瀬田なつき監督の『PARKS』(2017年)には

心底驚かされました。

失われた曲の探究をテーマにした、

明るい青春音楽ものの映画だと思っていたのですが、

(ここからネタバレ)

最後になって、信じていた世界が瓦解し

暗黒に沈んで行くという急展開が待っていました。

後に濱口竜介監督の『ハッピーアワー』を見て、

ごく平凡な登場人物が、

得体の知れない存在に変貌する・

またはそう見えてしまうという恐怖を体験しましたが、

それと共通するものがあると思います。

瀬田監督のほかの作品は

ついつい見逃して『PARKS』一作しか見ていません。

瀬田監督の新作『異国日記』は

見逃さないようにしたいと思いました。

果たしてまた世界に亀裂は走るのか。

『違国日記』のストーリーは
 両親を交通事故で亡くした朝(早瀬憩)は

槙生(新垣結衣)に引き取られます。

槙生(まきお)は朝の母親の妹だったので

叔母と姪という関係ですが、

槙生は姉をとことん嫌っているので、

二人はほぼ初対面です。

槇生は少女小説家ですが、

片付けが苦手で人見知りというキャラクターです。

朝は高校に進学し、

友人やクラブのことなど新しい問題に直面して行きます。
新垣結衣、オーディションで選ばれた早瀬憩をはじめ、

いいキャストがそろっていました。

haricot rouge的には

伊礼姫奈という人のぱっちりした目に

ハートを射貫かれた感じです。

『マイ・ブロークン・マリコ』に出演されていたとか。

世界がひび割れて暗黒を見せた気がしたのは、

前半で朝の眼の前の鏡の中に母親が現れるシーン、

闇の中に朝一人がいるロングショット、あたりでした。

そのほか、朝が友人から別の女子に恋していると

告白された場所が誰もいない体育館、

というのが気になりました。

使い古された屋上は避けるにしても、

校庭とか開けた空間だと

もっと爽やかな印象になると思います。

体育館はちょっと間違えると

闇の世界に転じそうな不穏さを少し感じました。

朝がいた闇は、この体育館だったのかとも思えます。

相手への不満も含めて内心を吐露する少女たちは

結局仲よくじゃれ合っているようにも見えていました。

しかし、その映像を何度も脳内に召喚するうちに、

二人だけしかいない、

体育館という巨大ではあってもあくまでも閉ざされた空間が、

人間という謎を呑みこむ怪物のようにも感じられてきました。

ストーリー全体の流れは、

ひび割れた世界を修復する物語だったといえるでしょう。

異国台湾の『オールド・フォックス』は男二人の世帯、

異国ではない国の『違国日記』は

女二人が作り上げる新家庭。

「違国」とは何だろう。

それを知りたくて、原作ヤマシタトモコの『違国日記(1)』を

ダウンロードして読んでみました。
朝のセリフに

「槙生ちゃん 仕事入り込んでいるときちがう国にいるもん」

というのがありました。

違国とは、たとえ空間を共有していても、

ときに遮断される別の精神世界。

槙生が姉を嫌っているのは姉から否定され続けたから。

独立国扱いされてなかったということです。

槙生が違国に去っていっても待っていれば帰ってくる。

そうやって朝は日々を重ねていったのだ、

 

 

 

と私はタイトルの意味するところを理解しました。