テレビのトーク番組などで、

有名人が別の有名人と勘違いされた、

というエピソードを語るときがある。

それほど似てるわけでもないのに、

間抜けな勘違いをする人もあったもんだ、

と笑ってしまう。

しかし自らを振り返ってみると、

なんとなく似ているので区別がつかない

という場合はときどきあった。

江口のりこと安藤サクラ
趣里と古川琴音

最初のペアについては放っておくとして、

趣里と古川琴音は丸い童顔、と漠然と認識していた。

趣里は半年朝ドラを見続けて、

その実力は評価するものの結局それだけだった、

ということは以前書いた。

趣里も伊藤沙莉も女としては圏外という感じなのだ。

童顔丸顔の古川琴音も

そういうグループに属すると考えていたので、

濱口竜介監督の『偶然と想像』(2021年)の

第一話「魔法」に主演したのは意外だった。

ストーリーはすっかり忘れてしまったが、

女の欲望を鮮やかに描いた作、という印象だった。

そういう役も来るんだ。

初めて可愛いなと思ったのは

サントリーのほろよいのCMだった。

ヘッドホンをつけた若い女性が

自宅でぐつろぎながらほろよいを飲んでいるという情景。

一人でいるから誰にも気兼ねなく、

自由に独立した生活をしている楽しさが感じられた。

現実の世界がアニメになるのだが、

絵がとてもきれいで好きなCMだった。

さて、その琴音がヒロイン役を演じたのが

映画『言えない秘密』である。
 

ストーリーは
厳しい指導に心が折れて、

イギリス留学を早めに切り上げ大学に戻ってきた

湊人(みなと)はピアノをやめようと決心していた。

あるとき旧校舎から聞こえてきた

ピアノの音をたどって雪乃(ゆきの)と出会う。

出会いを重ねるうちに二人はひかれあってゆく…

湊人を演じる京本大我は端整な美青年。

それに対しあらためて古川琴音の顔をよく見ると、
若干離れ気味な両眼の形がちがう。

右眼の方がぱっちりしていて

左目は微かに閉じようとしかけているようにも見える。

その眼がときにミステリアスになる。

湊人と雪乃が連弾するシーンが何度か出てくるが、

音楽を通じて心が通い合い、

盛り上がっていく様子がみごとに視覚化されていた。

連弾は互いの音を聴いて演奏するために

一段と難しかったそうだ。

古川琴音は「恋愛映画初ヒロイン」と

大々的に謳われているが、

―やっぱり、童顔だから?―

ヒロイン役がおくれたのも結局良かったと思える。

自然で明るく、

同時に胸に秘密をしまい込んでいるヒロインが、

古川琴音によって唯一無二の存在となった。
湊人にはひかりという幼なじみがいて

好意を寄せられているのだが、

ひかり役の横田真悠は絵に描いたような美人だ。

それが、見ていると、

美人であることが凡庸なことのように思えてしまう。
逆に、古川琴音はやはりそれほど美人だとは思えないのだが、

なぜか気になる存在になってしまった。
最初識別不可能だった二つの個体が

私の精神世界でそれぞれ発達した結果、

対照的な二つの存在になったわけだが、

その原因は何だろう?

俳優は役という衣をまとう存在なので

古川琴音は切なさを発動する役柄を上手に演じたから、

そのような存在と認識されるようになった、と一応は言える。

趣里は関西弁でしゃべり、力一杯歌い踊る、

または『ほかげ』で演じた、

戦後間もない時期を必死に生きた女性、

というのがわりと最近の役柄である。

趣里が演じる雪乃を想像しようとしても無理だ。
 

ドラマ『海のはじまり』の古川琴音は

ベターッと白塗りしたようなメイクで、

外見はまたちがった印象だった。

一段と細めに見える。

ぱっちりした眼の有村架純と対照的だ。

過去の恋人水季役古川琴音と

現在の恋人役の有村架純は時間差で対立する二人である。

それが端的に視覚化されている。
内に秘密を抱えたまま生きてゆく水季は

雪乃とつながるものがある。