『ケナは韓国が嫌いで』でチャン・ゴジエ監督の

作品を初めて見た、という方も多いと思います。

格差社会韓国が嫌になって、ニュージーランドへ

移住しようとする若い女性の物語です。

私が最初に見たのはアップリンク京都で見た

『一夏のファンタジア』(2014)でした。

『ケナ』を見て、広く一般の映画ファンにも

受け入れやすいスタイルになったように感じました。
 

『一夏のファンタジア』もなかなか面白いと思うのですが、

実験的なスタイルです。

前半は奈良県の五條市で年寄りに昔の話を聞く、

というノンフィクションで、

後半は一人で韓国から五條市にやって来た若い女性と、

自ら観光案内を買って出る、地元の若い男の二日間を

描いたフィクションという二部構成です。

後半をもうちょっとふくらませて、

1時間半くらいにするのが普通のやり方でしょう。
 

出町座で 『ケナは韓国が嫌いで』公開にちなんで、

チャン監督の特集上映が組まれています。
 第2作『眠れぬ夜』(2012)は

仲のよい若い夫婦の生活が描かれています。

これもまだ純文学的というか、作家性の強い作品ですが、

『ケナ』に通じるワーキング・プアの

生きづらさがベースにはあります。

リアルを描こうとすると自然と社会性を帯びてくるようです。
 

私が一番感銘を受けた『5時から7時までのジュヒ』(2022)は

劇場初公開です。

主人公のジュヒは医師から乳がんの可能性があると告げられます。

ジュヒのもとをさまざまな人々が訪れます。

元の教え子、落第しそうな男子学生、

母親恋しさに会いに来たジュヒの幼い娘。

一方、芝居の稽古中の小劇場には演出家のホジンがいます。

ジュヒの元夫です。

最初は演劇と大学教授の生活が並行して描かれている

スタイルがよくのみこめませんでした。

ずっと白黒で、最後にカラーになります。

(聞き間違いでなければ)ジュヒが亡くなった後、

ジュヒとホジンが出会うきっかけとなった演劇が、

個人の部屋で仲間が見守る中、上演されます。
 

演劇がらみという点では濱口竜介監督の

『寝ても覚めても』(2018)と『ドライブ・マイ・カー』(2021)を

思い出さずにはいられません。

濱口作品が好きな人は本作と見比べてみると面白いかもしれません。

一方『5時から7時までのジュヒ』というタイトルからは

アニェス・ヴァルダ監督(1928-2019)の

『5時から7時までのクレオ』(1961)を意識していることは明らかでしょう。

モノクロの映像の美しさもありますが、

何と言ってもジュヒ役のキム・ジュリョンが

すばらしいと思いました。

聡明でやさしく忍耐強い、こういう大人になりたいと

思わせる理想的な女性を、作り物らしさなく演じています。

ジュヒの母親役の女優さんもあっさりした演技で

ごく自然な娘への情愛をよく感じさせていいいなと思いました。

出町座での公開は終わりましたが、

 

 

いつかチャンスがあれば思い出して映画館へ脚を運んで下さい。