新撰組黙秘録勿忘草~近藤 勇~④ | 中島陽子のフリーダムなブログ

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新撰組黙秘録勿忘草~近藤 勇~④

注意ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語っています。一部創作があります事をご了承願います。
大人な表現・内容がございます。ご注意願います。



$中島 陽子のファッション・コスメ館


*近藤 勇
CV:井上和彦




秋も深まった夜、ワタシは近藤さんに散歩に誘われた。

「急に散歩に誘ってしまって悪かったね。繕い物途中のようだったけど大丈夫か?」

「はい、平気です。もう少しで終わりでしたから。」


もうすぐ紅葉が始まる楽しみだと近藤さんは言う。
京は自然が素晴らしい、夜空すら江戸で見上げていたものとは、どこか違うと言った。
京育ちのワタシは、とても嬉しく聞いていた。

「今日の月は一段と美しいなぁ。あれは半月か、凄く贅沢な気分だ。頭上には半月と輝く星々、耳を楽しませてくれるのは涼やかな虫の音。そして隣には愛らしいお嬢さんが寄り添ってくれている。」

近藤さんがワタシの腕を取った。

「こうして絡まった腕からお嬢さんの体温が伝わってきて、夜風で冷えそうになる身体を暖めてくれる。世の中にこれ以上の至福があると思うか?」

距離を縮めて言う近藤さんに、心が高鳴った。

「もう、大袈裟ですよ。」

「あはは・・大袈裟なものか、俺は大真面目だよ。なにせもうすっかり・・お嬢さんに惚れ掛けているからね・・。」

いきなり、何を言い出すの・・。
顔を見られないじゃない・・。


近藤さんは、そんな事には構い無く話しを続ける。
ワタシの夢をずっと見てる、香りの薄い花を生けてあっても同じだと言う。
頭から離れない・・寝ても冷めても、戦いに出てる時でも
ワタシの顔がチラつくのだと。


(近藤さん・・でもそれは夢です。本当の、
現実のワタシは貴方の目の前にいます。)


・・・何を期待しているのだろう。甘い言葉を囁いてはいても、近藤さんはそれ以上ワタシには触れないと言うのに

「・・・これがどう言う事か、分かるか。」

腕を強く引かれ、近藤さんの方に向かされた。

「逃げるなら今の内・・と言う事だよ。」

今度は見間違えなかった。
近藤さんの目に"男"が見えた。

切れ長の瞳に月の光が当たって銀色に輝いた。
虎徹の刃の光と同じだ・・とワタシは思った。
ワタシを欲していながら、近づかないその光。
相反したものを感じ、身動きが取れなくなった。

「俺の誘いに乗って出歩き、腕を組んだりしていては、俺はどんどん調子に乗ってしまう。お嬢さんはそれで良いのかな。・・・少しは身の危険を感じるべきだと思うけど。」

近藤さんは手を離した。

「近藤さんは、優しい方ですから、そんな事はなさいません。」

ワタシは掴まれていた腕をなでた。


近藤さんはワタシが認識が甘いだけだと言う。
男は怖いものだ
自分も例外ではない。
以前言った自分は例外だと言った言葉は撤回する。
今の俺は十分警戒すべき相手だと。


「俺はこう見えて気が短いほうでね、我慢が苦手なんだよ。欲しいと思ったらすぐ手に入れたくなってしまう。」

「気が短い?そんな風には見えません。」



「・・・人は見た目に寄らない、と言うからね。」

風が強く吹いた。
近藤さんの黒髪が舞う。
闇に舞う黒髪は妖しく美しかった。

「だから・・せいぜい気を付けてくれ・・お嬢さん。」

ワタシの目を覗きこんで言った。
又・・銀色に光った。


屯所に戻ろうと近藤さんは言い、歩き出した。



・・・・おかしいと思った。
秋が深い今夜、風もある肌寒い夜に散歩に行こうと誘われた時から、感じていた。

逃げるなら、今のうち・・

この言葉をワタシに聞かせたかったのでしょう?

引き返せなくなる前に
自分には近づくな、突き放せ・・と。


そんな言葉を向けられると、ますます慕ってしまうと言う事を
貴方は分かっていない。

妹としか見られていない間は、良かった。
まだ・・抑えられた。

貴方は誰にでも優しいから、その優しさを・・勘違いしてはいけないと
自分に言い聞かしてきた。


貴方の目に"男"を感じた時に
ワタシは・・
ワタシも一人の女として抑えられず
見ていました。

さっき貴方に腕を掴まれた時、このまま貴方の胸に身を預けられたら
どんなに幸せかと・・思っていました。
ワタシの目もきっと"女"に、なっていた事だろう。
それを貴方も分かったはずだ。
それなのに、どうして・・逃げろ等と・・。

