新撰組黙秘録勿忘草~近藤 勇~③
ネタバレございます。
ワタシ目線で勿忘草を語っています。一部創作があります事をご了承願います。
大人な表現・内容がございます。ご注意願います。
*近藤 勇
CV:井上和彦
夕べの夜襲から帰って来た近藤さんの様子が変だったので
気になって、部屋の前までやってきたワタシ。
「ああ、お嬢さんか、おいで、良いよ、入っておいで。」
ちゃんと眠れたのかと聞かれたワタシだったが
目が赤いので眠れていないのが、近藤さんに知られてしまった。
それより元気のない近藤さんが気になった。
「元気が、ありませんね。」
「そうだな、あまり元気ではないな・・昨日大切な隊士を亡くしてしまってね・・・」
力なく肩を落とした近藤さんだった。
斬りあいが多い新撰組だから全員が無事ではいられないと分かってはいるが
最近は誰かが死ぬ夜が多い。
「こう続くと、神経が参ってしまって、あはは・・こんな情けない姿、皆には見せられない。どうしてお嬢さんに愚痴をこぼしてしまったのか。・・自分でも良く分からないよ。」
近藤さんは力なく笑った。
(優しい・・人なんだな・・近藤さんって)
もう少し付き合ってくれないかとワタシに聞いた。
ワタシは頷いた。
何故か・・一人にしちゃ行けない気がした。
大義名分の元、隊士の命を摘み取っているのかもしれない・・。
死んだもの達は全て、俺の自己満足に付き合わされていた、可哀想なやつらなのかもしれない。
そう思えてしまって・・と近藤さんは心の痛みを語った。
(誰にも立場上、言えなくて、苦しんでいるんですね・・・。こんなに優しい方が、重責で押し潰れはしないかと心配です。)
「俺が迷えば、俺を信じて付いてきてくれてた彼らの士道を否定する事にもなる・・分かってはいるんだ・・ただ・・今朝は酷くこたえた・・。」
「近藤さん、少し待っててくださいね。」
ワタシは庭に下りた。
そして庭に咲いていた花を摘んで部屋に戻り
近藤さんに差し出した。
「花?俺の為に摘んできてくれたのか?・・・人からこうして花を貰ったのは初めてだ。」
「そういえば、じっくり花を観賞する心なんて、もうずっと持ち合わせていなかった。・・美しいな・・。」
近藤さんは悲しげに微笑んだ。
近藤さんはワタシの事を心が豊かだと言った。
(そんな事、ありません・・ただ・・近藤さんの気持ちが少しでも元気になってくれれば・・)
近藤さんは花を、花瓶に生けておくと言ったが
すぐ枯れてしまうので、枯れる前に生け変えますとワタシは言った。
「手間なら、謹んで遠慮するが・・」
「手間じゃありませんよ。大丈夫です。」
「それじゃお願いしようかな。有難いよ。しかし・・」
近藤さんは、ふわりとワタシを抱きしめた。
本当にふわりと。
「こんな時に優しくされるとグラついてしまうじゃないか。困ったお嬢さんだね。」
すぐに身体を離した近藤さん。
ワタシは一瞬、何が起こったか理解出来なかった。
ずっと妹のように思っていたが、花を摘むと言う意外な行動を見て
ワタシに女性を意識したと言う。
(そ、そんなつもりじゃなかったのに・・ワタシまで意識しちゃう・・)
年頃の娘を男ばかりの新撰組において
急に心配になってきたと言う。
言い寄ってきたヤツは局中法度の規律通り、切腹させると・・。
「せっ、切腹は厳し過ぎます・・。」
「そんな事はない。刀を持つものが誓いを破って切腹もしないなんて笑いものになる。切腹は己の為でもあるんだ。」
しかし、相思相愛であれば・・切腹以外の処置を考えても良いと言う。
(その前に、そんな人、いませんから・・)
「今日は心配をかけてすまなかった。落ち込むなんて俺らしくないな。」
「お嬢さん、花、ありがとう。」
「いいえ、じゃ枯れる前にお花、生け変えますね。」
ワタシは近藤さんの部屋を後にした。
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その日、近藤は書面の山の中にいた。
うんざりとそれを見る近藤。
「良い天気だなぁ。こういう日に限って部屋に篭って書面に見なければいけないとは・・」
はぁ~とため息をつく。
近藤は部屋をこっそりと抜け出し、庭に出た。
ガサッとした音に反応した近藤。
「誰だっ!!」
「あっ・・ワタシです。」
「驚いた。てっきり俺が部屋を抜け出してのがバレて、
土方君が追って来たのかと思ったよ。」
(・・抜けた出して来たんですねぇ。又、怒られますよっ。土方さんに)
土方さんに言われて捜しに来たのかと、聞かれ
ワタシは洗濯物が風で飛ばされたので
それを捜していますと答えた。
「こっちに飛んできたのか?」
「そう思ったんですけど・・。」
回りを見渡すワタシ。
それじゃ、一緒に探そうと
庭を歩き出した。
「木の枝にでも引っかかっているのかも、しれないな。」
「そういえば、お嬢さん、捜している間の小話だとでも思って聞き流してくれて構わないんだが・・」
近藤さんは、この間摘んだ花の香りがワタシと結びついて
その花の香りを嗅ぐとワタシを思い出すと言う。
夕べは夢にワタシが出てきたと、しかも女性らしい・艶かしい姿を
で現れたようだ。
「少し興味が出て来たよ。俺の腕の中でお嬢さんはいったいどんな姿を見せてくれるのだろう・・ってね。」
近藤さんは、歩みを止めて
ワタシの耳元に近づいて
囁いた。
「夢の中と同じくらい・・乱れてくれるのかな」
近藤さんの美しい黒髪がワタシの頬に触れる。
まるで近藤さんに触れられているような
錯覚に陥って驚きながら顔を見た。
「そんなに驚くな。言っただろ?聞き流して良いと。」
近藤さんは笑いながら、ワタシを見た。
ワタシはその目に"男"を感じた。
いままでは、ただただ、穏やかで優しい眼差しだったのに。
いつのまにか、ワタシを"一人の女"として見てくれて・・いた?
見つけてくれた洗濯物を受け取りながら、もう一度、近藤さんの目を見た。
その目には、穏やかさだけしか、感じられなかった。
ワタシの勘違いだったのか。
でも耳元で囁やかれた言葉がずっと響いていた。