ヘンリー8世といえば
6人も奥方がいたことで知られている。
一夫多妻制ならちょっと多過ぎですむところ、
カトリックでは妻はひとりと決まっていて、
基本は離婚不可である。
だから妻を取り替えるには殺すか、
カトリックをやめるしかない。
ヘンリー8世は殺しもしたし、
ローマ教皇庁と絶縁もした。
ローマ法王に結婚はなかったことにしてもらう、
という便法もあったが、
当時16世紀にはそういうわけにいかなかったようだ。
中学生の頃、トマス・モアの「ユートピア」と
エラスムスの「痴愚神礼讃」が入った本を読むと、
離婚に反対したトマス・モアは処刑された、
と書いてあった。
(ウィキペディアによると、
国王をイングランド国教会の首長とするという法律に、
カトリック教徒の立場から反対したことが
反逆罪とされた、とある。)
反対した者は処刑。
昔の王様は恐ろしいものだと思った。
それがヘンリー8世だった。
「推しが上司になりまして」を録画して、
昼飯のラーメンを啜りながら見ているうちに
、鈴木愛理、なかなかいいな、と思うようになったところ
ミュ-ジカルへの出演を知った。
しかもその作品はヘンリー8世の6人の妻を
テーマとしたものだという。
即チケット購入を決めた。
プログレ好きなら、ヘンリー8世ときけば、
リック・ウェイクマンの「ヘンリー8世の6人の妻」
(1973年)を思い出すはず。
それぞれの妻の名前がタイトルになった
6曲からなるエレクトリック純粋器楽組曲である。
レコード会社には
歌詞がないコンセプトアルバムということが嫌われて、
当初12500枚しか製造しようとしなかった。
ところが発売5年で600万枚の大ヒットとなった。
現代ではとても無理だろう。
プログレの時代だった。
シェイクスピアの「ヘンリー8世」は
王妃キャサリンと離婚し、アン・ブリンと結婚する、
という時期を描いている。
アン・ブリンはエリザベスを産み、
エリザベスの洗礼式で華々しく終わる。
シェイクスピアのキャリア前半は
エリザベスⅠ世の時代だった。
「ヘンリー8世」はエリザベス女王が
亡くなって10年近く経ってから書かれた。
シェイクスピアは故女王の母上アン・ブリンが
幸せの絶頂だった瞬間で芝居を閉じて、
処刑は描かなかかったわけである。
阿部寛のヘンリー8世を見たのは
2022年10月だった。
その一ヶ月ほど前エリベス女王が亡くなった。
こちらはⅡ世である。
エリザベスⅠ世とⅡ世。
「エリザベス」という名がシェイクスピアの時代と
現代を結んでいるのが面白くて、
Two Elizabets:Birth and Deathというエッセイを書いた。
https://alls-well.webnode.jp/ess/
シアター・ドラマシティのホワイエをぶらついていると、
Sixのポスターを見つけた。
ショックだった。
ダブルキャストだったのか。
キャストは来日版と日本キャスト版がある
ということは知っていたが、
日本版がダブルキャストだったとは知らなかった。
キャサリン・ハワードは
鈴木愛理と豊原江理佳という人である。
どっちだろうか。確率は1/2。
開幕早々今日はラッキーだと分かった。
6人のキャストの中で一番華奢で可愛いのが
愛理に間違いない!
頭には自由の女神風王冠を戴き、
衣裳は西洋の甲冑をカラフルにしたようなデザインで、
それぞれテーマカラーが決まっている。
ゴレンジャーならぬロクレンジャーといったところ。
ハワードは赤と思って見ていたが、
グッズとして販売されているコスチュームピンズを
見ると紫だったようだ。
グッズはどうせ高価だろうと思ってよく見なかったが、
このピンズは欲しかったなと思う。
Sixではヘンリー8世の元妻6人がベンドを結成し、
誰がバンドの主役になるかを競って、
それぞれマイクを握る。
だからミュージカルというより、
演劇的なバックボーンのあるライブ、という印象だった。
王はもういない。
だから王に離縁された女も、
王に殺された女も自由だ。
同時に王妃は2人以上存在できない。
王妃だった女たちはリニアな時間軸の上に
王妃1,王妃2te…王妃6としてピン留めされていた。
時の桎梏から逃れた王妃たちが舞台に集う。
亡者の宴。
初めて聞く曲ばかりだったわけだが、
どの曲もよく出来ていて、歌唱はパワフル、
充実した80分だった。
カーテンコールの間は動画も含めて
撮影オーケイというサービス企画もあった。
鈴木さんは顔がハイライトでとんでしまって
仮面をつけているように見えるのと
後ろ向きのしかなかった。
上手にとれた人はどこかに投稿しているんだろうな。
スマホで写真を撮るのはいつも難しい。
ノンストップ80分で14000円は
高すぎる気もするが、
鈴木愛理さんの魅力がたっぷり味わえて満足だった。