・・」

つい言葉が出てしまった。


「どうゆうことだ。」

「あ・・土方さんばかりが厳しくて、近藤さんだけが皆に好かれるような事をしてるような・・気がします。」

それは立ち位置の違いだと土方さん言う。

「近藤さんはあれで良い。人当たりが良く寛容で、誰でもこの人には付いて行きたいと思える理想の先導者だ。」

自分はそれを生かす右腕でいる必要がある、近藤さんが寛容であればあるほど
厳格な自分が必要だと。

「お前には、分らないだろうな。」


鬼と言われ身内からも煙たがれた自分が、近藤さんの元でようやく生きる意味を見つけた。
壬生浪と嘲笑われたところで、何一つ恥じる事などなかった。
そこには仲間が居て、目的があったから。

そう話す土方さんをワタシはとても、羨ましく思った。
家族と呼べるものはもう、ワタシには無くなった。
仲間と呼べる存在も・・。


「そうか・・お前も一人なのか・・」

ワタシは頷いた。

隊士からワタシの噂を良く聞くと言った。
悪い話しじゃないと。
着物を縫ってもらっただの、握り飯が上手かっただの
少しは新撰組の役に立ってはいるようだと
ワタシを見ながら土方さんは言う。

こんな優しく話す土方さんを初めて見た気がする。


「土方さんが、そんな事言うなんて、思わなかったです。」


土方さんは笑いながら
「それは悪かったな、俺は別にお前の機嫌を取る為に言ってる訳じゃない。完璧とは言わないがお前はそれなりに良くやっている。何時も見ている訳ではないが隊士達の話しを聞いていれば分る。」


「土方さんには、感謝しています。」

「ふっ、だったら何事も、まともにこなせるようになるんだな。他の奴は知らないが俺は決してお前に満足している訳ではない。此処に居たいと思うなら、心尽くして仕えろ。お前も又、この新撰組を居場所とするつもりなら。俺達と同じ気概を持て。・・たとえ刀を振る事がなくてもな。」

もう遅いから部屋に戻れと言われた。

水を飲み干すと、又、土方さんは稽古を再開した。

汗で光る背中を
月が照らしていた。