北海道は曇っていたが、雨は降っていなかった。
結局雨に降られることなく、
京都まで戻って来られたのだった。
バスの入り口に手書きの座席表が貼られている。
後ろから2列目。
単独で申し込んだので、隣は空席。
12列ほどの大型バスが8割くらいは埋まっている。
<添乗員は自称19歳>
添乗員のOさんは自称19歳のピチピチギャルである。
実年齢はその何倍か定かではない。
ガイドはいないが、バスの中では
Oさんのおしゃべりが延々続いている。
明るい性格のようだ。
<十勝牧場>
1日目は白樺並木が売り物の十勝牧場に寄る。
確かに並木はあったが、それ以外は工事現場などで見かける
トイレらしきものがあるだけで、なんか侘しい。
あとはホテルへ直行だ。
別のホテルに泊まる客が降りてからしばらく走ると、
十勝幕別温泉ホテルグランヴィリオに着いた。
<ホテルグランヴィリオ>
フロントで鍵をもらって、部屋に行くと、
ドアが開いていて中に入れる。
部屋は和室で、テーブルの上に夕食と朝食用の券が置いてある。
今インターネットで調べると、
じゃらんでは「和室12畳29700円~」になっている。
個人旅行ならまず縁のないホテルだ。
<浴衣じゃなかった>
箪笥を開けると4人分の浴衣がそろえてある。
浴衣よりズボンの方が動きやすいがどうしようかと思って、
ふと浴衣を手に取ると、ズボンになっていた。
上着も見ると作務衣というものらしい。
着替えて大浴場華の湯に向かう。
<お風呂>
サウナ、露天風呂をはじめ浴槽がたくさんある。
ホテルのホームページを見ると*、
12階に展望大浴場というものもあるらしい。
ちょっと行ってみたかった気もするが、
基本的に風呂には1日一度入ればたくさんだ、という考えである。
<どんな温泉?>
興味のある人向けに一応説明すると、
ここの温泉は「モール温泉」といって
地下へ堆積した植物が層となり、
その堆積植物層を熱水が通って湧出したもの。
Oさんの話では昔は泥のような色をしていて、
たまに地下の堆積植物が浮き出ていたこともあったそうだ。
今は濾過しているので、淡い茶色で透明感のある湯だった。
天然保湿成分を豊富に含んでいるので
「丘の上の美人の湯」とホテルでは命名しているとか。
アリガチー。
<アンチ・バイキング論>
風呂の後は夕食だが、例によってバイキングである。
このツアーで4度ホテルでの食事があったが、
すべてバイキングだった。
私はバイキングが嫌いである。
列に並んで、取るかどうか瞬時に判断しつつ、
食べ物を皿に取っていくという作業を繰り返した後、
食べ物を満載した盆を慎重に席まで運ばねばならない。
今のところ大丈夫だが、そのうちボケてくると、
自分の席が分からなくなって立ち往生しそうな気がする。
好き嫌いはあまりないので、
ホテル側で見繕った料理を席まで運んで欲しい。
シェフがステーキを焼いている大鉄板コーナーもあったが、
大広間を経巡って席にもどってから食べてみると、
もうっすっかり冷えていた。
ものにもよるが、基本、
作り置きを食べることになるというのも問題だ。
他方、提供する側からすると、
100人いれば100通りの好みがあるものを、
まったくクレームが出ない対応の仕方を考えろと言われたら、
バイキングは唯一最高の解ということになるのだろう。
まあ、私が今クレームをつけているわけだが。
和洋中なんでもありのバイキングはまさに食のポストモダン。
しかし、何でもありのメニューなら、
わが子ども時代にもあった。
デパートの大食堂である。
おじいさんは蕎麦、お母さんは親子丼、子どもはお子様ランチ、
と家族それぞれが好きなものを選べる大食堂は、
誰かがちょっと我慢して、家族がみな同じものを食べる食事から
解放される場でもあった。
どうしてもバイキングを続けるというなら、
事前に予約すれば注文したメニューを運んでくれるとか、
ホテル側で用意したセットメニューのどれかを
注文すれば運んでもらえるとかにしてもらえないかなと思う。
<読んだ本『石狩乙女』>
部屋に戻ってから、飛行機の中で読んでいた、
森田たま著『石狩少女(おとめ)』(1940年)を読む。
旅行にはできればその土地を舞台にした本を持って行く。
森田たまという人はエッセイストだと思っていたが、
『石狩乙女』は自伝的長編小説で、
札幌の裕福な家庭に生まれて女学校に通う少女が主人公である。
作者は1894年生まれなので、明治時代の話である。
今なら高一とか高二くらいの少女でもいい縁談があれば、
即結婚という時代に、
文学好きで気の強いヒロインが
どう生きて行くかが描かれている。
感傷的な少女小説ではなく、
現代の女性でも共感できる傑作だと思う。
*ホームページで気になったのはGRANDVRIOHOTEL
というアルファベット表記である。
GRANDをフランス語風にグランと読ませるのはいいとして、
VRIOは「ヴリオ」としか読めないと思う。
フランス語にはVRIOもVIRIOもない。
virion「ビリオン」というウィルスの最小単位、を意味する語があるだけだ。