新撰組黙秘録勿忘草 ~藤堂平助~②
ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語ります。一部脚色がございます事をご了承の上お読み下さい。
大人な表現が含まれます。ご注意願います。
それでもOKの方・・どうぞお進み下さいませ~。
*新撰組黙秘録勿忘草 ~藤堂平助~
CV:下野 紘
長い旅路で、やっと江戸に付いた藤堂さんとワタシ。
藤堂さんは、隊士募集に出掛けると言う。
ワタシは初めての江戸で、珍しいものが多くてきょろきょろしてしまった。
それに屋台の多さに驚いた。
一緒には連れて行ってはやれないが、帰ったら江戸の良さそうな場所を
案内してくれと藤堂さんは言った。
宿のおかみさんや、回りの人聞いて調べろと。
ワタシは藤堂さん達を見送り、早速聞いて回った。
夕刻、藤堂さん達が帰ってきた。
もうワタシは居ても立ってもいられず、走り寄った。
「今、帰った・・ってなんで、お前、走り寄ってくんだよっ。心臓に悪いなっ、まったく。」
「だって、早く町に出たくて、そわそわしてたんですっ。」
「はいはい、待たせて悪かったって。」
「あ・・疲れてませんか。」
「っ、疲れてなんかねーよ。ほら、出かけるぞ。」
藤堂さんと一緒に宿を出た。
「早速、案内してもらおうじゃねーか。腹も減ったし買い食いもしてーな。江戸の飯は案外、上手いんだぜ。」
「食べた事、あるんですか?」
「い、いやっ、えーっと、みやげ・・みやげだよっ。みやげに貰った事があんだよっ。」
何処に行くんだと藤堂さんに聞かれ、ワタシは江戸で老舗のお饅頭屋さんがあると聞いたので
其処に行くと言った。
すたすたとワタシは藤堂さんの前を歩く。
「あれ・・こっちの道で合ってるか?」
「はい、こっちですよ。合ってるはずですっ。」
ワタシは自信満々で答えた。
「・・いや・・こっちに饅頭屋なんて無かったんじゃ・・・」
小声で何か藤堂さんが呟いたが、ワタシには聞こえなかった。
・・おかしい
こっちで合ってるはずなのに、お店が段々、少なくなってきた。
内心、ワタシは焦った。
「本当にこっちで合ってるか?」
「だ、大丈夫、合ってますっ。」
自棄になって言ってしまった。
「・・絶対、こっち、ちげーよ・・。」
はぁ・・足を止めたワタシ。
「あの・・・迷い・・ました・・。」
笑い出した藤堂さん、気付くの遅過ぎとお腹を押さえて笑われた。
「もう気付いてたんなら、早く言って下さいよっ。」
口を尖らせてワタシは言った。
「だって、お前があまりにも自信ありますって感じだったから、お前のやる気を削ぐのもなぁと思ってよ。」
戻れば良いだけだと藤堂さんは言った。
今日一日で江戸を見て回ろうと思っていたワタシに
江戸は広いんだからと言われた。
「あ、そうだ、お前、江戸での掟って知ってるか?」
「何の事ですか、それ?」
「江戸じゃあさ、男女が二人っきりで歩く時は、必ずこうしなきゃ、いけねーんだよ。」
手を繋いで、指と指を絡めるんだと藤堂さんは、ワタシの手に指を絡めてきた。
(あっ・・)
顔が赤くなる。
なんでそんな事しなきゃいけないのか、訪ねると
江戸は危険な町だ、男に従う女は遊女だと思われるから
こうしてないと俺が眼を離した隙に、どこかに攫われるかもしれないと言われ
怖くなり、藤堂さんの手をぎゅっと握った。
藤堂さんは微笑んでワタシを見た。
俺の恋人って感じにしてもらわないと
と言われ恥ずかしくなった。
「と、藤堂さんは、一人で女の人が歩いてたら、声、掛けるんですか。」
「ん~まぁ、好みの女が一人で歩いてたら、そりゃ声を掛けるだろう。」
(やっぱり、助平男!)
「っ、なんだよっ、その顔、別に良いだろう。懇意にしてる女が居る訳でもねーんだし。」
男の人と手なんか繋いだ事のワタシの手は
次第に汗ばんできた。
それを知った藤堂さんは、あの朝の口付けも初めなのかと聞いた。
ワタシは頷いた。
「だ、だったら、悪い事、しちまったな。女ってアレだろ、そういう初めてって大切にしたいって良く聞くし・・。悪かったよ・・ごめんな。」
今更、謝られても・・。
「だったらさ、俺が責任、取ってやろうか?」
耳元で言われて、顔が一層赤くなる。
からかわれてる事に気付いて、藤堂さんの腕を叩く。
「そんなに怒んなって!」
ワタシは繋いだ手を振り解いて、人混みの中を走った。
後ろで藤堂さんが、何か叫んだけど
腹立たしかったのと恥ずかしかったとので
振り返らず走る。
(もう、いっつも、からかってばかりで!知らないっ!)
