新撰組黙秘録勿忘草 ~藤堂平助~③
ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。
*新撰組黙秘録勿忘草 ~藤堂平助~
CV:下野 紘
夜に御使いを頼まれ、町に出たワタシ。
街角で藤堂さんを見つけた。
「あの・・藤堂さん?」
「っ、何してんだよ、こんな所でっ、もう夜中だぞっ、ふらふら出歩いてんじゃねーよっ。」
「・・急な御使いを頼まれて。」
藤堂さん、顔色が悪い。
何かあったのかしら。
「ならっ、俺が一緒に戻るから、ほらっ行くぞっ。」
「何処に行くの?」
「何処って宿に戻るんだよっ。」
「えっ、だって道が違います。」
「良いんだよ、こっちからでも、帰れっから。・・その前にあっちの河辺に寄られせてくれ。」
「なんで?」
「っ、良いからっ!」
藤堂さんに半場強制的に河辺に連れて来れられたワタシ。
冷たい川の水で手を懸命に洗う藤堂さんに
いつも違うものを感じた。
「何を・・洗ってるんですか。」
「・・みりゃ、わかんだろ?血だよ。」
血のりが付いた手を洗ってる事に気が付いたワタシ。
藤堂さんの血かと驚いた。
「っ、大丈夫なんですかっ。」
「平気、これは俺の血じゃね。」
「怪我は、怪我はしてないんですかっ。」
「してねーってば・・どこも痛くねーよ。」
それでも藤堂さんの顔色は、月夜のせいなのか
青白いままだ。
「・・・・斬ったんだよ、人を・・。」
ついさっき、不貞浪士を斬ったと言う。
それを聞いたワタシは震えた。
藤堂さんは顔にすぐ出るワタシに
もう少し表情を隠す練習をしろと言う。
そして、、悪い思いをさせて悪かったと
ワタシを気遣った。
(ワタシの事より、藤堂さんこそ、斬るのは・・初めてではないはずなのに、どうしてそんなに・・震えてるの)
藤堂さんが自分が江戸の出身だと言う事をワタシに言った。
それを隠したのは、ワタシが一生懸命、道案内をしようとしてたので
黙ってたんだと話した。
藤堂さんは、騙した俺をいつもみたいに
叩かないのか聞いた。
とても・・ワタシには今の彼を、叩く事は出来なかった。
「藤堂さん、悲しそうな顔してます。」
「俺が?別に悲しい事なんてねーよ。・・不貞な輩が居たら斬る、それが俺の任務だし、今までだってこうしてやってきた。」
「・・人を斬るのにも慣れてるし、別にお前がどう思うと俺は・・」
「じゃ、なんでそんなに震えてるんですかっ。」
「ちげーよっ、これは寒さで震えてるだけだっ。夜の川は冷たいから・・っ、それだけだってっ。」
ワタシは震える藤堂さんの手を両手で握った。
本当に・・冷たい手だった・・・。
それ以上に彼の・・気持ちが凍えているのが分った。
「っ、駄目だっ、離せっ。俺の手は汚れてんだよっ!」
振り払おうとする手を、ワタシはぎゅっと握って自分の胸元に
引き寄せた。
「ヘタな慰めはよせっ!それとも何だよっ、人が死ぬのが嫌かっ、これ以上、誰も斬るなって言いてーのかっ!」
「違いますっ、ワタシは藤堂さんの、力に、力になりたいんですっ。」
「っ、笑わせんなよっ、何が力になるだっ。分ったような顔。しやがってっ!」
「お前に分るはず、ねーだろっ!!人を斬るってーのが、どんな事なのかっ。」
「離せっ、離せっ。」
それでもワタシは藤堂さんの手を握り締めていた。
「っつ、なんで離させねーなんだよっ、汚れてるって言ってんだろっ、この手はっ。」
自分の手は汚れてる・・
人を斬ったから?
