adore | 雪のような灰

雪のような灰

過去は決して死なない。それは過ぎ去ってすらいない。—ウィリアム・フォークナー

あなたのことが大好きで大好きであまりにも大好きすぎて、わたしのものにならないのが苦しくて、一緒に生きていけないのが苦しすぎて、奪いたいとか欲しいとか思う自分が嫌で、だから手放した。

自分勝手な理由で手放した以上、あなたのいない世界で喪失感に苛まれながら生きていくことくらいどうってことなかった。その覚悟くらいできていた。

あなたのために生きていた。



時々思い出しては、わたしのことなんて忘れて元気に暮らしてるといいなと願っていた。それがわたしなりの精一杯の愛のつもりだった。



それを何を今更。

許されるわけがないじゃないか。



だけどやっぱりこれでいいんだと思った。わたしは再び差し出された運命を受け取った。もう愛情や恋慕ではないのかもしれない。この気持ちはひょっとしたら憎しみなのかもしれない。もっと禍々しい何かかもしれない。いつかこの身を滅ぼすかもしれない。それでもいい。泡沫の想いに狂って破滅することに何の悔いがあるだろう。



もしもわたしたちが結ばれているのだとしたら、それは赤い糸なんて生優しいものではなく、触手や荊の蔓や手枷や有刺鉄線のようなグロテスクな何かなのだろう。