走るのだけは速かったワタシを捕まえるのに
藤堂さんも必死で走ったみたいだった。
人混みで揉みくちゃにされながら、人にぶつかりそうになるワタシを守るように
肩に手を回わす藤堂さん。
どきん・・心臓が鳴る。
「早く、お前も俺の腰に手を回せ。」
躊躇してるワタシの手を取り、自分の腰に回わす。
(あ・・どうしょう・・男の人の、藤堂さんの身体に触れてる・・)
「硬いんですね。」
なんか、変な事、言ってる・・ワタシ。
「ばーか、当たり前だろ、女の身体と違って男の身体は骨ばってんの。なーに、お前、そんな事も知らなかった訳?」
だから大事に育てられた箱入り娘ってのは面白いと、ワタシを見ながら少し笑った。
「江戸の掟、もう一つ教えてやる。恋人はこうやって裏路地に入り込んで。」
藤堂さんは近くの路地にワタシを連れ込んだ。
「口付け・・しないといけねーんだ。」
咄嗟に目を硬く閉じたワタシを、彼は嘘に決まってんだろと言って笑った。
「騙されたのが、そんなに悔しい?それなら嘘を本当にしてやったって良い。・・するか?口付け・・」
綺麗な藤堂さんの顔が近づいて・・ワタシは彼に平手打ちをした。
(もうっ、ワタシの気持ちも知らないでっ・・ん?ワタシの・・気持ち?)
もやもやしたものを感じた。
話しをはぐらかすように、ワタシはお饅頭屋を捜した。
「と、藤堂さん、お饅頭屋さん、有りましたよっ。すいません!お饅頭、10個下さいっ。」
「お、おい、何、10個も頼んでんだよっ。それ払うの俺だろっ。饅頭は買いだめするもんじゃねーて。」
「えっ、普通に一日で食べきれますよ。これくらい。」
「・・恐ろしい女だな、お前・・。」
ワタシは欲しかったお饅頭を買えて満足して、呆れる藤堂さんと一緒に
宿に帰った。
宿に居る間は、宿のお手伝いもしているワタシ。
お手伝いも終わって部屋に戻ろうと思って
廊下を歩いてると、藤堂さんが刀の手入れをしていた。
「刀のお手入れですか。」
「ああ・・。」
ワタシは藤堂さんの近くに座り、その様子を見ていた。
「刀が好きなんですか。」
近藤さんほどじゃないが、好きだと言う。
「・・この刀はさ、俺が藤堂家の一員だと言う事の証明なんだ。こいつは上総介 兼重(かずさのすけ かねしげ)って言って、俺の家系が代々お世話になってきた刀工に作ってもらったんだけど・・それがどういう事か、分るか?」
ワタシは首を横に振る。
「俺って・・実は落胤(らくいん)でさ、父親がいねーの。」
藤堂さんは自分は父親に認められてないと言った。
「両親は殺されたんじゃないんですか?」
「?何の話だそれ。ああ、お前が目ぇ覚めた時・・ははっ、あれは嘘だよ。御近づきの為に、仕方なく付いた嘘てぇーか、まぁ、そんなとこ?」
「また?もう嘘ばっかりっ!」
もう嘘はつかないと少し困った顔して笑う。
この刀は・・藤堂家でないと持てないんだと言った。
「別にちゃんとした父親が欲しい訳じゃねぇ。」
新撰組に入った自分にはそんなもの、何の必要もないと言う。
ただ・・父親に裏切られた母親が不憫だと。
父親をあいつと呼ぶ藤堂。
好きな女を泣かしたあいつを許せないと。
母親の為に、小さい時から我侭も言わず耐えた。
時々、母親は俺を通して・・あいつを見ていた。
それが悔しかったと言う。
「母さんの為に良い子にしてようって、我侭言わねーようにしてたのにさ、母さんが愛してるのは結局、俺じゃなくて、あいつなのかもしれないって、そう思い込んじまう時があって・・はぁ・・あの頃の俺は母さんの愛を独り占めしたかったんだろうな。」
新撰組に入ったのも母親の為だったけど、新撰組は自分を必要としてくれて
居場所が出来たと生まれて初めて思ったと
藤堂さんは刀に目を落としながら言った。
(知らなかった・・。そんな過去があったなんて。いつもいい加減で、ワタシの事、ばかにして、からかってる藤堂さんしか知らないから・・。)
自分でも気付かないうちに、頬に暖かいものが流れた。
藤堂さんは刀を置き、ワタシに自分の方に向くよう言った。
ワタシは藤堂さんの方に、向きなおした。
藤堂さんがワタシの泪を舌で絡め取る。
「そ・・んな事しなくても・・」
「ばーか、こういう時は黙ってじっとしてろ。」
「・・別にお前に分って欲しくて、話したわけじゃなかったけど・・・人に泣いてもらえるなんて、何時振りだったかな・・お前の泪は、ちゃんと覚えていてやるよ。ありがとな。」
優しい瞳でワタシを見る藤堂さんに、胸が痛くなるものを感じた。