もしかして
近藤さんも苦しんで、おいでなのですか。
ワタシを好きになった事で。
貴方の立場がそうさせて、いますか。


「・・お慕したいしています。ずっと前から・・」

ワタシは言葉に出して言ったが、秋の風に飛ばされた。

もう、以前のように手を繋いでもくれない。

距離を置き、先に歩く近藤さんの背中を
やるせない気持ちで見つめていた。




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それから暫く、近藤さんの姿を屯所で見掛けなかった。

見る事も出来ないなんて・・。
距離を置き始めた近藤に、寂しさを感じていた。
せめて見るだけはと・・遠巻きに見ていたのに。


今朝、近藤さんの姿を見て、安堵すると共に嬉しくなって
声を掛けた。

「おはようございます。」

「おや、又、庭で逢ったね。」


長州の大物が京に潜伏しているらしいと、ここ数日は屯所の外で寝泊りしていたと言った。
ようやく片付いて今朝、屯所に帰って来たとの事だった。

夕べは斬りあいがあったらしく、近藤さんは興奮が冷めてない様子だった。
皆も無事だったと聞いて安堵した。

あんな近藤さんを見るのは、忍びない。
隊士を亡くした日の近藤さんを思い出した。


直接、局長の近藤さんが出向かなくても・・と言われたけど
腕が鈍ったり、直感が働かなくなったりと不都合も多い。
それに、愛刀の虎徹が暴れたり足りないと、嘆くものだからと
虎徹に触れた。

「虎徹の声が、聞こえるのですか?」

「いやいや、そういう事はないよ。ただ、虎徹が血を欲してる時ははっきりと分かる。」

虎徹を抜き、愛しそうに見た。

少し・・複雑だわ・・。
そんな風に刀を見てると、嫉妬してしまう。刀相手だけど・・。

我に返った近藤さんは、慌てたようにワタシに聞いた。

「あっ、お嬢さんはどうして此処に?花を摘みに?ああ、俺の部屋に生ける花か。」

近藤さんは、面白い提案をしてくれた。
ワタシは近藤さんの部屋に生ける花を、近藤さんはワタシに似合う花を、どちらが早く摘むかを競おうと言った。


「良いですよ。負けませんからっ。」
ワタシは笑って引き受けた。

こんな風に近藤さんと話せる事を、ワタシはとても嬉かった。


「たまには、そんな趣向も良いだろう。じゃ、はじめ!!」

近藤さんの声を合図に、ワタシ達は花を捜し始めた。


近藤さんの部屋に生ける花は、華美な雰囲気のものは避けている。
落ち着いた男性の部屋でも、違和感のないものを選んではいるけど・・


あっ、あの青い花・・この季節にあの花が咲いているなんて。
迷わずその花に手を伸ばした。


一足先に近藤さんの手が、ワタシより先にその花に伸びた。

「だめだよ、これは俺が先に見つけたんだよ。」

「そんな事ありません。ワタシの方が先に見つけたんですよ。」

「いやいや、そんな事あるだろう。」

ワタシの手より近藤さんの手の方が下にあるから、この花は自分の物だと近藤さんは主張した。

こういう、やり取りって楽しい。
じゃれあってるようで・・。

「これはなんて言う花なのかな。」

「勿忘草と言います。今の時期に咲く花ではないので珍しいです。」

「勿忘草と言うのか・・覚えておこう。」

「ところで、お嬢さんはどうして手を退けないのかな。まだこの花を自分が先に見つけたのだと、主張するつもりかな。」
「・・・こんなに長い時間、俺と触れ合っていて・・良いのかな。」


ワタシは近藤さんを見つめた。
ゆっくりと時間が流れた。
ゆっくりと流れたように感じた。

ワタシの気持ちを、どうか、受け止めて下さい。
言葉には出来ない、この気持ちをどうか。
・・お願い・・。
精一杯の思いを込めて
見つめた。

近藤さんの喉が少し動いた。

近藤さんがワタシの手を握り抱き寄せた。

「前にも言ったはずだよ。俺は我慢が苦手だと。」

次の瞬間、熱く口付けされた。
目の前の景色が霞む。

「それとも分かってて、ずっと触れていた?」


意地悪く近藤さんは聞いた。

「だとしたら・・悪い子だな・・」

ワタシの後頭部に手を回して、逃げられないようにしながら
何度も口付けを落とす。

「俺はね、ずっと、こうしたかったんだよ。お嬢さんの唇を貪り尽くして、息も出来ないくらいに・・。」


もう、どうでも良かった。
お互いの立場とか、そんなもの、どうでも。
今は、この恋情を分かち合いたかった。

「まさかお嬢さんにこんな、気持ちを抱くなんて、出会った時は思いもしなかったんだけどね。」

「今、お嬢さんが愛しくて堪らないよ。」

吐息まじりに、熱い言葉と口付けを繰り返す。

「好きだよ。」

ワタシの目から涙がこぼれた。
目尻の涙を近藤さんの唇が吸う。
優しく愛おしそうに。


こんなところを他の誰か見られたら、切腹ものだと
近藤さんは言った。

ワタシは、此処が庭であった事を思いだして、顔が赤くなった。


近藤さんは人目に付かぬよう、俺の部屋で・・と誘ったが

こ、こんなお昼から、、恥ずかしい・・
ワタシは下を向いた。

近藤さんは、目を細めて笑った。
「そうか、今夜、部屋においで。いいかい。」

「・・約束だよ。」

耳元で囁かれ、身体が熱くなった。

と、とにかく、今は仕事に戻らないと。
熱病のようになった身体を落ち着かせながら
仕事に戻った。