終戦記念日の次の日は大文字焼き、

じゃなくて五山送り火である。

大文字だけじゃなくて、

妙法、舟形、鳥居形、左大文字と古都を取り巻く山山に

炎の文字を描くという、スケールの大きな、

すばらしいアイデアである。
 

さて高校生の時、ある英語の先生からこんな話を聞いた。
その先生は大の字の横棒の右の方担当の家に生まれ、

毎年送り火の行事に参加している方だった。

毎年送り火が見られるのはつい当たり前だと思ってしまうが、

黙々と作業されている方がたくさんおられるわけだ。
 

ところが、ある年の8月16日にはとんでもない陰謀が企まれていた。

大の字の横棒の右上のあたりに、

点火時間の8時が近づくと、

学生風の若い男たちが次々に集まってきた。

大の字が点火されると、

20名ほどの男たちはおもむろにタバコを取り出すと、

いっせいに火を付けた。

大文字焼きを犬文字焼きにしてやろうという

邪悪な計画を実行したのだった。

しかし、遠くから見ると、タバコの火くらいでは何も見えず、

計略は水泡に帰した。

 

「大学生にもなってそれくらいのことも

見当つかないとは情けない。」

というのが先生の結びの言葉だった。
 

「京都観光オフィシャルサイト」を見ると、

「点火当日は、円滑な点火作業と危険防止のため、

各山への登山は禁止されています。 

(山道には、照明設備がありません。)」となっている。

犬文字焼きの陰謀がきっかけではなさそうだ。

いまどき人騒がせな動画を撮って受けようとする

バカがどこかにいるらしい。

くれぐれもヘンな考えをおこされないようお願いします。

先生は、大の字が浮かび上がったら、

今年も元気でやっていると思って下さい、

などと話されたことを覚えている。
こちらもいい加減年を食ってきたので、

あの先生がご存命かどうか分からない。

もしかすると精霊となってしばしこの世に滞在した後、

子孫の送り火を見届けて

 

 

 

浄土にお帰りになるおつもりかもしれない。