尚更、この"手"は離さない。
貴方の"手"は汚れてなんてないっ。
「俺の事なんてっ、放っておいてくれっ。」
「い、嫌ですっ!」
「馬鹿なんじゃねーの、なんでここまで、すんだよっ。くそっ!」
手が・・振り払われた。
藤堂さんは自分の手を握りながら
「なんなんだよ・・お前・・俺の心を、引っかき回しやがってっ。」
ワタシに荒々しく口付けをしてくる藤堂さん。
「・・嫌がんねーの。これも慰めのつもりかよっ。」
再び、口付けをする藤堂さん。
荒々しいのに、何故か
悲しい・・
唇を通して、彼の辛さが伝わる
(本当に、貴方の力になりたいの。)
唇を離す藤堂さん。
「・・悪い・・どうかしてんのかな、俺・・。なんだか、疲れた・・、なぁ、少しで良い、向こうで座って話さないか。)
ワタシ達は川べりを歩き少し大きな石の上に、座った。
藤堂さんは落ち着きを取り戻し、一息ついた。
土方さんが居なくて気が抜けたのかなと藤堂さんは言った。
「・・さっき浪士を斬った時、初めて人を斬った時の事を思い出したよ。俺を見ながら死んでいった奴の顔が、いまだに忘れられねぇ。ずっと記憶から消えないんだ。」
新撰組の隊士して、不貞浪士が居れば斬るのが任務なのは
分っているが、出来れば・・人を斬りたくないと・・藤堂さんは言う。
「この手で命を消す度に、心のどこかが、えぐられていくような感覚がする。この胸のもっと奥のほうが焼けるように痛くて苦しくなるっ。」
藤堂さんは小刻み震え自分の腕を掴んでいた。
ワタシは、その腕を掴んでいる手をそっと外して
握った。さするように、なでるように、そっと・・。
藤堂さんは、暫くこのままでいてくれと言う。
ワタシは頷いた。
少しずつ震えが治まる。
「なぁ・・俺・・平気で人を斬るような人間には、なりたくねーよっ。新撰組の隊士として間違っているのかもしれねぇ。でもっこのままじゃ・・・俺自身が壊れちまいそうで・・。」
「まったく情けねーよな。八番隊の組長だってのにさ・・」
「・・分ってあげられなくて、ごめんなさい・・」
「なんで、お前が謝るんだよ。俺のこの気持ちなんて分かるはずねーって。気にすんな。」
「けど・・心の痛みなら、分け合う事は出来るから・・」
藤堂さんは、目を見開きワタシを見て
そして無理やり笑う。
「ありがとう・・俺もお前に何か礼をしないとな。俺に出来る事といえば、この刀でお前を守る事くらいかな。って・・でもこんな俺じゃお前一人、守ってやれるか、分かんねーか・・頼りないだろ・・」
「そんな事ない、信じてる。ワタシ、藤堂さんを信じてますから。」
「なぁ・・俺もお前の、その言葉を信じても良いか。いや、信じさせてくれ。それだけで何か、強くいられるような・・そんな気がするんだ。お前はずっと、俺の隣に居ろ。もう何も心配しなくて良い。俺が絶対に守ってやるから。」
ワタシは藤堂さんに抱き締められながら、頷いた。
次の日の朝、庭の花に水遣りをしているところに藤堂さんが
最中を持ってやってきた。
ワタシはお茶を入れて隣に座った。
前もこうやって一緒にお菓子を
食べたな言う藤堂さん。
お前とは色々、共有したくなると言った。
「今までは誰かに、この景色を見せてーとか、一緒に同じもん食いてーとか、別に思った事なかったけどなんかお前とは、色々共有したくなるっつーか、この菓子を貰った時もさ、お前の喜ぶ顔が真っ先に浮かんだんだよ。いつもだったら俺一人で食っちまうとこなんだけど。なんかお前が旨そうに食ってるとこ、思い出してさ。」
「いつもみたいに、顔を近づけて、からかってこないんですか。」
「ばーか・・そんな事、しねーよ。」
藤堂さんがワタシを見つめる視線は、以前と違って
もっと近いものになっていた。
ワタシの胸に、甘い暖かな気持ちが溢れた。
でも、それとは別に気に掛かる事があった。
「最近、藤堂さんの雰囲気・・・感じが変わったように思います。ワタシをからかわなくったのとは別に。」
少し藤堂さんは考えていた。
「・・そっか・・お前には分っちまうんだな。」
まったく、なんでそんなに鋭いんだかと・・困ったように笑った。
「ずっと・・隣で見てきましたから。分りますよ。」
藤堂さんは、変な事を聞いてもいいかと言う。
ワタシは頷いた。
「・・・・・・・死ぬって・・・どんな感じなんだろうな。」
ワタシは少し驚いた。
"死"と言う事をワタシ以上に身近に感じているはずなのに
斬った相手にも大切な人が居たんじゃないのか、孤独になる人が居るんじゃないのかと
大切な人からも忘れられてしまうんじゃないのか・・藤堂さんはそう考えるようになったと言う。
死ぬなら・・意味のある死に方がしたいと・・。
「俺はさ、新撰組の為に死ねるんなら本望なんだ。ただ、俺が本当に怖いのは、死ぬ事なんかじゃねぇ。・・・俺って言う人間が誰からも忘れられちまうのが・・怖いんだ。」
藤堂さんは、話をはぐらかすように
最中を食べた。
ワタシは、藤堂さんの横顔を見つめていた。
(ねぇ・・死んでしまって、自分て言う人間が忘れられてしまう怖さは誰にでもきっとあるよ。まるで存在していなかったみたいに。ワタシだってそう。天涯孤独の身の上になってしまって、このまま世を去ってしまったら・・きっと忘れられしまうに違いないもの。)
「なっ、なんだよ、じっと見てっ。」
「あっ、くっ、口に最中の皮がくっ付いてますよっ。」
ワタシは思わず、取ろうしたら、藤堂さんは、恥ずかしそうにワタシの手を振り払った。
「あのさ・・お前って俺の事・・どう思ってるんだよ。」
「好きですよっ。」
あえて笑顔で言った。
あまり深刻にならないように。
飲んだお茶にむせながら
「げほっ、変な大胆なとこ、あるよなお前ってさ。」
「・・そうか・・好き・・か」
「た、頼むから他の隊士と手、繋ぐとかそういうのは無しだぞっ。い、一緒に町に出て買い物なんていうのも駄目だっ。町に出る用事があるなら、俺が一緒に行く。いいなっ。」
ワタシは微笑んで頷いた。
(藤堂さん、なんだか、とっても可愛いんですけど。)
「よしっ、約束だからっ!絶対に守れよっ、絶対だからなっ!後・・俺以外の男と二人になるな。」
「なんで?」
理由は分ってたけど、少し、いじわるして聞いてみた。
「あっ、あぶねーからだよっ。後はえーっと、えーっと・・」
それからワタシは藤堂さんに、色んな約束事をさせられた。